幕間:娯楽を作ろう5
主人公の友達の転生者、アリシアの視点です。
この話は前章の幕間『娯楽を作ろう』の続きです。読んでいなければ読んでいただけた方がわかりやすいかと思います。
ハクが修学旅行から帰ってきた後、俺は以前にも行ったケーキ屋にハク、テトさんの三人で来ていた。
今回、この集まりを企画したのはハクで、どうやら『サモナーズウォー』の発売に関してあまり力になれなかったことから、主に動いていた俺達にお礼がしたいとのことでこうしてケーキをおごってくれることになったらしい。
確かに、このカードゲームを作るきっかけになったのはハクの発言だったが、ハクはお兄さんに会いに行くと言ってしばらく開発に参加していなかった。さらに、帰ってきた後も色々あったらしく、途中にあった説明会にも参加できないというありさまだった。
ただまあ、きっかけはハクの発言だったとはいえ、実際に作ろうと言い出したのはテトさんだし、俺も再びこれができるとあらばかなりの乗り気だったのでそこまで気にしてはいない。
そもそも、ハクのお兄さんはもう何年も会っていなかったらしいし、いい加減会ってもいいだろうと思ったのも事実。だから、開発に携われなかったとしてもそこまで気にやむ必要はないと考えている。
「二人とも、『サモナーズウォー』の開発、発売まで協力してくれてありがとう。そして、あんまり手伝えなくてごめんなさい」
「気にすんな。たまたま忙しかっただけだし、仕方ないさ」
「ハクちゃんが原案を出してくれなかったらそもそも描けなかったんだし、ハクちゃんも十分に役に立ってるよ」
テトさんはカードのイラストを描いたり、それをカードに加工したり、さらにどういう風に売るとか販売ルートとか俺以上に忙しかったはず。しかし、それでも全然気にしていないようで、いい笑顔を見せている。
いつの間にやらハクとの距離も近くなってきて、かなり打ち解けてきた感はあるな。ハクもテトさんのことは気の置けない友人と思っていることだろう。
「でも、結局第二弾の発売にもあんまり関われなかったし……」
「修学旅行ならしゃーないさ。お土産も買ってきてくれたし文句はねぇよ」
「あのクッキー、美味しかったよ。あ、私こう見えてもお菓子作り得意なんだよ、よかったら今度食べに来ない?」
「ありがとう。今度行かせてもらうよ」
テトさんのおかげで少し話がずれたが、ハクが修学旅行に行っている間にちょうど第二弾が発売されたのだ。
今回の第二弾には第一弾で収録されたテーマの強化パーツと共に新たなテーマが四種類ほど入っている。そして、さらにテーマに関係ない純粋な攻撃力だけの召喚獣が少々と言った割合だ。
これでデッキ構築の幅が広がり、さらに戦略を求められることになるだろう。ただ、思いついたテーマから実装していっているのでバランスが壊れていないかが少し心配だ。
パッと思いつくのはやはりそこで活躍していたテーマ、つまりいわゆる環境デッキと呼ばれるものが多くなる。だから、それが普通の尺度で考えると、後に新しいテーマを出そうとした時にそれとどうしても比べられてしまうだろうから、下手に強くしすぎるとインフレの始まりになってしまう。
前世でアニメのキャラが使っていたいわゆるファンデッキも普及させたいところだけど、それはこの世界じゃ難しいかなぁ。まあ、その時はイラストを可愛くして釣ると言うのも手かもしれない。
カードパワーが弱くても、可愛いという理由だけで使ってくれる人はそこそこいると思うし。実際、そう言うデッキで大会に出ている人も見たことがある。
だから、適度に強いのと弱いのと普通のを混ぜつつ、様子を見て禁止カードみたいなものを決めていけばいいかもしれない。
「さて、第二弾が発売したばかりで気が早いとは思うが、せっかく集まったんだし第三弾で発売するテーマについて話そうと思うんだが」
それぞれケーキを注文し、届くまでの間にそう話を切り出す。
