第四百十八話:結界魔道具の産地
「此度は本当に助かった。礼を言う、ありがとう」
「お役に立てたようなら何よりです」
私は今、王城のいつもの部屋に通されて王様と対面している。
理由としては今回の件のお礼、と言うことで、大会終了後に呼び出されたのだ。
確かに、素直に観客に回れなかったのは残念ではあるけど、場所としては最高の観戦場所だったし、応援はできなかったとはいえ試合を間近に見られたのはいい点でもあった。それに、苦労したとはいえ結果的に新しい魔法を覚えられたわけだし、特に疲れるようなこともなかったので私は全然気にしていない。
まあ、来年もやってくれと言われたらちょっと思うところはあるけど、王様の事だから恐らくすでに非殺傷魔道具の取り寄せは行っていることだろう。むしろしてなかったらびっくりだ。
「何か褒美を取らせたいところだが、何か希望はあるか?」
「うーん、今のところはあまり」
現状、王様に頼みたいようなことはあまりない。竜の身ではあるけど、これからもこの町に置いて欲しいとか、何か面倒事が起きた時に手を貸してほしいとか、今軟禁しているあの転生者達をよろしくお願いしたいとかそんなものだろうか。
褒美を取らせると言っても今回の事を知っているのはごくわずかな人物だけだし、公に褒美を取らせるってことはしないだろうからこれは王様個人のお礼と言うことになる。
今更お金やらなんやらを要求するというのも違うし、今調べているユルグさんの行方に関してもどう考えても国をまたぐことだから頼みにくい。
だから、現状で頼みたいことと言うのはなかった。
「そうか。では貸しと言うことにしておこう。何かあれば便宜を図るということでどうだろうか」
「それでいいなら構いませんよ」
転生者の事を任せている時点でむしろこちらの方が借りを作っているからそれで帳消しになりそうではあるけど、王様がそう言うならそういうことにしておこうか。
私やエルがこの町に住み、学園に通えるのはすべて王様のおかげだ。だから、王様との関係は良好のままでいたい。向こうがそう提案しているなら乗っておけばいいだろう。
もちろん、このままエスカレートして無理難題を吹っ掛けるのが普通になってきたら考えるけどね。
「あ、そういえばあの魔道具。ルナルガ大陸から仕入れてるって聞きましたが、どこの国なんです?」
「ああ、確かヒノモト帝国と言う国だったはずだ」
そこで出てくるのか、ヒノモト。闘技大会でヒノモトの剣士っていう謎の人物が出てきた時から気になっていたけど、まさか本当にそういう国があるとは思わなかった。
あの魔道具もどうやら転生者が関わっているようだし、名前からしてももしかしたら転生者が作り上げた国とかかもしれないね。
「どんな国かわかりますか?」
「ここ数十年でできた比較的新しい国だな。多種族国家らしく、人間を始めとした色々な種族が住んでいると聞く。風の噂では、魔物すら引き入れていると聞くな」
「ほぉ、魔物もですか」
「ああ。恐らく優秀なテイマーがいるのだろう。さらに、結界魔道具を始めとした防衛に欠かせない魔道具を作り出している国でもある。その重要性は遠く離れた我が国まで交易しているという点でもわかるだろう」
確かに、結界魔道具はかなり重要な魔道具だ。と言うのも、これがなければ辺境にあるような小さな村は魔物の被害が絶えなくなるから。
以前訪れた獣人の集落でも姿を消す結界が張られていたし、僻地で住む者にとってはまさに必須ともいえる魔道具だろう。
そうでなくても、要所の町では単純に防衛力を上げられるし、設定次第では不意の侵略に対しても時間を稼ぐことができる。
まあ、流石に都市一つ覆えるほどの結界を張れるような魔道具はないと思うが、複数あればそれも補えるし、これを置いておくだけで防衛力が上がるというのは便利なものだ。
だが、これを作れるのは今のところこのヒノモト帝国のみらしい。しかも、技術を独占しているので他の国が作ることはできない。
なんか色々厄介事の匂いがするけど、大丈夫なんだろうか。侵略とかされたら目も当てられないけど。
いや、そのための魔物かな。兵士は基本的に対人を想定して鍛えられているものだし、そこで魔物の相手をするのは結構厄介そう。
まあ、転生者がいるならその対策もしてそうだよね。転生者関連で聖教勇者連盟との関係が気になるけど。
「ちょっと興味ありますね」
「通常なら船を使っておよそ五か月はかかるな。そなたならもう少し短縮できるかもしれんが……行くのか?」
「いえ、今はやることがあるので。でも、そのうち行ってみたいですね」
結界魔道具の産地で、魔物を従えていて、しかも転生者が関連していそうとなれば行ってみたい気持ちも強い。
もし、転生者が作り上げた国だというならそれっぽい独自の文化を築いているかもしれないし、ワンチャン久し振りに和食が食べられるかもという期待もある。
いや、作ろうと思えばこの大陸でも作れるけど、ここは基本的にパン食なので米の流通が相当少ない。味噌や醤油はあるのに。
だから、作ろうと思うと結構大変なのだ。だから、本場があるならそっちで食べてみたいよねって。
まあ、今はユルグさんの捜索の方が先だし、当分先になるだろうけどね。
「それじゃあ、今日はこの辺で失礼しますね」
「うむ。また何かあれば頼みごとをするかもしれんが、その時は頼む」
「はい。出来る限りは協力しましょう」
そう言って城を後にする。
外はもうすっかり夕方だ。少し話しすぎたかもしれない。
今日はちゃんと家に帰ると言っているのでさっさと帰らないとまたお兄ちゃんが心配してしまう。
というか、せっかく優勝したのだから祝ってやらなければ可哀そうだろう。そういうわけで、急いで帰宅することにした。
「ただいま」
「お帰り。遅かったね」
「うん、ちょっと話が長引いて」
出迎えてくれたお姉ちゃんに軽く返しながらリビングへ向かう。
リビングにはお兄ちゃんがいた。どうやら刀の手入れをしているようで、抜身の刀を膝に置いている。
この刀、見た感じかなりの業物だけど、一体どこで手に入れたんだろうか。ミスリルっぽいけど、全体的に黒っぽいしそれだけじゃなさそう。
「お、ハク。帰ったか」
「うん、ただいまお兄ちゃん」
お兄ちゃんは私の姿を見るなり刀をしまい、抱き上げてくる。
割と細身なのに力は強い。まあ、あんな大きな刀を使っているのだから当たり前とも言えるけど、流石はAランク冒険者である。
「お兄ちゃん、優勝おめでとう」
「おう。まあ、まだまだ妹には負けんさ」
「お姉ちゃんも惜しかったね」
「ありがとう。最初からもっと速くすればよかったかもね」
あれより速くなるのか。お姉ちゃんは一体どこに向かってるんだろう。
それを倒すお兄ちゃんも大概だけど、うちの身内は化け物しかいないんだろうか。私やエルは竜だからで説明ができるけど、お兄ちゃんとお姉ちゃんは普通の人間のはずなんだけどなぁ。
「今日はいい肉を買ってきたから、パーティだな」
「知り合いを呼んでるから、ハクも呼びたい人がいたら呼ぶといいよ」
「あ、それじゃあサリアとかアリシアとか呼ぼうかな」
優勝と準優勝の賞金によって資金は潤沢にある。どうやら優勝祝いと言うことで奮発してきたようだ。
せっかく家も買ったことだし、みんなを家に招待するのも悪くない。
私は早速パーティに誘うために家を出た。
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