第四百五話:手がかり
王都に戻った後、私はひとまずアリシアを訪ねることにした。
夏休み中だから今は家に帰っているとはいえ、アリシアの実家はこの王都にある。真っ先に尋ねるにはちょうどいい人だった。
戻ってきた足ですぐにアリシアの家に行ってみると、ちょうど家にいたらしく、すぐに部屋へと通された。
本来なら応接室に通されるべきところだけど、そこは私とアリシアの仲だし、家の人も私達の関係は知っているのでこちらに通したんだろう。
「で、急に来てどうしたの? なんだか急いでるみたいだけど」
「急に来てごめん。ちょっと聞きたいことがあって」
私は竜の谷で出会った竜人の話をする。
アリシアの顔を見て思ったが、ユーリさんってアリシアと顔そっくりなんだよね。何か関係あるんだろうか?
顔の特徴も含めて全部話すと、アリシアはうーんと少し悩んだ後に口を開いた。
「ユーリは知らないけど、結理なら知ってるわ」
「え、ホント?」
「ええ。それに私の顔にそっくりって言うなら、多分間違いないと思うわ」
空振り覚悟で挑んだというのに、アリシアは何やら心当たりがあるようだった。
ユーリでなく結理、確かに、似た名前ではあるけど、それがなぜ同一人物だとわかるんだろうか? アリシアと顔が似てるから?
「ハク、前にユルグって言う転生者に会ったって話はしたわよね?」
「え? うん、確か最初に会った時に言ってたね」
アリシアと初めて出会った時、転生者かどうかを聞かれて、アリシアが自分も転生者だとばらしたことで意気投合し、その後他の転生者の話を色々聞かせてもらったのだ。
ユルグはその時に出てきた名前の一人で、確か、アリシアが馬車に轢かれそうになったのを馬を強引に止めて助けたって話だったかな?
「そのユルグが探してるのが結理で、結理は今の私の顔にそっくりって話をしたのは覚えてない?」
「……ああ、そういえば!」
そうだ。確か、ユルグさんは前世で恋人と共に最期を迎え、そのことから一緒に転生しているのではないかと思って旅をしているという話だったはずだ。
もちろん、そのアリシアの顔にそっくりと言うのは前世での事だろうが、何らかの理由でこの世界でも同じ顔だとするならば、ユーリさんはユルグさんが探している結理さんと言う可能性は高い。
「なら、ユルグさんに会わせて話を聞けば記憶を思い出すかも?」
「もしかしたらね」
ユルグさんはこの世界に来てからずっと旅をしてきたようだし、この世界でのユーリさんのことはほとんど知らないだろう。でも、前世の記憶でも知っている人がいるなら、記憶の欠落を埋めることができるかもしれない。
「ただ、一つ問題があるわ」
「問題?」
「ユルグがあの後どうなったか、ハクには話していたでしょう?」
「……ああ、聖教勇者連盟」
ユルグさんは旅の途中で聖教勇者連盟の勧誘を受けてそのまま入ったのだ。
これは転生者が多く集まる聖教勇者連盟なら探し人の情報も手に入るのではないかと言うことを想定してのことで、実際聖教勇者連盟なら多くの転生者を保護しているし、それは理に適ったことだっただろう。
しかし、実際にはユーリさんは竜人であり、聖教勇者連盟の敵である。いくら転生者とはいえ、大敵である竜人を保護することは聖教勇者連盟にとってルールに反することだろうし、いくら転生者に甘いとは言ってもそこは通らないだろう。
つまり、正面から堂々と会わせに行くにはリスクが高すぎるのだ。
「面倒なところに入っちゃったね……」
「まあ、あの時はあれが最善だっただろうし、仕方ないんじゃないかしら」
こうなると、迂闊にユルグさんと連絡を取るのは危険だ。アリシアはユルグさんと手紙のやり取りをしているらしいが、今ならば聖教勇者連盟が検閲している可能性もあるし、下手なことは書けない。
