幕間:初めての友達
転生者、カムイの視点です。
私は聖教勇者連盟の一員であり、転生者でもある。
と言っても、聖教勇者連盟に所属する転生者はそこそこいるし、珍しくもなんともないので、私は特にそれを特別だとも何とも思わなかった。
元々私は何をやってもうまくいかないことの方が多く、それ故に引きこもりがちな性格だった。だから、別に特別視してほしいわけではなかったし、むしろ放っておいて欲しいとさえ思っていた。
しかし、この世界に転生して少々事情が変わった。それは、転生の特典なのか、人間技とは到底思えない特殊な能力を授かったことだ。
私が授かった能力は体を自在に炎へと変化させる能力。
これはいつどんな時でも体を炎へと変えることができ、その炎は自在に操ることができる。身体自体が炎になってしまったということで、斬られようが殴られようがほとんどダメージにならず、仮に魔法で消火されてしまったとしても一部でも残っていればそこから全身を再生することができるというチートともいえる能力だった。
この能力のおかげで私は一躍注目を浴びた。もちろん、他の転生者も何かしらの能力を持ってはいたのだが、不死に近いような能力を持っているものは稀だったのだ。
さらに言えば、この能力のおかげでいつものような失敗が減ったということもプラスに働いたのだろう。おかげで、私は対竜グループのエースとして君臨することになった。
元々、そんな上に立つような人間じゃなかった。なのに、いきなり祭り上げられたものだから、私は少し調子に乗ってしまった。
今回、私が隣の大陸まで派遣されたのは恐らく厄介払いの意味もあったんだと思う。本部にいた転生者とはあまり仲がいいとは言えなかったし、いくら実力があると言っても結局ドジ癖はあまり治っておらず、肝心なところで失敗することも多々あったから。
だから、私は今回の任務を必ずやり遂げようと決めていた。方向音痴が災いして辿り着くのにかなりの時間を要したが、それでもきっちり任務を遂行してやろうと思っていたのだ。
それなのに……。
「はい、【裁きの雷】の効果でカムイの場の召喚獣をすべて破壊、そして【ワイバーン】を生贄に【ドラグーン・エクリプス】を召喚。特殊能力で冥界から【ドラグーン・サンシャイン】を特殊召喚。さらにこの二体が揃ったことにより……」
「ちょ、ちょっと待って! どれだけ並べるつもりなの!」
恐ろしい速度で盤面を埋めていくハクに対して思わず抗議の声を上げる。
今は休み時間、いつものようにハクに『サモナーズウォー』の勝負を挑み、劣勢に立たされているところ。
ハクは色々とおかしい。その正体が竜だということもそうだが、カードゲームの腕が尋常じゃなく高い。
今ハクが使っているのは高火力ではあるものの、上級召喚獣が多く事故が多発する【ドラグーン】と言うデッキだ。その名の通り竜がモチーフの召喚獣が多く、それに付随して特殊能力も強力ではあるが、とにかく重い。だから、普通に回そうとすれば何も召喚できずにその間に殴り倒される、と言うことが多発するはずなのだ。
しかし、ハクはそんな事故をほとんど起こさない。私の詰めが甘いというのもあると思うけど、それでもハクには一回も勝てたためしがない。
イカサマをしているのではないかと疑ったこともあったが、衆人環視の下でもかなりの数やったし、それらすべてを欺くなんてことはできないだろう。だから、あれは完全にハクの実力なのだ。
まったくもって謎である。私も前世でそれなりにやり込んでいたというのになぜ勝てないのかわからない。いくらデッキを調整しても勝てる見込みがない。
「……はい、これで終わりです」
「ぐぬぬ……もう一回! もう一回よ!」
「はいはい、いいですよ」
いささか舐められている気がしないでもないが、ハクの方が実力が高いのは確かなので何も言えない。
ただ、こうして仲良くカードゲームに興じていると、私は何をやっているんだろうと思わなくもない。
元々私はハクを殺害するためにこの学園にやってきたのだ。それが、いつの間にやら仲良くなって、こうして一緒に遊んでいる。
別にハクの事が気に入ったとかそういうわけではなかったはずだ。ただ、いつの間にかハクに魅かれて、いつの間にか勝負を挑んでいて、いつの間にか仲良くするようになっていた。
自分でもなぜそんなことになったのかわからない。でも、もし理由を付けるとしたら、それは恐らくハクの魅力なのだろう。
無表情で、何を考えているのかさっぱりわからないところはあるが、その言動はとても優しい。いつも殺す殺すとわめいている私に対しても優しく歩み寄ってくれて、決して拒絶しようとはしなかった。
だから、情が湧いたのかもしれない。
任務において、そんなものは邪魔以外の何物でもなかったが、今ではこれでよかったんだと思える。
私は今まで組織の命で幾人もの竜人の命を奪ってきた。それは竜人が世界に仇なす敵だと教わっていたからで、私自身もそれが正義だとして疑っていなかった。
しかし、修学旅行の折にハクから竜や竜人についての事を聞かされて、なんてことをしてしまったんだろうと後悔した。
今更過去を変えることはできない。私は殺人者だ。だから、本当なら死んで償うべきなのだとも思う。
だけど、ハクは私を許してくれた。確かに罪は消えないけれど、気づけただけでも凄いことだと、これからどう自分を変えていくかだと言ってくれた。
だから私は、ハクの味方になることにした。
組織には恩があるのは確かではある。貴族のような暮らしがしたいという願いを聞いて、貴族の養子として貴族の家にいさせてもらえるように手配してもくれた。だけど、いくら恩があるとは言ってもそれで殺人を強要されるのは違うだろう。
いや、強要なんてしていない。ただ、私達がそれが真実だと疑わずに勝手にやったことだ。だから、悪いのは自分である。
だが、それを積極的にやらせようとしているのは事実なので、竜の本当の役割を知らされた今、今までのように聖教勇者連盟の命令に従って殺人を繰り返すことはできない。
だから、私は組織を抜けて、ただの学生としてここにいる。それが、ハクにとってもいいことだと思うから。
「それじゃあ行くわよ!」
「ええ、それでは」
「「交戦!」」
これは私が望んだ未来。異世界に転生して、特別な能力を授かって、その力で無双をするなんてよくある物語の主人公になる気はない。
私はただ、こうして友達を作って、一緒に遊んで、静かに平穏に暮らせていればそれでいい。
そりゃあ、魔物が闊歩するような世界だから多少の戦闘力は必要かもしれないけど、それでもどうしても必要なものとは思えなかった。
今はまだ聖教勇者連盟の一員としてふるまっているけれど、それもいずれ限界が来る。その時私は組織の裏切り者としてかつての仲間と戦うことになるだろう。
その時になれば、この能力は必要だ。なければすぐにでも殺されてしまう。
エンシェントドラゴンに愛された小さな竜。もしその時が来れば、彼女もまた巻き込まれることになるだろう。
だから私は、せめて彼女を守れるように力を尽くそう。
彼女は、ハクは、この世界において私の初めての友達と言っても過言ではないのだから。
感想、誤字報告ありがとうございます。