第四百話:二つ目の神金属
本編でも400話を達成しました。ありがとうございます。
レア素材の山、確かにその表現に間違いはないだろう。
ポーションに混ぜて使えばその効果を飛躍的に高めてくれると噂のロイヤルハニーと呼ばれるハチミツ、かつては魔法薬の材料として幅広く使われていた歴史を持つが、現在では絶滅危惧種のシルバースライムの体液、上位ポーション以上の回復力を持つ最高のポーションであるエリクサーの材料として噂になったこともあるファントムバタフライの鱗粉。
うん、どれも巷では手に入らないレア素材に違いはないだろう。これらを持って帰れば前回の宝石ゴーレム同様、かなりの金額を稼ぐことができることは間違いない。
ただ、ただね、それらは多くが魔物、それも虫系の魔物から生成されるものなんだよ。そして、私は虫が苦手だ。
つまり何が言いたいかと言うと、めっちゃテンションが下がっている。
「はぁ……」
「き、気に入らなかったか? これとか人間にはかなり貴重なものだと思うんだが」
「いや、うん、気に入らないわけじゃないよ。実際レア素材ばっかりだし、ホムラの気持ちはとても嬉しい。でも、私は虫はあんまり得意じゃないんだよ……」
「あー……そういやそうだったな」
この虫嫌いは前世からのものだ。一応、ハクとして生活をしていく過程で多少の耐性こそついているけど、それでも本能的に虫を忌避している感じはある。
倒す分には問題ない。遠くから水の刃でも放っておけばだいたい倒せる。ただし、触るのは無理だ。
以前も蜘蛛の魔物を倒した時があったが、その死体は放置していた。
まあ、触れずに【ストレージ】にしまってしまえば触らずに回収することもできるんだけど、食料を始めとした生活雑貨を入れている【ストレージ】に虫を入れるというのは少々気分が悪い。
いや、他の魔物は容赦なく放り込んでいるし、別に入れたからと言って食料とかが汚染されるとかそういうことはないんだけどさ。なんか、気分的にダメなんだよ。
「ほんとはもうちょっと先に見せたいものがあったんだが、もう戻るか?」
「……いや、行くよ。でも、道中の掃除はお願いね」
「おう、それくらいは任せろ」
虫由来の素材と言うのもだいぶアウト寄りではあるけど、瓶に詰めたり袋に入れたりすればまあまだ持てなくはない。
幸い、瓶はポーション用のものがかなりのストックあるし、それぞれに仕分けしていけばそれなりに回収はできるだろう。
一応、これらの素材は魔法薬の研究にも一役買ってくれそうだし、みんなのためにも持ち帰らなければ。
「ハクお嬢様を不快な気分にさせるなんて、この責任はどう取らせてくれましょうか」
「いや、忘れてたんだって。勘弁してくれ」
「言い訳は聞きませんよ。とりあえず、帰ったらお仕置きですからね」
「マジかよ……。怒るのはいいけど、いい加減ブレスぶっ放すのは止めねぇか?」
「そうですか。ではブレスのフルコースで行きますね」
「なんでだよ!」
どうやらホムラは帰ったらお仕置きが決定したらしい。
まあ、ホムラの丈夫さなら大丈夫だとは思うけど、ちょっと悪いことしちゃったな。
後でエルにほどほどにするように言っておこう。ホムラはただ私を喜ばせようとしてくれただけだし、それで怒られるのは可哀そうだ。
「それで、見せたいものって何なんです?」
「ああ、そろそろだと思うんだが……うん、この辺でいいな」
ダンジョンの下層辺りまで進んでいくと、ごつごつとした岩が目立つ場所で立ち止まった。
この雰囲気は見覚えがある。とっさに周囲に【鑑定】をしてみると、案の定、そこには最高の鉱石があった。
そっとそれを手に取る。オレンジがかった赤色をしたその鉱石は三大神金属の一つヒヒイロカネに相違なかった。