ペースが早いとは思うが、こういうのは早めに手を付けておかないと発売までの間にグダることになるから早めに決めておいた方がいい。
これまでのハクのように、あまり集まれないこともあるかもしれないしな。
俺の言葉に、ハクは少し気を引き締めたのか、若干目元が鋭くなった気がした。
「今発売しているテーマが7種類だったっけ? それで、テーマ関係ないのが一つで8種類ってところかな」
「そうなるな。で、次もまた4種類くらいのテーマを出そうと考えてる」
「んー、それならまだ王道のデッキで事足りるかな。案はいくつかあるよ」
俺は一応前世でもこのカードゲームはやっていたが、そこまで詳しいわけではない。だが、ハクはかなり詳しいようで、結構最初期のカードまで知っているようだった。
ハクっていったい何歳だったんだろうか。少なくとも、二十歳は超えているよな? で、テトさんよりも多分年上。
んー、聞いてみたくはあるけど、今はそんな流れじゃないし人に年齢を聞くのはあんまりいいことではないから聞きづらい。いやまあ、他人ならともかく今はこうして友達同士なんだし、別にそこまで不自然ではないだろうけどさ。
まあ、そのうち聞いておこう。ハクなら案外あっさり教えてくれる気がする。
「なら、後で原案を描いてくれる? それを元にカード化していくから」
「わかった。それじゃあ、夏休みまでには描いておくよ」
「ちなみに、どんなテーマ?」
「えーと、今までは魔物モチーフばっかりだったし、ここら辺で人間とかも出してみようかと」
「騎士とか魔術師とか?」
「そうそう」
一応、こちらの世界でカード化するにあたって、多少のイラストの改変はしている。
と言うのも、召喚士と言う職業は数は少ないとはいえこの世界には実際に存在していて、そんな彼らが呼び出すのは割と身近な魔物だったりする。
時たま、珍しいのを呼び出す人もいるけど、大抵の人は普通の魔物だ。
だから、そんな召喚士のイメージを正しく知ってもらうためにも、最初は一部のイラストはこの世界の魔物をモチーフにして作るようにしていた。
【グレーターウルフ】とか【ワイバーン】とかな。
おかげで、召喚士に興味を持ってくれる人も結構出てきたようだ。召喚士自体はテイマーと似たような職業で、闘技大会で戦わせる魔物を調達するくらいの地味な仕事しかなかったようだが、少しずつ戦闘面を期待されて騎士に重用するというような話も出ているらしい。
そこはそんなに狙っていたことではなかったが、日の目を見なかった職業が脚光を浴びるのはまあめでたいことだ。
「でも、設定的に大丈夫か? あくまで使役するのは召喚獣だろ?」
「まあ、そう言われると苦しいんだけど、今の流れなら召喚士と一緒に戦う騎士や魔術師を呼び出して一緒に戦っている、って感じに持って行けないかなと思って」
「ああ、なるほど。確かにそれならありか」
召喚士が騎士に重用されるという話が出ている今、召喚士が騎士と一緒に戦っても特に違和感はない。なら、そういう形で人間の召喚獣を出したとしても不思議はないだろう。
ハクもきっちり調べているようだ。この調子なら、第三弾は早めに発売できるかもな。
「ネタはまだあるけど、前世での『サモナーズウォー』は戦士系の召喚獣が一番多かったし、それを使えなくなると今後の発売に支障をきたしちゃうかもしれないからできれば出したいな」
「なら、その方向で考えていこう。そうだな、実際に召喚士に話を聞いてみるっていうのも手だな。勝手に名前を使わせてもらってるわけだし、現場の意見も取り入れた方がいいかもしれん」
「それじゃあ、後で王子に聞いてみるよ。今までさぼっていた分はちゃんと働くから」
「決まりだな」
これで大体の方向性は決まった。後はイラストと、特殊能力についての記述をどうするかをちょいと考えればいいだろう。
届いたケーキを食べながら、今後のカード製作に熱意を燃やした。
感想、誤字報告ありがとうございます。