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捨てられたと思ったら異世界に転生していた話  作者: ウィン
第十二章:竜人の少女編
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第四百八話:非殺傷魔道具

 非殺傷魔道具の代わりをしろというのは、試合の間、常に魔法を維持し続けろと言うことに他ならない。

 基本的に維持系の魔法と言うのはかなり燃費が悪く、並の魔術師なら10分も持てばいい方だ。確かに、闘技大会の試合は数分で決着がつくことも多いが、泥沼と化して長引くことも多々ある。そんな中、切れたら選手の命に関わるような魔法を維持し続けろって言うのは死ねと言っているようなものだった。

 いや、まあ、それは並の魔術師の話であって私なら多分大丈夫だと思うよ? 非殺傷魔道具とやらがどのような魔法かは知らないけど、少し解析すればできるようになるだろうし、維持も有り余る魔力があるから問題ない。

 多分、私が竜だと知っているからそんな無茶な頼みをしたんだろうけど、こうしてぎりぎりになって呼び出したあたり最初は普通に宮廷魔術師であるルシエルさんに頼んでいそうではある。

 なんでそんな重要なことにこれまで気が付かなかったんだろうか。危機管理能力を疑ってしまう。


「……まあ、構いませんけど、その魔道具はもう修理できないのですか?」


「修理しようにも適合する属性を持った術者がおらん。どうも、調べてみても未知の属性なものでな」


「未知の属性?」


「これは見た方が早いだろう。そなたならわかるかもしれん」


 そう言って王様は部屋の外に待機していた執事に合図を送ると、すぐに件の魔道具が運ばれてきた。

 なんだかかなり大きい。見た目は長方形の箱のような形だが、大の大人が二人がかりでようやく持てるような大きさだ。

 上面の中央には魔石と思われる大きな石がはめ込まれており、それを囲うように角錐型に硝子で覆われている。

 魔石はおおよそ色でその属性がわかるようになっているけど、確かにこの魔石はどの属性にも適さないような透明な色をしていた。


「これは……」


「これが作られたのはルナルガ大陸の辺境の国らしいのだが、その稀に見る性能に今では多くの国が防衛のために仕入れている。これだけでなく、結界魔道具もその国で作られたらしいな」


 王様が説明してくれているが、私はその魔石の事が気になって見つめてしまった。

 この魔石、恐らくだけど空間属性の魔石だ。使われている用途から考えても、空間魔法が使われていることがわかる。

 なるほど、そりゃ適任はいないか。この世界では属性は火、土、風、水の基本属性と光、闇、氷、雷の特殊属性の八種類が知られているだけで空間属性と言うものは知られていない。

 これは、空間魔法の燃費がかなり悪く、人族で使えるのはエルフがかなり無理をした時くらいなものだからだ。ほぼ竜専用の属性と言っても過言ではなく、だからこそ知られていなくても不思議ではない。

 この使えるというのは魔物にも同様なことが言え、空間の魔石を採取できるような魔物は存在しない。だから、そもそもの話空間属性の魔石なんてあるわけないのだ。

 空間属性の魔石を作るには、空間属性の魔力を流し込んで変換するしかない。すなわち、その人物は空間魔法を扱えるということだ。

 現状、竜以外に空間魔法を使えないことを考えると、竜が作ったと考えざるを得ない。

 特にそういう話は聞いていないんだけど、そんな事業を展開していたんだろうか。


「直せれば手っ取り早いのだがな。流石に、こうして割れてしまっている以上は新たに買い直すしか方法はない」


「予備とかはないんですか?」


「かなり貴重なものなのでな。結界の魔道具ならあるが、非殺傷魔道具はないな」


 私やエルならこの魔道具を修理することも可能だったが、こうして魔石が割れてしまっている以上はそれも叶わない。新たに仕入れようにも距離が離れすぎているし、届くにはかなりの時間がかかるため少なくとも今年の闘技大会には絶対に間に合わない。

 今更闘技大会を中止にするわけにもいかないし、王様としても私に頼るのは苦肉の策だったのかもしれないね。


「それで、できそうか?」


「多分、大丈夫だと思います。でも、解析しないといけないので、この魔道具を借りていってもよろしいですか?」


「それは構わぬ。もう壊れてしまったものだしな、引き取ってくれても構わない」


 残り三日でこの魔法をものにしないといけないと考えるとちょっと忙しくなりそうだけど、出来ないわけじゃない。お兄ちゃんとお姉ちゃんも出るわけだし、ここはきっちり仕事しないといけないだろう。

