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捨てられたと思ったら異世界に転生していた話  作者: ウィン
第十二章:竜人の少女編
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第四百二十一話:ユルグとの出会い

 翌日、私達は再び転移魔法でポッカの町にやってきた。

 エルの言っていた通り、町にいるのはほとんどが人間で、他の種族の人はほとんどいない。

 私が翼を出して歩こうものならすぐにでも何かしら言われそうだが、幸いにして私もエルも今は人間の姿なので特に何か言われることはない。

 さて、この町にユルグさんがいるとのことだが、どこにいるのだろうか?


「確か、お母さんによると、酒場とかで目撃情報があったんだっけ」


 ユルグさんは酒場を始めとした人の多く集まる場所で聞き込みを行っているようだった。

 まだこの町にいるならそこら辺を当たればいずれ会うことができるだろう。この姿で酒場はちょっとあれだけど……まあ、別に子供が酒飲んじゃいけないというルールはこの世界にはないし別に構わないか。


「えーと、酒場は……」


「あそこに一軒ありますね」


「あ、ホントだ。それじゃあ、探していきますか」


 ひとまず、近場にあった酒場から情報収集を開始することにした。

 まだ朝と言うこともあって酒場には人はそれほどいない。中には開店すらしていない店もあったので、意外にも捜索は難航した。

 まあ、それでも開いている店からはそれらしき人物の目撃情報は聞けたし、この町にいるというのは間違いないようだ。

 しばらく情報収集を続けていくと、さっきユルグさんらしき人を見たという話を聞けた。その場所に向かってみると、確かに緑髪の青年がいる。どうやら彼がユルグさんのようだ。


「やっと見つけた」


「それで、どう話しかけるんです?」


「うーん、とりあえず、私達がユーリさんを保護したという体で話していこうか」


 実際には竜が保護したんだけど、私達は竜の関係者だし別にいいだろう。もちろん、竜だと明かすことはないだろうけどね。

 ひとまず、まずは話しかけて見なければ始まらない。ちょっと緊張するけど、まあ、何とかなると信じよう。


「すいません、あなたがユルグさんですか?」


 私が話しけると、青年が振り向いた。

 冒険者風の装備を身につけてはいるが、武器の類は見当たらない。どうやら本当に素手一本で戦っているようだ。

 青年は私達の姿を認めると、訝しげな視線でこちらを見てきた。


「確かに俺はユルグだが、お前は誰だ?」


「いきなり話しかけてすいません。私はハクと言います。こっちはエルです」


「どうも」


 ひとまず自己紹介をしてお辞儀をすると、ユルグさんもまたお辞儀を返した。

 しかし、私達のことを不審に思っているのは変わらないのか、一定の距離を保ったまま近づいてこようとはしない。素手だからわからないけど、多分いつでも動けるようにしているんじゃないかな。


「それで、何の用だ?」


「あなたの探し人について、少しお話がありまして」


「……結理の事か? なぜお前らがそれを知っている」


「では、順に説明していきますね」


 私はひとまずアリシアの知り合いであるということ、そして、アリシアから探し人について聞いたこと、さらにそれらしき少女を保護したこと、しかしその少女は記憶を失っていることなどを伝える。

