第三百八十五話:残された宝
観光地としての開発を進めているとはいえ、別に素晴らしい景色が見れるとかそう言うものはない。主な観光名所はかつての戦場跡であり、それを見終わってしまえば八割くらいは見終わったと言っていいだろう。
もちろん、戦場跡は今回強制的に見せられたものだけではない。もっと南に行けばもっと古い場所もある。
ただ、南に行くほど出てくる魔物の脅威度も上がるので、観光としていくには少々危険な場所だ。初期の王都があった場所は半分魔力溜まりのようになっていることもあり、そこまで行けばもう自殺行為と言ってもいいらしい。
まあ、それでもそこを訪れたがる命知らずはいるようだが、私達はその中には入らなかった。
なので、やることと言えば比較的安全なこの町でショッピングを楽しむってなものである。
一応、観光地として名物のお菓子なども売っているようだが、お土産にするには今買ったのでは帰る頃にはダメになっていそうだ。……いや、【ストレージ】にしまえば関係ないか。買っちゃおっと。
「なんというか、のどかなのはいいがあまり刺激はないな」
「確かに。よく魔物に襲われる土地とは思えないな」
ふと、王子が愚痴をこぼす。
確かに、魔物がよく襲撃に来る国と言う情報だったが、その割には特に町が襲われることはないように思える。
そりゃまあ、しょっちゅう襲われていたら生活できないから今がたまたま襲撃が来ない時期なのかもしれないけど、だとしても町に兵士の姿が少ない。
いや、もしかしたら城壁周辺に集結しているのかな? 町が襲われるとしたら真っ先に襲われるのはそこだし、そこに戦力を集めるのは何も間違ってはいない気はする。
それに、この町にも冒険者ギルドはあるようで、街中を歩いていれば冒険者風の人もちらほらと見かける。
町の守りは冒険者任せなのかもしれないね。すみ分けがはっきりしているのはいいことだ。
まあ別に、襲いに来てほしいわけではないので平和なのはいいんだけど、こうなるとあまりやることはない。ショッピングを楽しむという目的はあるが、まさかそれで三週間過ごすわけにもいかないし、後半はかなりグダグダになりそうだ。
「キーリエさん、調べてくると言ってましたけど、何かこの地にまつわる話とかありますか?」
「そうですね、いくつか仕入れてきましたよ」
このままではその内全員文句を言いだしそうなので早めに救済策に頼る。
情報通のキーリエさんなら何かしらの情報を知っているかもしれない。
これで何もなかったらお通夜だったけど、どうやら何か知っているようだ。
「エーセン王国はこれまで五回王都を移転しているっていうのは知ってますか?」
「ああ、そう言えばここは四度目の移転先らしいですね」
五回移転してるってことは、現在の王都が五回目か。
竜脈の魔力が整備されていないから、どんどん魔力が溢れて魔物が生まれ、その度に滅ぼされ、移転を余儀なくされているということだろう。
竜さえ封印しなければまだ何とかなったかもしれないのに、そのせいで見放されてしまったのだからある意味運が悪い。
でも、心配なのはこのまま整備しないまま放置していいのかどうかと言う話だ。
竜脈は言うなれば星の血管のようなものだ。それが詰まるということは、あるべき土地に正しく魔力が流れず、一部の土地に悪影響を与えてしまうということである。
もちろん、1000年やそこらでどうこうなるとは思わないが、このまま放置し続けていたらやがて何か起こるのではないかという懸念がある。
それが何なのかはわからないけど、人間だって血管が詰まったら場所によっては重い病気になってしまう。だから、そう考えると少し心配なんだよね。
今度、お父さんに相談してみようかな。封印石も封印師もない今なら、半分魔力溜まりと化しているあの土地に近づける人はそういないだろうし、整備くらいはできると思う。何かあってからでは遅いし、早めに対処するに越したことはない。
「その理由は魔物のスタンピードや魔王の襲来によって滅ぼされたからなわけなんですけど、初期の頃は移転もままならず、町や城に残されたお宝はそのまま放置されたらしいんですよ」
「つまり?」
「初期の頃の王都なら、探せばまだお宝が残されているかもしれない、と言う話です」
なるほど、確かに、初期の頃は本当の魔王が攻めてきた時代だし、滅ぼされた町から金品を回収する余裕はないか。ましてや今は半分魔力溜まりのようになっていて容易に入れない場所になっているようだし、何かしら残されている可能性は高い。
でも、問題なのはそんな場所にどうやって行くかだ。
「まあ、最初の王都はここから馬車で10日ほどかかるし、今では立ち入り禁止になっているらしいのでいけませんけどね」
「意味ないじゃない!」
キーリエさんの言葉にエレーナさんがツッコミを入れる。
まあ、ロマンはあるだろう。探検家ならば未知なる秘宝を求めて向かっていってもおかしくはない。
ただ、私達が行けるかと言われたらそんなことはないだろう。
いや、私は魔力溜まりの中でも普通に動けるし、強い敵が出てくるのだとしても魔法完全無効とか出てこない限りは多分大丈夫だとは思う。だけど、今は修学旅行中なのだ。
私達に許された日数は三週間。移動で往復二十日かかるとしたら、もうそれだけでほぼ使い果たしてしまう。そこから探索と考えれば、明らかに不可能だろう。
そもそも、私やエルはともかく、シルヴィアさん達はほとんど非戦闘員と言っていいし、王子を始めなかなか凄い肩書の人がたくさんいるのだ、そんな危険な場所に連れていけるはずもない。
「まあまあ、確かに最初の王都には行けませんが、二番目の王都ならまだワンチャンありますよ。一週間ほどで行けますし、立ち入り禁止でもないですし」
「そこもどうせ回収済みなんじゃないの?」
「いえ、回収できたのは三番目の王都以降だとされています。なので、二番目の王都ならまだ可能性はありますよ」
「へぇ……?」
往復で約二週間。今すぐに行けば行って調べて帰ってくることも可能と言えば可能だな。
でも、最初の王都よりは何か残っている可能性は低く、取り越し苦労で終わる可能性もある。
さて、どうしよう?
「わ、私は反対ですわ。そんな危険な場所に生徒だけで行くのは危険ですし」
「そうですわ。ハクさんやエルさんならともかく、冒険者でもない人が向かうには危険が多すぎます」
「私もー、反対かなー。買い物の時間がなくなっちゃうしー」
「私も反対だね。私達のような身分の人が気軽に危険な場所に向かうのは得策ではないもの」
「そうだな。私達はただの学生だ。今の王都周辺の敵にも苦労するのに、行っていい場所じゃないだろう」
ほとんどは反対意見のようだ。シルヴィアさん、アーシェさん、ミスティアさん、フェルマータさん、王子は反対派の様子。
話に興味を示していたエレーナさんも、王子が反対と見るや行くべきではないと主張。アレクさんはちょっと行きたそうにしていたが、反対多数と見るや素直に引き下がった。
サリアとエルはいつものように私に同意するらしい。まあ、私としてもそこまでのリスクを冒していくものではないと思っている。今の私達はただの学生だし、そう言うものは本職がやればいいだろう。別に世紀の発見をして有名になりたいというわけでもないしね。
「……」
唯一、カムイさんは何も言わずにいたが、流れ的に行かないという風になり、結局その日はショッピングだけして過ごすことになった。
別に行きたいって顔にも見えなかったけど、よく喋るイメージのカムイさんが無言なのは少し気にかかった。
感想ありがとうございます。