第三百八十六話:怪しげな動き
それからしばらくの間、何度か三グループで集まりながら各地の観光をした。
流石に戦場跡のお宝を入手しよう、みたいな提案は出なかったが、比較的行ける範囲で戦場跡は回れたし、その町にしかないアクセサリーなども買い漁ることができた。
そして何より、授業の事を気にせずに夜遅くまで遊ぶことができたのでとても楽しい時間だったと言える。
もちろん、夜のお店に行ったという意味ではないよ? そのままの意味で、宿屋でカードゲームをして遊んだというだけである。
布教するために最初に説明したシルヴィアさん達や情報を拡散したキーリエさん、それにミスティアさんもそこそこ興味を持ってくれたらしく、その内始めてみるとのこと。これでどんどん仲間が増えるね。
意外だったのは、王子もこのカードゲームを遊んでくれていることだった。
どうやらアリシアが教えたらしい。まだ初心者と言ったところだったが、すでにテーマデッキに手を出していて中々将来有望そうだった。
王子につられてか、王子の班のメンバーもやっているらしく、時には彼らも巻き込んで遊び明かしたこともあった。
やっぱり、共通の遊び道具があるっていうのは便利だ。それだけで友達が増えていくし、何より楽しい。
そろそろ第二弾を発売すると言っていたが、新しいテーマ、および前作のテーマの強化パーツが出たりするので私も普通に欲しい。
帰ったらアリシアに確認しなくちゃな、と思いながら過ごしていること二週間ほど。今日もいつものグループで集まって観光に出ようとしていた時の事だった。
「あれ、カムイさんは?」
なぜかカムイさんの姿がなかった。
今はエルシャに戻り、最初に借りていた宿屋にみんなで一部屋で泊っていたのだが、朝になるとカムイさんの姿が消えていたのだ。
食堂にもいなかったし、宿屋の人に聞いても知らないと答えるばかりで行方がはっきりしない。書置きとかもなかったし、探知魔法にも反応がないので完全にどこに行ったのかわからなかった。
「誰かカムイさんのこと知ってる?」
「行先まではわかりませんが、いつ頃いなくなったかはわかりますよ」
メンバーに確認してみると、エルが何かを知っているという。
エルの話によると、どうやら昨日の夜のうちに部屋を出ていったらしい。しかも、足音を立てないためか、体を炎に変化させて窓の隙間から出ていったのだとか。
いつものカムイさんだったら絶対に出る途中で音を立てていただろうけど、確かに炎になってしまえば音が聞こえようはずもない。今回はそれだけカムイさんも慎重だったってことかな。
「どこに行ったんだろう」
「さあ……でも、恐らくは例の件かと」
「やっぱり?」
カムイさんの目的は私とエルの殺害だ。修学旅行中に隙を見せたら殺すとも言っていたし、この修学旅行中に仕掛けてくるだろうなと言うことは予想できていた。
そして、都合よく現れた封印石と言う竜すら封印できるアーティファクトの存在。それを考えると、その封印石を調達しに行ったと考えるのが妥当だろう。
ただ、封印石はすでに製造法が失伝しており、現存しているのは過去の遺産であるものが少量だけである。一応、資料館に一つ保管されているようだが、私とエルの二人を封印するつもりなら最低でも二個は必要だろう。
他にある可能性があるとしたら城くらいだが、まさかそこに忍び込んだとか? それで、運悪く見つかってしまって牢屋に入れられているとか?