 私は魔道具を【ストレージ】にしまい込む。解析は家に帰ってからね。


「すまん。本当はこんなことで力を借りるのは筋違いだと思うのだが、どうにもできなくてな」


「構いませんよ。王様には恩がありますし、私としても闘技大会が潰れるのは嫌なので」


 まあ、嫌と言ってもお姉ちゃん達が出ないなら別に潰れてもいいとは思ってるけどね。私に利益があるからこその話だ。

 王様は少し申し訳なさそうな顔をしていたが、私の言葉にほっと胸を撫で下ろす。


「ありがとう。この礼は必ずしよう」


「では、もしもの時はお願いします」


 私やエルがこうして王都にいられるのはこの王様がいてこそだ。普通の国だったら自分の住む町に竜が住むことを許可なんてしないだろうし、即刻聖教勇者連盟に報告して追い出しにかかるはずである。

 それをこうして住まわせてくれるだけでなく、学園にまで通わせてくれているのだ、このくらいの頼みは聞いてあげるべきだろう。


「そういえば、アーネさん達はどうなりました?」


「例の聖教勇者連盟の残党か。それなら、今は中央部に家を与えてそこで軟禁しておる」


 アーネさん達は以前鳥獣人達を竜人として殺そうとしてきた聖教勇者連盟の一員だ。あの後、あのままそこに残していくわけにもいかずに連れて帰ってきたが、どうやら今では元気にやっているらしい。

 と言っても、私からしたら竜人を数多く殺してきた殺人鬼なのでまだ完全に気を許すことはできないが、だからといって仮にも聖教勇者連盟の人間を処刑や拷問などできるはずもなく、こうして軟禁するに至っているようだ。

 まあ、私としては変な気さえ起こさないでいてくれたらそれでいい。できればカエデさんと同じようにこちらに同調してくれると嬉しいけど、こっちは一筋縄ではいかないだろうし。


「ただ、最近は家から出せとせっついてきておるな。逆らうなら聖教勇者連盟の庇護対象から外すとも言っている」


「まあ、そうなりますよね」


 あの時相当痛めつけたとはいえ、喉元過ぎれば熱さ忘れる。今までさんざん勇者気取りで好き勝手やってきた連中がその程度の事で反省するわけもない。

 いっそのこと怪我は治さない方がよかっただろうか。部位欠損でもしていればそれを見る度にフラッシュバックして戦意をそいでくれるかもしれないのに。

 まあ、とは言っても転生者で私の同郷なので、そういうのはどうにも気が進まないが。


「対応はどうしているのです?」


「今のところは無視を貫いている。だが、最近では実力行使に出てくることもあると報告があった。そう長くは持たないだろう」


 彼らは転生者だけあって特殊な能力を持っている。特に厄介なのはプラーガさんだろうか。時間を自在に速くしたり遅くできたりするのは脅威以外の何物でもない。

 ただ、三人の中でもプラーガさんだけは反抗するのに消極的なようで、だからこそまだなんとかなっていると言ったところらしい。

 でも、早いうちに手を打った方がいいかもね。闘技大会のことに転生者の事、それに記憶喪失の竜人の事。なんでこうも忙しくなっていくのかわからないけど、一つずつ片付けていくことにしよう。

 ひとまず、転生者関連は早めに対処した方がいいと思ったので、彼らが軟禁されている家の場所を教えてもらった。

 感想ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] お姉さんとお兄さんの為にも頑張らなければいけない( ˘ω˘ )
[一言] 新しい魔道具の研究が出来る事に無意識にハクちゃんの顔がほころんでいそう 転生者は好き勝手やっていると竜のパワー全開のめっ!(滅っ!)が繰り出されちゃうぞ
[気になる点] 魔法的に幽閉しているかと思っていたら屋敷に軟禁するぐらいのゆるい監視下に置かれていたチート転生者たち勇者の金魚の糞、やはりルナやセシルぐらいのトラウマバトルで精神をバキバキにへし折って…
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