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捨てられたと思ったら異世界に転生していた話  作者: ウィン
第十二章:竜人の少女編
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第四百七話:王様の無茶振り

 今までは寮生活だったが、お兄ちゃんが帰ってきたことをきっかけに家を買ったので、休み中は寮ではなく家で過ごすことにしている。

 ホムラに貰った宝石を少し売ってできたお金で購入した家ではあるが、お兄ちゃんとお姉ちゃん、それにエルとアリア、ミホさんの六人で住むには少々広い。

 元は下級貴族のお屋敷だったという話だが、平民出身の私達からしたら広すぎて落ち着かないくらいだ。

 というか、掃除がかなり大変のようで、空き部屋に関しては余裕がなく、埃が溜まる一方である。

 これはもうメイドでも雇った方がいいんだろうか。今のところ、あのダンジョンがある限り資金は無限にあるようなものだし、お給金には困らないだろう。メイドと言う存在に慣れるかどうかは置いておいて。


「ハク、おはよう。今日も可愛いな」


「お兄ちゃん、おはよう」


 朝食の準備をしていると、お兄ちゃんが顔を出してくる。

 この家の料理担当は一応お姉ちゃんと言うことになっているが、冒険者生活が長いこともあって簡単な料理以外はあまり作れないらしく、休みの間は私が担当することにしているのだ。

 これでも一人暮らししていたからね。ある程度の料理はできる。みんなにも好評のようで、少し誇らしい。

 お姉ちゃんにも教えていっているから、その内お姉ちゃんが再現してくれると嬉しいけどね。


「お姉ちゃんはどうしたの?」


「まだ寝てるんじゃねぇか? ほら、この家のベッドかなり寝心地いいから」


「まあ、確かにね」


 元貴族の家と言うこともあって、残されていた調度品はそこそこ豪華なもので、特にベッドに関しては寮のベッドと遜色ないくらいには寝心地がいい。

 冒険者の基本的な寝床は宿屋にある硬いベッドか、野宿ならば地面に毛布一枚と言うこともある厳しい就寝環境だ。なので、寝心地が良く、さらに安全が保障されている場所という要素が合わされば、ある程度の寝坊は仕方がないと言うもの。

 私はもう慣れてしまったけどね。悲しいことに。


「そろそろご飯できるから、起こしてきてくれない?」


「わかった。んじゃ、行ってくる」


 一瞬、女性の寝床に男性が行くのはどうかとも思ったが、お兄ちゃんなら問題はないだろう。兄妹だし。でも、エルやアリアに頼んでもよかったなと少し後悔した。

 しばらくしてお姉ちゃんと共にお兄ちゃんが戻ってきて、みんなで朝食を取る。

 簡単な料理とはいえ、この世界基準なら相当手の込んだ部類に入るらしい。あっという間に食べ終え、食後の休憩に入った。


「そういえば、昨日ハク宛てに手紙が届いていたよ」


「手紙?」


「うん。多分王宮からだと思うんだけど」


 そう言って、お姉ちゃんは一通の手紙を差し出してくる。その蝋封を見ると、確かに王家の紋章が刻まれていた。

 はて、何だろうか。思い当たるものとしては王様に預けた転生者達の事だけど、それの関係だろうか?

 蝋封を切り、中の手紙を確認してみる。定型文の挨拶が続いた後、闘技大会について相談があるので王城に来てほしいという旨が書かれていた。


「うーん?」


「どうかした?」


「いや、城に来てほしいって書いてあるんだけど、闘技大会の事でって言うのが気になって」


 闘技大会に関しては今年は参加しないという方向で考えている。そのことはお姉ちゃん達にしか伝えていないが、もしかして今年も参加されたらまずいから辞退するようにとでもいうつもりなのだろうか。

 でも、だとしたらわざわざ城に来いなんて言わずにそのまま書く気がするし、何か別の意図がある気がする。

 なんだろう。前回優勝者としてエキシビションマッチでもしろって話かな? もしそうだとしたらすっごく嫌だけど……。

 せっかく優勝したというほとぼりが冷めてきたのに、ここでまた勝つようなことがあったらまた追われる羽目になる。それに、今年の優勝候補はお兄ちゃんかお姉ちゃんだし、少し興味があるとはいえこの二人とは戦いたくはない。

 うーん、まあ手紙で命令してこないだけましだし、もしそういう話なら辞退してしまおう。どうせこれまでエキシビションマッチなんてやってこなかったわけだし、わざわざ追加する必要もあるまい。