会わせたい人がいる、なんて書いたらユルグさんの目的を鑑みてもそれが転生者である可能性は高いし、一緒に聖教勇者連盟の連中がついてくる可能性は非常に高い。
もし呼び出すなら何かしら言い訳を考えなければいけないわけだけど、仮にうまい言い訳を考えたとしてもすでにユルグさんがチームを組むなりして一人で来れない状況だったら意味はないし、どうしたものか。
「もうこっちがユルグさんに直接会いに行った方が楽かな」
「そう簡単に行くかしら。今はこの大陸にいるみたいだけど、常に動き回っているみたいだから手紙から居場所の特定をするのは難しいし」
「そうだよねぇ……」
連絡手段が乏しいこの世界では待ち合わせするのも難しい。最速の伝達方法は風魔法による通信魔法だが、ユルグさんはどうやら魔法の適性は低いようで通信魔法なんてお洒落な魔法は使えないようだし、通信の魔道具を使うにしても、まずは見つけて持たせなければ意味がない。
いや、一応聖教勇者連盟の方で持たせている可能性はあるけど、その通信魔道具の番号がわからなければ意味はない。
「呼び出すにしても会いに行くにしても、どっちも面倒ならリスクが少ない方を選ぼうか。どっちの方がリスク少ないと思う?」
「まあ、こちらが探しに行く方でしょうね。もしかしたら仲間が一緒にいるかもしれないけど、会えさえすれば呼び出すのは簡単だろうし」
「なら、探してみるよ。伝手はあるから、多分見つけられると思う」
少なくとも、この大陸にいるということはわかっているのだから、最悪この大陸を虱潰しに探せば何とかなる気がする。
いや、流石に虱潰しは無理だろうけど、手紙が届いた日から逆算していけばどのくらいの範囲にいるかくらいは絞り込めるだろう。それが膨大な範囲だったとしても、国一つや二つ程度の範囲だったら竜の力を借りれば何とかなるかもしれない。
「なら、とりあえずこっちから近状報告の手紙を出してみるわ。それでおおよその位置がわかれば探しやすいでしょう」
「ありがとう。お願いするね」
「せっかく仲間が増えるかもしれないんですもの。それにハクの頼みですし、断る理由はないわ」
今から手紙を出して、その返事に書かれている場所付近を調べればおのずと見つかると思いたい。
冒険者ギルドに人探しを依頼するというのも手だけど、国をまたぐような依頼になると思うし、それなら機動力がある竜に頼んだ方が楽だ。
さて、となると今のうちから準備しておいた方がいいだろう。また竜の谷に戻って、お父さんにこのことを伝えなくてはなるまい。
「それにしても、さっきから思ってたんだけど」
「何かしら?」
「いつもの口調はどうしたの? 二人っきりの時はいつも男口調じゃん」
話も終わりそうだったので、とりあえず気になっていたことをぶっちゃけた。
アリシアは私と同じく前世は男性であり、今世で性転換してしまった一人だ。そして、私が転生者だと知ると、自らその事実を打ち明けた勇敢な人でもある。
確かにいつもはお嬢様口調が安定しているとはいえ、私と二人っきりの時はいつも男口調だったから少し調子が狂うのだ。
「あー……いや、だって、エルさんいるし……」
「エルの事を気にしてたのか。エルは私の正体も知ってるし、話しちゃってもいいと思うけど?」
「いや、でも、なんとなく気まずいからさ……」
まあ確かに、転生者の存在を知っているとはいえ、一応今のところアリシアが転生者と言うことはエルには言っていない。でも、すでに当たり前のように転生者の話題を出しているし、そもそも私が転生者を当たってみると言ってここに来た時点でお察しである。
いやまあ、あえてばらすつもりはなかったけど、でもばれてもエルならその辺の理解はあるし、大丈夫だとは思うんだけどなぁ。
まあ、本人が嫌だというならあえて気にする必要はないだろう。そんなことを考えながら、次なる一手を考えていた。
感想、誤字報告ありがとうございます。




