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捨てられたと思ったら異世界に転生していた話  作者: ウィン
第十二章:竜人の少女編
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第三百九十五話:お父さんに挨拶

 竜の谷、そこはこの世界の竜の半分以上が集う竜のための住処。

 その面積は広大で、下手な国の領土よりも圧倒的に広く、また魔力も豊富なため土地は豊かで、谷の近くの平原は常に色とりどりの花々が咲き乱れている。

 そんな場所の上空、雲と同じくらいの高さの場所に唐突に影が現れる。そう、転移してきた私達だ。

 転移魔法はその性質上、下手に地上に現れるとその場所にある色々なものと融合してしまう可能性があるため、こうして何もない上空に出るようにしている。特に、竜の谷は様々な竜が集まる場所であるため、その場所も明確に決められているのだ。

 まあ、私は長らく人間として暮らしていたし、竜として暮らしていた頃も転移魔法なんて使ったことはなかったので特に決められた場所はないのだが、一応気を使って少し離れた場所に出るようにしている。

 今まで転移事故が起こったことはないが、万が一があったら困るからね。念には念を入れておいた方がいい。


〈やっぱりハクだったか。今日はどうしたんだ?〉


 転移の直後、翼を出してホバリングしていると、遠くから一匹の竜がやってくる。この大陸を担当するエンシェントドラゴンであるホムラだ。

 担当と言うのは各大陸にある竜脈を整備する竜達の事で、ホムラは彼らのまとめ役に当たる。

 とは言っても、この大陸は総大将であるお父さんがいるから気づけばお父さんが指示を出していることも多く、ホムラはあまり仕事していないというイメージがある。

 まあ、やる時はやるのは知っているけどね。現存するエンシェントドラゴンの中でも、エルと同じくらい仲がいい竜だ。


「ホムラ、久しぶり。ちょっとリヒトさんの様子を見に来たんだよ」


〈なんだ、あいつに会いに来たのか。あいつなら今日も平原の方にいるぜ。ネーブルと一緒にな〉


「そっか。じゃあ行ってみようかな」


 エルの話から大体の予想はしていたけど、これで探す手間が省けた。

 早速向かおうとしたが、その前にホムラが「ちょい待ち」と引き留めてくる。


〈用事が済んだ後でいいんだが、暇ならちょっと付き合ってくれないか? いいもの見つけたんだ〉


「いいもの?」


〈まあ、そいつは見てからのお楽しみだ。で、どうだ? 来てくれるか?〉


「うん、いいよ。そこまで時間はかからないだろうし」


 いいもの、と言うのが何かはわからないが、ホムラは以前にもアダマンタイトが生成されているダンジョンを見つけたことがある。

 アダマンタイトは神金属と呼ばれる希少鉱石で、世界中探してもせいぜい一かけらしか見つからないような幻の金属だ。

 それがダンジョンで取れる、つまり半永久的に取れるとあっては世界を揺るがすような大発見である。それを、ちょっといいものを見つけたみたいな感覚で見せてくるのだ。

 もちろん、この発見には竜の類稀なる能力があってこそだとは思うけど、だからこそホムラの言う「いいもの」と言うのには興味がある。

 もしかしたら、オリハルコンとかヒヒイロカネが出るダンジョンとか見つけたのかもしれないね。

 まあ、そうそう神金属が出るダンジョンが見つかっても困るけど。


〈じゃあ、北東出口で待ってるから、終わったら来てくれな〉


「わかった。もし遅くなりそうだったらエルに伝言を頼むね」


「私ですか。まあ、構いませんが」


「お願いね」


 ホムラと約束を交わし、今度こそ平原に向かおうかと思ったが、今度はエルに引き留められた。

 リヒトさんのことも大事ではあるが、まずはお父さんに挨拶した方がいいという話だ。

 まあ、確かにこれは実家帰りみたいなものだし、親を差し置いて知り合いに会いに行くのは少し礼儀に欠けるか。

