第三百九十九話:ホムラが見つけたもの
帰りは転移魔法でいいという話だが、一つ問題がある。それはアリアがついてこられないことだ。
一応、アリアはミホさんに教えてもらって転移魔法を修得したようだが、それに伴う魔力消費だけはどうにもならない。私やエルのように何度でも使えるのとは違い、アリアは一回やるだけでもほとんどの魔力を使いきってしまうのだ。
つまり、現在は魔力が足りずもう一度転移魔法を使うのは不可能。よって、帰りを転移魔法前提にするなら連れていくことはできないのだ。
「まあ、そういうことだから私は残るよ。リュミナリア様にも会いに行きたいし」
〈そう? 別に明日にしてもいいんだけど〉
「気にしないで。ちょうどいいからさ」
〈まあ、そういうことなら……〉
アリアが精霊になった背景にはお母さんが絡んでいるようだけど、それについて報告にでも行くのかもしれない。
どうせ夜には会うことになるとは思うけど、二人だけで話したいこともあるだろうし、ここは別行動をした方が都合がいいか。
〈私はついていきますからね〉
〈なんだよ、エルもくんのかよ〉
〈何か問題でも?〉
〈いや、別にいいけどさ〉
以前はエルは忙しくて一緒に来られなかったが、今回は一緒に来るようだ。
少し、二人だけの秘密基地を親に覗かれるようなそわそわした感覚を覚えるけど、今のエルとしては私のことが心配だろうし、ついていく以外の選択肢はないだろうな。
ホムラも特に止めはしないようだし、エルがついてくる分にはいいだろう。転移魔法も自力で使えることだし。
〈それじゃ、早速行くか。ついてきてくれ〉
そう言ってホムラは飛び立つ。それを追って、私達も飛び立った。
以前は無人島だったが、今回は内陸らしい。途中で国を一つ跨ぎ、辿り着いたのは巨大な山々が連なる山岳地帯だった。
かなりの辺境なのか、近くに村などもなく、完全に魔物の住処と化しているようだ。さらに、太い竜脈が流れているのか、大量の魔力によってあちこちに魔力溜まりが発生している。
竜脈があることは魅力だろうが、流石にこんな険しい場所に国を造ろうとは思わなかったか。そもそも、すでにAランク以上の魔物の巣窟になっているようだし、普通の人間が近づこうとしても瞬殺されてしまうだろう。
勇者ならあるいは来れるかもしれないが、魔力溜まりを避けながら険しい山道を移動するとなると流石に危険が大きすぎるか。替えが効かない人材だし、いくら聖教勇者連盟でもわざわざ目的もなくそんな場所に行かせるようなことはないだろう。
〈えーと、確かこの辺に……ああ、あったあった〉
ホムラはしばらくキョロキョロと辺りを見回すと何かを見つけたのか、降下を始めた。
降り立ったのは山岳の奥地、ちょうど山と山が重なり合った部分に走る亀裂の中だった。
地殻変動でもあったんだろうか、亀裂は比較的最近にできたようで、その断面はまだ新しい。渓谷とでも表現すればいいのだろうか、そんな場所の底に降り立つと、ホムラは即座に人の姿へと変化した。
燃えるような赤髪と黒い瞳をした18歳くらいの青年。髪の色にさえ目を瞑れば前世でもその辺を歩いていそうな高校生っぽい姿をしたホムラは私達にも人型になるように促してくる。
さて、人の姿になるのはいいが、戻ると全裸なんだよなぁ。替えの服はあるけど、ホムラに着替えを見られそうだしどうしたものか。
でも、条件で言えばホムラも同じはずなのにホムラは服を着ているんだよね。エルもそうだけど、あれっていったいどうやってるんだろうか。
〈ねぇ、服がないんだけどどうすればいい?〉
〈でしたら、魔力で服を作ることをお勧めします。やり方はですね……〉
そう言ってエルが服の作り方を教えてくれる。
どうやら、ホムラやエルが着ている服は【人化】に際して一緒に魔力で編み上げているものらしい。魔力でできているため、イメージ次第である程度形をいじることができるし、そのまま防御魔法としても機能するようだ。
そんな秘密が隠れているとは思わなかったな。それなら、元の姿に戻ってから【ストレージ】の服を着るより安全に着替えることができるかもしれない。
さて、とりあえずやってみようか。
〈えーと、こんな感じ?〉
服をイメージしながら元の姿に戻る。すると、私は以前着ていた旅人風の衣装を身に纏っていた。
しかも、あの時は少々大きかったが、今ではピッタリである。サイズも調整可能のようだ。
ただ、あくまで魔力であるため、服を着ているという感覚はない。ただ魔力で肌を覆っているだけなので、どうにも視線が気になる。
ホムラ達はよくこの感覚を我慢できるなぁと思ったけど、考えてみれば竜が服を着ていること自体がおかしいことだったか。服を着ていないのが当たり前なんだから、服を着ていない感覚で羞恥心を覚えることもない。当然のことだね。
「……着替えるから後ろ向いてて」
「着替える? もう服は着てるじゃねぇか」
「いいから! 後ろ向いて!」
結局、【ストレージ】に入れてある予備の服に着替えることにした。
ほとんどお姉ちゃんが買ってくれた普段着用のものだから冒険に着ていくには心許ないけど、まあ何とかなるだろう。ホムラとエルもいるし。
少なくとも、裸同然で歩くよりはよっぽど精神衛生上いい。
「さて、こっちだ。足元が悪いから注意しろよ」
エルも人化し、私の着替えも終わるとホムラは歩きだす。
この場所、落石が酷いのかそこら中に大小様々な岩が転がっている。歩いている最中も時折地鳴りのようなものが聞こえる度に落石が発生していたし、普通に危険な場所だ。
それらを躱し、あるいは粉砕しながら進んでいくと、しばらくして洞窟のような場所に当たる。どうやら、目的地はここのようだ。
「もしかして、ダンジョン?」
「その通り。まあ、ここまで来ればわかるとは思うが、またレア素材の山だぜ」
「おおー」
以前行った場所はミスリルを始め、宝石ゴーレム多数にアダマンタイトまである鉱石祭りのダンジョンだった。
ダンジョンにはそれぞれ傾向があり、それにちなんだ素材が置かれていることが多々ある。だが、流石にミスリルやアダマンタイトなどの希少鉱石がごろごろ転がっているダンジョンなんてあるはずもなく、前回のあのダンジョンは相当貴重な存在なのだ。
そして、今回もそんなレア素材が山となっているダンジョンらしい。
昔からいろんな場所を渡り歩いてきたホムラではあるが、僅か一年足らずでまたもレアダンジョンを見つけるとは、その捜索能力はやばいかもしれない。
まあ、逆に言うと仕事をさぼってあちこちをほっつき歩いているとも言えるけど、まあ、担当の大陸から離れているわけではないし、視察と思えばいいのかもしれない。一応、ここにも竜脈はあるわけだし。
「どんな素材があるの?」
「それは入ってからのお楽しみだ。さ、いくぞ」
そう言ってホムラは中へと入っていく。私もワクワクしながらその後に続いていった。
ダンジョンと言うだけでも興味の対象なのに、その上レア素材までゲットできるとは、なんて素晴らしいのだろう。それを誇るでもなく、ただ私を喜ばせるためだけに見せてくれるホムラには本当に感謝しかない。
今度お礼にご馳走でも作ってあげようか。そんなことを考えながら進んでいった。
感想ありがとうございます。