「ある程度予想はしていたけど、まさか本当にヒヒイロカネを見つけるとは思わなかったよ」
「まあ、適当にぶらついてたら偶然見つけたんだけどな。気に入ってくれたか?」
「うん、最高」
以前見つけたアダマンタイトはその性質上あまり生かす機会がなかった。しかし、ヒヒイロカネはまさに武器を作るために生まれたかのような性能をしているので、多くの知り合いに役立てることができるだろう。
とはいえ、ヒヒイロカネでできた武器なんて神具以外では存在しないため、その存在を知られれば持ち主は命を狙われる可能性もある。だから、もし渡すとしても念入りに【鑑定妨害】をかけてそれがどんなものかわからないようにする必要がある。
私なら【鑑定妨害】は使えるし、その問題はないも同然だ。後はそれを加工する方法をまた確立すれば、今度はネタでなく本気で戦力強化を期待できるかもしれない。
そう考えると、ヒヒイロカネはとても当たりだった。
「ここも例によってダンジョンだから好きなだけ取れるぞ。まあ、ハクはあんまり来たい場所ではないかもしれんが」
「ううん、ヒヒイロカネがあるなら多少のリスクは負わなきゃ。むしろこんなに簡単に手に入って罰が当たらないか心配だよ」
神金属はそもそもこの地上には存在しないはずの金属だ。これらが存在するのは神々が住まう天界と言う話であり、地上に現存しているだけでも相当に珍しい。
それが都合よくダンジョンにあり、半永久的に採取できるなど番狂わせもいいところである。
単純に運がいいのか、それとも何かしらの法則が働いているのかは知らないが、あまり多用して後でしっぺ返しが来ないかは心配ではあるかな。
まあ、しっぺ返しと言っても特に思いつかないけど。
「これで後はオリハルコンだけか? また時間があったら探しといてやるよ」
「ありがとう。コンプリートする意味はないけど、あったらあったで嬉しいから」
三大神金属のうち、残るはオリハルコンのみ。オリハルコンは魔法の補助をする杖に適した素材で、それが使われているだけで魔法の効率を飛躍的に高めてくれる効果がある。
魔術師にとっては喉から手が出るほど欲しい素材ではあるが、私の近くにいる魔術師と言うと学園の友達くらいなものである。
冒険者として大成しているお姉ちゃんや転生者の特典によって戦闘能力があるアリシアなんかに渡すのとは違い、学生となると流石に身に余る気がしてあまり渡そうとは思えない。
少なくとも、学園を卒業して魔術師なり冒険者なりになって自力で身を守る術を確立してからじゃないと危ないだろう。だから、もし使うとしたら私か、後はサリアくらいなものだ。
それにしたって、以前王様から貰った世界樹の杖とやらも持て余しているのに、これ以上魔法の威力を上げてしまったらそれこそ災害レベルの威力になってしまう気がする。今の時点でも困っていないし、そこまでの戦力強化はいらないかなと思うんだよね。別に魔王を倒しに行くわけでもあるまいし。
まあ、それでも神金属と言うだけで相当な価値はあるし、ここまで来たなら揃えてみたいという気持ちもなくはない。完全にホムラ頼りにはなってしまうけど、もし見つけたなら予備として杖を作るのもいいかもね。
「ホムラ、私のために色々な場所を回ってくれてありがとうね」
「気にすんな。俺様が勝手にやっていることだしな。それでハクが喜んでくれるなら万々歳だ」
目に見える範囲のヒヒイロカネを回収し、ダンジョンを後にする。
夢中で採取していたせいか、もうすっかり日が落ちてしまっていて、夜と言って差し支えない時間にまでなっていた。
これは、アリアを置いてきたのは正解だったね。転移魔法で帰らないと晩御飯に間に合わなそうだ。
私達は一度目を合わせると、転移魔法を発動する。数瞬後には、その場には誰の姿もなくなっていた。
感想ありがとうございます。