第四百十二話:魔道具の解析
今まで転生者に【鑑定】をしたことがなかったから知らなかったけど、どうやら転生者に【鑑定】をするとこういう風に表示されるらしい。
魔道具を作ってるってことは魔道具職人なんだろうけど、それでいてさらに空間属性まで持っているというとんでもない人になる。
いや、これは竜が化けた存在だと考えるのが妥当かな? 竜人の転生者がいるのだから、竜の転生者がいたとしても不思議ではない。私と言う前例もあることだし。
一体どんな人なのか気になる所だけど、流石に今からこの魔道具が作られた国に行って確かめるというわけにもいかないし、放置する他ないか。いや、めっちゃ気にはなるんだけどね。
「……さて、とりあえず解析」
魔道具には回路があり、それを用いて魔石の魔力を循環させ、望んだ効果を引き出すように作られている。だから、回路を見ればその魔道具がどのような魔法に流用できるかもわかるのだ。
とはいえ、この魔道具は継ぎ目もほとんどなく、魔石も綺麗に硝子で閉じられている。
これ、相当な技術じゃない? 少なくとも、この大陸では再現不可能だと思う。めっちゃ研究すれば行けるかもしれないけど。
とりあえず、もう壊れているということで処分も任されたことだし、遠慮なくばらすことができるのが救いだ。
さて、中身はどうなってるかな?
「……うわ」
端っこの方を風の刃で切り、中身を見てみる。すると、複雑そうな回路がいくつもびっしりと並べられていた。
魔道具の回路は基本的に魔石の周辺にしか置かれない。大体の場合は魔石本来の性質を利用するだけのため、あまり複雑な回路は必要ないのだ。
しかし、この魔道具は違う。これはこの箱丸ごと回路と言ってもいい。それくらい綿密に描かれた回路だ。
まあ確かに、発動するだけで一定の空間内で発生した攻撃をすべて非殺傷にするなんて魔道具なんだからそれくらい精密なものでもおかしくはないけど、こんな回路を作れる魔道具職人がいると思うと少しびっくりである。
これは、転生者の能力で何かしらやっていそうだな。どんな能力かは知らないけど、絶対応用している気がする。
「えっと、これが、こうなって……?」
私も一時は魔道具職人の工房に通っていたため、ある程度の回路は読み解くことができる。しかし、流石にここまで精密な回路となるとかなり時間がかかるだろう。
やっていること自体は明確だからそれに似た回路を見つけられれば後は何とかなる気がするけど、それまでが大変そう。
これ、お兄ちゃん達の鍛錬が終わるまでに解析してやろうと思ったけど無理だ。本格的に挑まないと絶対解析できない。
うーん、あと三日でしょ? 間に合うかな……。
「最悪似たような魔法を開発するか……」
結界内の攻撃すべてに魔力のコーティングを施すとか、攻撃のダメージを強制的に受け流すようにするとか、やりようはいくつかある。ただ、それだといつもの闘技大会と違う感じになりそうなので、出来る限り魔道具と同じ機能を持つ魔法を作りたいところ。
「ハク、大丈夫?」
「大丈夫、まだなんとかなる……」
アリアに心配されつつ、未知の魔道具に悪戦苦闘する。
結局、日が暮れるまで挑んでいたが、解析が終わることはなかった。
翌日。あれからさらに徹夜で挑んでみたが、一応キーとなる回路を発見することには成功した。ただ、それに関しても色々な回路に複雑に繋がっており、未だに全容ははっきりしない。
これは三徹もあり得るかもしれない。しかも、初日はそのまま徹夜明けで挑まなくてはならないと。うーん、地獄。
安請け合いするんじゃなかったかなぁ。でも、私以外でできそうな人はいないし、私がやるしかないよねぇ。
「ハク、大丈夫?」
「お姉ちゃん。うん、まだ大丈夫」
部分竜化することによって眠気を一時的に克服していたが、それでも若干の倦怠感はある。
心配そうに見てくるお姉ちゃんに軽く手を振りながら、朝食後に再び挑むことになった。
残念ではあるが、今はもうお姉ちゃん達を森に連れていく余裕はない。だから、それに関してはエルに任せておくことにした。
力になれないのは残念だけど、受けた以上はしっかり依頼をこなさなくてはならない。というか、出来なかったら死人が増える。絶対に完走しないと。
「お困りですか?」
部屋に戻って魔道具と格闘していると、不意に声をかけられた。顔を上げてみると、そこには空間の大精霊であるミホさんがふよふよ浮いていた。
「あれ、ミホさん? お兄ちゃんと一緒に行ったんじゃなかったんですか?」
「いえ、少し大変そうでしたのでお手伝いしようかと思いまして」
そう言って傍らに着地してくる。
精霊とは言っても、私よりも背が高いので見上げる形になる。そう考えると、精霊って結構大きいよね。
それはともかく、いつもお兄ちゃんにべったりなミホさんがお兄ちゃんから離れるとは珍しい。
私はそんな切羽詰まっているように見えたんだろうか? だとしたらちょっと悪いことしたな。
「それはありがたいですけど、いいんですか?」
「はい。ラルド様もそれを望んでいるようですし」
ああ、これはお兄ちゃんに頼まれたっぽいな。私が徹夜しているのを見て、心配してミホさんに手を貸すように頼んでくれたんだろう。
うーん、申し訳ない。本当なら一人でやらなきゃいけないことなのに。
でも、空間魔法の達人であるミホさんが手伝ってくれるならだいぶ助かるのは事実。ここは大人しく手を借りることにしようか。
「ありがとうございます。それじゃあ、よろしくお願いします」
「わかりました」
そういうわけで、ミホさんとの共同作業が始まった。
流石空間の精霊だけあって空間魔法はお手の物のようで、初めて見るはずの魔道具の回路もなんとなく理解しているようだった。というか、あっさりとその魔法を再現してみせた。
なんでも、回路を見た瞬間にこれはできると確信したらしい。確かにミホさんも転生者ではあるけど、結構な規格外だよね。いや、私も人のこと言えないか。
それはともかく、ミホさんが魔法を再現してくれたおかげで後はそれを真似ればいいということになり、私の身体のスペックもあって早々に非殺傷魔法を修得することができた。
昨日の徹夜は何だったのか。流石ミホさんである。
「ありがとうございますミホさん。おかげで助かりました」
「いえいえ。力になれたようで何よりです」
転生者は大なり小なり能力を持っているけれど、ミホさんのは想像以上に応用が効くようだ。とにかく、空間魔法と名のつくものは彼女に任せておけば大抵は何とかなりそうである。
「ぐぬぬ……負けた……」
隣でアリアが悔しげに唸っている。
アリアはアリアでかなり手伝ってくれていたから別に負けたとかそういうのは関係ないと思うんだけど、私のパートナーとして解決に力を貸せなかったことを悔やんでいるらしい。
そんなこと気にしなくてもいいのにね。アリアは傍にいてくれるだけで私の癒しなんだから。
「アリアもありがとう。助かったよ」
「そ、そう? それならいいんだけど」
アリアの頭を撫でながら、完成した非殺傷魔法の確認をする。
内容としては三重魔法陣が必要。かなり細かな設定があるため、範囲が増えたり非殺傷にする攻撃の種類を増やす度にさらに魔法陣は増えていく感じだ。
まあ、闘技大会に合わせるのだったら三重魔法陣で事足りるとは思うけど、他で使う場面があったらその時に考えようか。
後はこれを闘技大会までにマスターしておくだけ。そう考えると、早めに完成してよかったとほっと胸を撫で下ろした。
感想ありがとうございます。