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第四十一話:焦り

 試合が終わり、フィールドを去る。

 今回は探知魔法に助けられた。私が風属性を使えなければ負けていただろう。相手も、私が水魔法ばかり使うから油断していたのかもしれない。

 本来魔法は魔法陣を展開しなければ発動しない。だから、魔法を使う時は見ればそれがわかる。コンマ数秒のこととはいえ、これから魔法を使うと宣言しているようなものだし、発動に若干のラグもあるから一対一の戦いでは魔術師は不利だ。

 だけど、その魔法陣を隠蔽魔法で隠し、さらに常時発動しているような状態にしているとすれば、相手は気づかないだろう。

 アリアと考えたこの魔法は対人戦においても効力を発揮してくれているようだ。

もっとも、看破魔法が使えればもっと簡単なんだけどね。

 看破魔法は隠れている敵を発見したり隠された仕掛けを発見するために使用する魔法だ。もし、さっきの試合でこれを使っていれば即座に隠密は解除され、その姿が露わになっていたことだろう。

 別に手加減をしたというわけではない。探知魔法でも十分に敵の位置はわかったし、あの時は姿が見えないと思わせて奇襲を仕掛けた方が効果的だと思ったからそうしただけだ。

 それに、この先の試合のことも考えればあんまり手の内を晒したくはないしね。

 今のところ使っているのは水属性の魔法だけだから、周囲からはそういう魔術師なんだと思われているかもしれない。実際一番得意なのは水魔法だし。


 さて、次の試合まで少し時間がある。それまでにできることはしよう。

 私は探知魔法に引っ掛かっている希薄な気配に意識を向ける。

 一つはずっと私を見張っている奴のものだが、それ以外にもう二つ希薄な気配が混ざっている。場所は観客席。もう移動してるみたいだけど、恐らく私の試合を観戦していたのだろう。

 あの男がまだアリアを持っているならアリアの気配が感じられるはずだけど、全然わからない。あのローブで包まれると気配が遮断されてしまうようだ。いや、気配が遮断されるというより、魔法が弾かれるせいでうまく読み取れないと言った方がいいか。

 アリアが無事かどうかはもう祈るしかない。あいつらが油断してアジトまで行ってくれれば追えるかもしれない。

 そんな期待を胸に探知魔法の風を飛ばす。捉えにくい希薄な気配を見失わないように慎重に。

 あいつらはどうやら闘技場の外に出たようだ。もしかして、このままアジトに戻る?

 さらに感覚を研ぎ澄ませ、気配を追う。入り口を出て、通りを進み、外縁部へ続く門へ。やはり外縁部にアジトがあるのだろうか。

 距離が離れ、気配が読み取れなくなってくる。さらに魔力を込め、補助の風を飛ばす。見失ってなるものか。


「ハークッ!」


「ひゃっ!?」


 突如として肩を叩かれ、思わず変な声が出てしまった。

 振り返ってみれば、ニコニコと笑みを浮かべたお姉ちゃんの姿があった。


「どうしたの? 難しい顔して」


「え、あ、いや、なんでも……」


 本当は助けてほしい。でも、言おうとしてもなぜだか言葉にならない。呪いはしっかりと仕事をしているようだった。

 って、いけない。あいつらは……!

 慌てて気配を探るが、すでに気配は消えていた。距離的にも厳しかったし、今から特定するのは無理だろう。尻尾を掴むチャンスかと思ったのに……。


「顔が暗いよ? せっかく勝ち進んでるんだから、喜ばないと」


「う、うん。嬉しいよ」


 お姉ちゃんに気取られないようにぎりっと食いしばる。

 こんな人の多いところで集中するんじゃなかった。せめて控室まで戻るべきだった。後悔してももう遅いけど。

 こうなったらあいつらが再び戻ってくるのを待つしかないだろう。そしてもう一度追跡するしかない。

 次の試合までには戻ってくるだろうか。もし戻ってこなかったらもう追跡は不可能かもしれない。

 今日追跡できなかった場合、明日には準決勝。お姉ちゃんの試合を見る余裕はなかったけど、恐らく勝ち進んでいるはずだからお姉ちゃんと戦うことになる。そうなれば勝ち目はない。