……いや、カムイさんは体を自在に炎に変化させることができるんだ。見つかったとしてもやり過ごせるだろうし、仮に捕まったとしてもするりと抜け出すことができるだろう。だから、捕まって出られないという線はない。
となると、見つからずに時間がかかっているってことかな。でも、一つは確実に資料館にあるはずだし、最悪今回で二人倒せなかったとしても一人封印出来ればだいぶ有利になるのだからそれだけ奪ってくればいいだけの話な気がする。
そこまで気が回っていないのか、それともこの予想が間違っているのか。どちらかはわからないけど、このまま見つからないとなると少し大変だな。
先生に報告した方がいいだろうか。カムイさんが通信魔道具を持っていればよかったんだけど、班のリーダーは一応私と言うことになっているので持っているのは私だ。
どうしたものか……。
「今日もみんなで回るつもりなんだよな?」
「そうだけど……」
「なら、みんなに事情を話して探してもらったらどうだ? 報告は探してからでも遅くないだろ」
確かに、サリアの言う通りではある。
下手に大事にするとカムイさんの評判にも関わるし、出来るだけ穏便に見つけてあげたい。
まさかカムイさんの実力で誘拐されたってことはないだろうし、きっと無事ではあるはずだ。
「それじゃあ早速……あれ、ちょっと待って」
「どうした?」
みんなに事情を話そうと集合場所まで向かおうとした時、ふと探知魔法を見てみるとカムイさんの反応があった。
場所は大通り。どうやらこの宿がある道沿いのようだ。一人であり、誰かが一緒にいるということもない。
帰ってきた? とりあえず、迎えに行かないと。
「二人とも、行くよ」
「おう」
「わかりました」
宿屋を飛び出し、反応を頼りに進んでいくと、そこにはカムイさんの姿があった。
どことなく上機嫌な様子で、その手には袋のようなものを持っている。
水を入れるための革袋ってわけではなさそうだけど、なんだろうあれ。
「カムイさん!」
「ひゃっ!? な、な、なっ……なんだ、ハクか。驚かせないでよ」
カムイさんは慌てて手に持っていた袋を後ろ手に隠した。
あからさまに怪しいが、今は置いておこう。どこに行っていたか聞きだす方が先だ。
「どこに行ってたんですか。急にいなくなったらびっくりするでしょう」
「えっ、そ、それはごめん……えっと、友達に会いに行ってたのよ」
「友達? この国に友達がいるんですか?」
「え、ええ、私は友達が多いからね」
夜遅くに友達に会いに、ねぇ。単純に口から出まかせの可能性もあるけど、もし信じるのだとしたらお仲間さんってことかな。
この国は聖教勇者連盟の庇護を受けて成り立っている国のようだし、この国に聖教勇者連盟の人がいてもおかしくはない。いや、むしろいてしかるべきだろう。
夜遅くに会いに行ったということは聞かれたくない内容だってことだろうし、私を倒す手伝いでも頼んでいたのかな?
カムイさんだけならともかく、ここにきて未知の敵と戦うのはちょっと怖いな。どんな敵かもわからないし、それに聖教勇者連盟の人なら転生者の可能性もある。
勇者を殺してしまった私だけど、それでもまだ同郷の者を殺したくないという気持ちは残っている。だから、出来ることなら戦いたくないんだけど……。
「その友達と言うのはどこにいるんですか?」
「も、もう帰ったわ。たまたま会っただけだから」
「そうですか。できれば会いたかったのですが」
「そ、それは無理よ! えっと、ほら、向こうも忙しいし!」
せめて顔だけでも拝んでやろうと思ったが、この調子だと無理そうだな。
なんか、聞いたらそのうちペラペラ喋ってくれそうな気がしないでもないけど、さっきの袋と一緒に考えると、恐らくあの中身が封印石なんじゃないかなぁと思う。
もしそうだとしたら、近いうちに仕掛けてくるだろう。何なら、この後すぐと言う可能性もある。
戦闘になる以上は周囲に被害が出るし、こんな大通りのど真ん中でおっぱじめるってことはしてほしくないけど、そこはカムイさんの常識次第かな。
「とりあえず、戻りますよ。それと、もう集合時間に遅れていますし、今日の観光はなしです」
「そ、そう。それは残念だわ……」
もし、この場で仕掛けてこないなら夜か、あるいは人気のないところに誘い込んでってことになると思う。
その時に王子やシルヴィアさん達がいたら巻き込んでしまう可能性が高いし、遠ざけておいた方がいいだろう。
できればサリアも離れていて欲しいが、サリアの目を見る限り離れる気はなさそうだ。
まあ、仕方ない。なるべく被害が及ばないようにするとしよう。
警戒を解かないまま背を向けて歩き出すが、カムイさんは何も仕掛けてくることはなかった。
とりあえず、最低限の常識はあるらしい。
さて、ここからどうしたものか。エルに目配せして【念話】で大まかな状況を伝えつつ、どうやって鎮圧するか思案した。
感想ありがとうございます。