第四百四話:記憶の断片
ユーリさんへ質問した結果、何を覚えていなくて何を覚えているのかがだいたいわかった。
まず、自分を人間だと思っている節がある。
と言うのも、見た目はどう見ても竜人ではあるが、竜人として生きてきた記憶。例えば生まれとか、なぜ大怪我をしていたのかなどはさっぱり思い出せないらしい。代わりに人間の両親の間に生まれたとか、学校に通っていただとか、とにかく人間に囲まれて育ったということは覚えているようだ。
なので、どうして自分にこんな翼や尻尾が生えているのかわからないらしく、場所も見たことがない場所ばかりでだいぶ困惑しているらしい。
人間の両親の間に生まれた、と言うのは、竜は人と子を成す時は人の姿になる必要があるからありえない話ではないし、学校に関してもこの大陸ではだいぶ難しいが地域によっては竜人でも通えないことはない。
だから、これだけでは彼女が転生者かどうかはわからない。
ただ、その後に知っている名前はないかと尋ねたところ、確かに私の前世での名前が飛び出してきた。そして、他の名前も日本人のような名前ばかりだったので、やはり間違いなさそうではある。
「その、春野白夜と言う人とはどんな関係だったか思い出せますか?」
「わからない……ただ、とても大切な人だった気がします」
「大切な人、ねぇ……」
私目線では覚えている限りでは大切な人と呼べる人物はそういない。せいぜい、数少ない友達と家族くらいだろうか。
しかし、名前がわからないことには判断のしようがない。ユーリと言うのは恐らくこちらでの名前だろうし、私の知り合いにユーリに近い名前の人物は存在しない。
ここは別の方面で攻めてみようか。
「では、他に大切な人だと思う名前はありますか?」
「……ユウって人がそうだと思います。ササヌマユウです」
「笹沼悠、ですね。その人との関係性はわかりますか?」
「いえ……ただ、凄く優しい人だったと思います」
笹沼さんね。もちろん、この名前にも私は心当たりがない。
優しい人ってことは家族かなにかだろうか。あるいは恋人とか? 学校とも言っていたし、友達と言う可能性もあるか。
そういえば、年齢を聞いていなかったな。女性に年齢を聞くのもどうかと思うけど、記憶の手がかりとなるかもしれないし一応聞いておこうか。
「すいません、自分の年齢はわかりますか?」
「21……だったと思います。今はこんな見た目ですけど……」
「いや、竜人は成長が遅いので21ならその見た目でも不思議はないかと思いますよ」
「そうなんですか? なら、いいのかな……」
まあ、この21歳と言うのがこの体の年齢なのか、それとも前世の年齢なのかはわからないけど、仮に前世の年齢だとするなら大学生ってところか。一応、家族恋人友人すべて当てはまりそうではある。
うーん、なんか手詰まりになってきたなぁ。
「話を戻しますね。それで、他にも大切だと思う名前はありますか?」
「うーん……レンタロウとサクラコ。いつも家で一緒にいた気がします」
「家族ですかね。名字はわかりますか?」
「えっと……スドウ、です。多分……」
「なるほどなるほど」
いつも家で一緒にいる男女と思われる名前となると、やはり家族だろう。となると、ユーリさんの名字も恐らくスドウ……須藤かな? だろう。
そう考えると笹沼さんは家族ではない大切な人って可能性が高そうかな。いつも家で一緒にいたなら一緒に覚えている可能性が高いし。
まあ、いつも部屋に引きこもっている兄妹とかそういう可能性もあるけど。
それにしても、聞いても聞いてもやはり私との関連性がよくわからない。
ユーリさんにとって前世の私は大切な人だったらしいけど、私に覚えがないってことは一方的に一目惚れでもされたんだろうか?
いや、それはない。私は日中のほとんどの時間を仕事場の研究室で過ごしていたし、それ以外の時間もほとんど家で引きこもってゲームばかりしていた。そりゃ、買い物とかに出かけることはあるけど、そんな限定的な時間で出会って一目惚れなんてありえるだろうか?
それと、私の前世での顔はいうほどイケメンと言うわけではない。もちろん、衛生面には気を使ってはいたが、一目惚れされる要素などほぼ皆無だ。
うーん……わからん。
「……わかりました。あまり話しすぎても体に障りますし、今回はここまでにしましょう。今の手がかりから記憶について探ってみたいと思います」
「はい……私なんかのために、ありがとうございます」
「いえいえ、気にしないでください。竜人を助けるのは竜の務めですしね」
威勢よく記憶を取り戻す手伝いをするとか言ったものの、予想以上に苦戦しそうで少し焦っている。
というか、話を聞く限り、どう考えても記憶が飛んだ影響で前世の自分になりきってしまっている。
ユーリさんは間違いなく転生者だ。そうでなければあんなにポンポン日本人の名前が出るものか。
そういう風に日本人の名前が出やすい環境で一番怪しいのは聖教勇者連盟だが、あそこが転生者とはいえ竜人を入れるとは考えにくい。だから、これらの名前は間違いなく彼女の前世の記憶だろう。
竜人としてはまだ若そうとはいえ、少なくとも20歳は超えているだろうし、この世界でしばらく過ごしていた記憶の断片もあるようだが、あまりに少なすぎる。
これは、仮に記憶を取り戻せたとしてもこの世界での記憶は戻らない可能性もあるなぁ。ユーリさんに所縁のある場所を訪ねようにも、大怪我して運び込まれたというところを見るとそれも容易ではないし。
むしろトラウマを持っている可能性もあるし、下手に記憶を呼び起こさない方がいいまである。
うーん、困った。
「ハクお嬢様、いかがですか?」
「残念ながら私には心当たりはないよ。名前を知っているなら知り合いかとも思ったけど、違うみたい」
記憶力がいいおかげで前世の記憶もほぼ覚えている私だけど、流石に日常の細々とした記憶までは覚えていない。……いや、もしかしたらもっと以前に出会っていたとか? さっきから私が死ぬ直前の記憶と照らし合わせて考えていたけど、幼少期とかに会っていたという可能性もあるか?
うーん、学生の時のクラスメイト、とかかなぁ。つるんでいた友達はともかく、流石にクラス全員の顔と名前なんて覚えちゃいない。もしかしたら、そこにユーリさんがいたのかもしれないな。
いや、年齢が21歳だろ? 同級生と言うのは無理があるな。私が死んだのは29歳だったわけだし。
もちろん、その年齢が今世での年齢と言う可能性もあるけど、記憶の断片を聞く限りユーリさんの記憶は大学生まででストップしている。だから、恐らくあれは前世での年齢だろう。やっぱり歳が合わない。
「とりあえず、他の転生者達にも聞いてみたいと思う。もしかしたら知っている人がいるかも」
アリシアを始め、転生者の知り合いはそこそこの数がいる。今のところ全員他人だから可能性は低いかもしれないが、ワンチャンあるかもしれないしね。
それでだめだったら、ユーリさんが運ばれてきた時の状況を詳しく聞いて、その足跡を辿っていくしかないかな。それに持ち物は多分調べただろうけど、まだ何か手掛かりがあるかもしれないし。
「夏休みが終わるまでに片付けばいいんだけど……」
今年の夏休みはお兄ちゃんとお姉ちゃんと一緒に過ごすんだと思っていたけど、思ったよりも厄介なことに首を突っ込んでしまったようだ。
とはいえ、記憶を失って困っている人を放っておくわけにもいかないし、なるべく早く解決できるように取り組むしかないだろう。
村長の家を後にし、私はとりあえず王都へと戻ることにした。
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