 負ければ人質となっている青年と弟君の命が危ない。助けるためには何とかしてあいつらのアジトを見つけ出すか、何が何でも試合に勝つしかない。

 でも、仮に勝ったとしても今度は決勝戦が控えている。ものすごく運がよく、それにも勝てたとしてあいつらは人質を解放してくれるだろうか。

 優勝しろってことは、優勝することによって手に入る賞金が目当てだろう。口封じとして殺される可能性もあるけど、賞金と交換に解放してくれる可能性もなくはない。

 問題はアリアだ。アリアは別に人質でもなんでもない。あいつらは私とアリアの関係を知らないし、珍しい妖精を捕まえたくらいにしか思っていないだろう。

 妖精は高く売れる。下手したら大会の優勝賞金より多くの金額が手に入るかもしれない。売りさばくルートさえあれば、別に大会で優勝する必要もなさそうだ。

 アリアを助けられる可能性があるとすれば、私が優勝し、あいつらと会うタイミングで取り返す他ない。でも、それまでに売られていたり、そもそも連れていなかったりしたら無理だ。

 アリアを百パーセント取り返せる方法が思い浮かばない。一体どうしたら……。


「次の試合も頑張ってね。応援してるよ」


 優しく頭を撫でてくれるお姉ちゃん。とても嬉しいはずなのに、気分は全く上がらない。心が急いて、その温もりが感じられない。

 顔を上げるとお姉ちゃんの温かい笑顔が見える。その笑顔に、アリアの顔が重なった。

 アリアが恋しい。姿は見えなくても、いつもそばにいてくれたアリアの存在はとても大きかった。見た目は変わらなくても、その差はとても大きい。


「それじゃ、また後でね」


 お姉ちゃんが去っていくのと同時に涙が溢れてきた。ぽろぽろと零れ落ちる涙を袖で拭い、控室へと足を進める。

 アリアを失うことなんて考えられない。どんなに可能性が薄くても必ず取り返さなければならない。

 そのためにも勝とう。どんな相手でも、たとえお姉ちゃんでも。


 次の試合が始まる。泣き腫らして赤くなった顔でフィールドに赴けば三十代くらいの男が対岸に立っていた。

 何やら困惑した顔で何か言っているが全然頭に入ってこない。別に何を言われようが関係ない。どうせ勝たなければならない相手なのだから。

 武器は、剣か。よくあるショートソード。ここまで来るくらいだから実力は確かなんだろうけど、ナイフよりは速くないだろう。

 こんなところで立ち止まっているわけにはいかない。目で追える程度の相手なら、わざわざ戦略を立てる必要もない。圧倒的物量で押し潰す。

 試合開始の鐘と共に範囲魔法を発動させる。男の周囲を囲うように四方向から展開する魔法陣から大量の水が噴き出した。

 男はそれにあっさり飲み込まれ、激流の中に溺れることになった。

 あの程度なら回避してくると思って第二の魔法陣を展開していたけど、不要になってしまった。

 男はそのまま激流の中で目を回し、収まる頃にはぐったりと倒れ伏していた。

 なんだか、あっけない。

 遅れて決着の合図が響く。なんだか拍子抜けしてしまったけど、楽に勝てるならどうでもいい。運がよかったのだろう。

 この調子で明日も勝てればいいんだけどね。

 試合終了と同時に探知魔法を巡らせてみたが、希薄な気配は一つしか感じられない。

 とうとう、あいつらは帰ってこなかったようだった。

 三日前から腹痛が収まりません。時には立っていられないほどの痛みを伴うのでほとんど何もできないのがつらいです。早く薬が効けばいいのですが……。

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― 新着の感想 ―
[良い点] アリア先生を思うハクさんの心。そりゃ命を繋いでくれて魔法の教導までしてくれた相手、しかもハクさん的には恩返しすらできてない現状では1番の思い人になっちゃうのもやむなし。 [一言] ハクのハ…
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