 ただでさえお父さんには寂しい思いをさせてしまっているしね。ここで会っておかなければ親不孝者だろう。

 別に、リヒトさんの要件は急務と言うわけではない。なるべく早い方がいいに越したことはないだろうけど、そこまで急ぐ必要はないのだから一つ一つゆっくり行こう。


「それじゃ、まずはお父さんのところに行こうか」


 進路を竜の谷の奥地へ変更し、翼を広げて飛んでいく。

 つい最近にも封印が完全に解けてしまったことを相談しに帰ってきたことがあるが、竜の谷には相変わらず竜がたくさん飛んでいて安心感がある。

 竜は不死に近いほどの長命であり、数も人族に比べたらそこまで多くはないので仲間意識が強い。ここに飛んでいる多くの竜もエンシェントドラゴンと呼べるほどの年は取っていないがそれでも数百年、数千年の時間を生きている。

 だから、血は繋がっていなくとも皆家族と言って差し支えない関係であり、だからこそ一緒にいると安心感を感じるのだ。

 まあ、残念ながら私はほとんどの時間を人間として生活していたため顔を覚えているのはホムラ達くらいなものだが、本能的に仲間と言うのは感じられるらしい。

 そんな風に仲間意識を感じながらお父さんが待つ洞窟の中へと入っていく。私が生まれてからずっと育てられてきたいわば子供部屋のような場所だ。

 中に入ってしばらくすると、広大な空間が広がっていき、川のせせらぎが聞こえる森のような空間へと変貌する。そして、そこには銀色の鱗が美しい巨大な竜が鎮座していた。


〈ハク、来てくれたのか。竜の力の制御はうまく行っているか?〉


「はい、お父さん。まだ少し不安定なところはありますが、概ね使いこなせるようになってきました」


〈それは重畳〉


 見上げてもなお全貌が見えないほどの巨体。竜である故、その表情は読みにくいが、お父さんはふっと柔らかく笑ったような気がした。


〈して、今日はその報告に来たのか?〉


「いえ、それもありますが、今日はリヒトさんに会いに来たのです」


〈ふむ、リヒトか。ハクが会いに来たと知れば奴も喜ぶことだろう。それに、ハクはネーブルとは会ったことはなかったな。であれば、ついでに会っていくのもいいだろう〉


 リヒトさんは初対面ではあったけど、その時点で私の事をとても丁重に扱ってくれた。

 まあ、自分の上司の娘なのだからその反応は当然と言えば当然なんだけど、せっかく会うことができたのだから、ライ達と同じように友情を育みたいところ。

 べたではあるけど、戦いの中で友情が芽生えるっていう展開を狙っていたりはする。いやまあ、そこまで都合よくはいかないだろうけど、あったらいいな程度で。

 ネーブルさんに至ってはまだ会ったことすらない。大人しいと聞いているけど、うまく打ち解けられるだろうか。リヒトさんを通じて仲良くなれたらいいなと思う。


「それじゃあ、行ってきますね」


〈うむ。そうだ、今日は泊っていくか?〉


「そのつもりです。また部屋を借りてもいいですか?」


〈もちろんだ。ここはハクの家なのだから、遠慮する必要はない〉


 用事を済ませてすぐに帰ってもいいのだが、それでは流石に味気ない。

 転移魔法で容易に移動できるようになったとはいえ、お父さんやホムラと会える機会は貴重だし、せっかくの夏休みなのだから少しくらいは泊っていってもいいだろう。

 私は一礼して洞窟を出る。まだ日は高いし、今から行って問題はないだろう。

 さて、少し緊張してきた。自分から言い出したこととはいえ、竜と戦うなんて初めての事だからね。

 ただのストレス発散だから本気を出す必要はないけど、エンシェントドラゴンが相手となると私も本気を出さないと危ないかもしれない。

 もう、初めから完全竜化して戦ってもいいかもね。そんなことを考えながら平原へと向かった。

 感想ありがとうございます。

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[一言] 竜の姿で模擬戦したら周囲の草花が可哀想なことになりそう
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