 すると、次第にユルグさんも興味を持ち始めたのか、警戒の色が薄くなっていった。


「手紙で言っていたハクと言うのはお前の事だったのか」


「ご存知でしたか?」


「アリシアの手紙にたまに書かれていた。転生者と言うなら多少は信用できるか」


 どうやらアリシアは私が転生者だということを手紙に書いていたらしい。

 まあ、転生者に私が転生者だとばれること自体は特に問題ではないが、流石にその正体が竜であるということまで書かれていたらちょっと問題だ。

 反応からして、多分そう言ったことは書かれていなかったんだろうけど、そういうことは事前に話しておいて欲しいものだ。


「それで、結理を保護したというのは本当なのか? 今どこにいるんだ? 無事なのか?」


「それをお話しする前に、まずはユルグさん、あなたの立ち位置を聞いておきたいのです」


「立ち位置?」


「はい。ユルグさんは聖教勇者連盟に所属していますよね?」


 さて、ここからが大事。ユルグさんが聖教勇者連盟に所属したのはごく最近の事だが、他のメンバーの反応を見る限り竜人に対してかなりの敵対心を持っていることは確かだ。

 こうして色々ほっつき歩いている以上、恐らく対竜グループではないと思うけど、もし他のメンバーと同じように敵対心を抱いているなら会わせるわけにはいかないのだ。


「確かにそうだが、それがどうした?」


「聖教勇者連盟は竜や竜人に対して強い敵対心を持っています。ユルグさんはそのことについてどう考えていますか?」


「なぜそんなことを聞く? それが結理とどう関係があるんだ?」


「どうか答えてください。重要なことなんです」


 ユルグさんは若干不機嫌そうに顔をしかめたが、しばらくしたら答えてくれた。


「別に、竜や竜人の事なんてどうとも思っていない。過去に色々やらかしたみたいだが、今の俺には関係のないことだし、結理さえ見つかればどうでもいいことだ」


 ユルグさんは何でもないことのようにそう言い切った。

 どうやら、聖教勇者連盟の教えは聞いているようだが、特に何とも思っていない様子。やはり、他のメンバーの異常なまでの執着は幼少期から教え込まれたが故の刷り込みのようなものなのかもしれない。あるいは、まだ洗脳されるまでに至っていないのか。

 元々、ユルグさんが聖教勇者連盟に入ったのは結理さんを探すことだったようだし、初めから利用するつもりでいたからそこまで恩義を感じていないのかもしれないね。

 嘘を言っている様子もないし、これなら会わせても大丈夫かもしれない。懸念事項の一つが片付いてほっとした。


「で、それが結理とどう関係するんだ?」


「私はユルグさんが竜人を差別するような人だったら会わせる気はありませんでした。こう言えば、なんとなく想像できませんか?」


「……つまり、結理は今竜人の姿だってことか?」


「そういうことです」


「マジか……」


 ユルグさんは顔を手で覆って少し困惑していた。

 まあ、今まで相手は人間であると信じて疑っていなかったようだし、それがいきなり竜人だと言われれば驚くのも無理はない。

 ただ、それでも相手は恋人だ。前世で死んで、再びこの世界で出会えるとしたらそれは奇跡以外の何物でもないのだから、たとえ相手がどんな姿でも受け入れる用意はあるのだろう。端々から漏れる笑みは恋人の無事を喜んでいるようにも見えた。


「……事情はわかった。それで、結理は今どこにいるんだ?」


「ここからかなり遠いので、こちらから連れてきたいと思っています。なので、ユルグさんはしばらくこの町に滞在していてくれませんか?」


「それは構わないが、どれくらいかかる?」


「そうですね、恐らく10~12日ほどかと」


「そんなに遠いのか……わかった、待っていよう」


 竜の谷からユーリさんを連れ出す場合、竜の背に乗せて運ぶ必要がある。その場合、大陸を挟む関係でそれくらいの時間がかかるのだ。

 この町に竜人がすんなり入れるかという疑問もあるが、そこらへんは一時的に町の外に出てもらうなりすれば問題はない。ただ会うだけなら場所はどこでも構わないのだから。

 10日も待つのは退屈だろうが、まあその辺りはようやく探し人が見つかるということで我慢してもらおう。恐らく冒険者だろうし、それくらいの日銭は稼げるはずだ。


「それでは、今日はこの辺りで失礼します」


「ああ。無事に連れてきてくれよ」


 そう言ってユルグさんと別れる。

 さて、案外すんなり事が運んで少々拍子抜けしているが、楽な方がいいことに変わりはない。

 これでようやく問題を片付けることができると、若干肩の荷が下りた気がした。

 感想ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ユルグさんがとりあえず狂信者じゃなくてホッとひと安心(・Д・)ほかに同行者もなく単独行みたいなのもラッキーでしたね。 [気になる点] ユルグ「過去に色々やらかしたみたいだが」 (*´-`)…
[一言] よし。前祝に飲んだくれて待って居よう( ^O^)/C □
[一言] 驚くほどすんなりと話が進んだな……
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