「日時は書かれているの?」


「出来るだけ近日中にだって。闘技大会関連みたいだし、もう時間がないね」


 闘技大会までもう三日と迫っている。もし闘技大会で何かやれと言うなら今日中にでも行かないとまずいだろう。

 ヒヒイロカネの研究でもしようかと思っていたけど、そういうことなら仕方がない。早めに行くとしよう。


「とりあえず、この後行ってみるよ」


「お供いたします」


「うん、お願いね」


 王様としてもエルの安否は知っておきたいところだろうし、一人でこいとも書かれていないから別に問題はないだろう。王様とはもう知らない仲ではないわけだし。

 さて、それでは行くとしよう。一応、いつもよりきちっとした感じの服を選んで着替え、エルを伴って王城へと向かった。


 門番に手紙を見せると、すぐに城の内部へと案内される。そして、いつもの応接室へと通されるとそこにはすでに王様の姿があった。


「おお、ハク、よく来てくれた」


「ただいま参上しました。エルも同伴させましたが、よろしかったでしょうか?」


「構わぬよ。さ、まずは座るがよい」


 促されるままにソファに腰かけると、それを見計らったかのようにメイドがお茶を用意する。

 お互いに少し唇を湿らせた後、口を開いたのは王様の方だった。


「さて、ハク。そなたを呼んだのは他でもない、近日行われる闘技大会で頼みたいことがあるのだ」


「頼みたいことですか? それはなんでしょう?」


「うむ、実はな……」


 王様の話では、闘技大会は多くの強者が集まる戦いの場だが、それが成り立っているのはひとえに非殺傷魔道具のおかげらしい。

 非殺傷魔道具とは、一定の範囲内にいる者の攻撃を非殺傷、つまり威力を和らげる働きがあり、これのおかげでどんな武器や魔法を使おうがあまり死人が出ないようになっているとのこと。

 確かに、私が出た時も放った魔法はすべて丸みを帯びていていまいち威力に欠けていた。いや、もちろん速度とかはそのままなので直撃すればハンマーで殴られたような衝撃にはなると思うが、確かにそのまま当たるよりは死ぬ確率はぐっと下がる。

 だが、さっきも言ったように速度とかまでは殺せないので、重量武器、例えばハンマーとか斧とかは仮に刃がなくなってもかなりの威力が出せるため、基本的には有利になる。逆に、魔法は純粋な打撃になるので威力減衰が激しく、一対一と言う状況もあって魔術師はかなり不利だ。


「で、その非殺傷魔道具なのだがな、先日の最終メンテナンスで致命的な故障が見つかったのだ」


「故障ですか。魔石の魔力でも切れていましたか?」


「うむ。しかも、その魔力を補充しようとメンテナンス担当の者が勝手に魔力を注ぎ込んだ結果、一部が割れてしまった」


 魔道具は基本的に魔石の魔力を使って動いているため、魔石の魔力がなくなった時点で使い物にならなくなる。

 修理する方法は、魔石自体を交換するか、魔石に魔力を補充するかだ。前者の方法は魔道具によってはできないので、基本的には後者の方法を取ることになる。

 ただ、単純に補充すると言っても簡単なことではない。確かに、魔石は魔力を流すことによってそれを溜めることができるが、かなり繊細なものなので強く流しすぎれば簡単壊れてしまう。その上、魔石にも属性があるので、違う属性の魔力を流してしまうと変換されてしまい、目的の用途を果たさなくなってしまう。

 だから、それらの魔道具を修理するには専門の魔道具職人を呼ぶ必要があり、手間がかかるのだ。もちろん、素人がやろうとすればすぐに壊してしまうのが落ちだろう。

 今回はその典型的なパターンだった。


「では、頼みというのはその割れてしまった魔石の代わりを探してほしい、とかですか?」


「いや、あの魔石は特注品でな。おいそれと用意できるものではないのだ」


「なら、なにを?」


「ハクは魔法が得意だっただろう? だから、壊れた非殺傷魔道具の代わりに魔法でその役目を担ってもらいたいのだ」


 王様が言ってきたのはかなりの無茶振りだった。

 感想、誤字報告ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] ちょっと宝石売って家を買う 金銭感覚が壊れとるなー
[一言] 何という無茶振り……(゜ω゜)
[良い点] 想像通り朝も早よからシスコン愛溢れるセリフで登場のラルド兄(´艸`*)ぶれぬ心情に拍手を送ります♪ [気になる点] 魔道具の代わりをハクさんの魔力パワーで間に合わせるってのは深謀遠慮のバス…
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