第三百八十四話:王子の班のメンバー
転移魔法陣の仕様上、滞在期間が延びるのは仕方ないとは思うが、最初の一週間ほどで授業的な内容が終わり、残りがすべて観光ってそれでいいんだろうか。
三週間もあれば結構な時間魔法の訓練に充てられると思うのだが、それを観光に使って潰していいのかどうかは少し気になる所ではある。
まあ、先生曰く、三年生になって多少魔法も使えるようになってきたタイミングでBクラス以上という好成績を収めている生徒へのご褒美のようなものであり、多少の観光くらいは許しているとのこと。
確かに学園に通っていると下手に遠出はできないし、延々と授業ばかりというのも疲れてしまうか。就職口的にもいろんな場所を知っている方が有利ではあるしね。
そういうわけで、素直に観光を楽しむことにする。いや、出来たらリヒトさんのことについても調べたいところだけど、それは追々調べると決めているからそこまで気にすることはない。
「と言うわけで、彼らが私の班のメンバーだ」
あれから二日経ち、遅れてやってきたAクラスが王都跡を見学した次の日と言うことで、約束通り一緒に観光することになった。
宿屋の前で合流し、今は王子の班のメンバーを紹介されている。
王子の班のメンバーは男子が一人、女子が二人のようだ。まず最初に紹介されたのは、男子の方。一歩前に出て軽くお辞儀をする。
「俺はアレク。騎士団長の息子で、アルトとは幼馴染でもある。よろしくな」
オレンジ髪のがたいのいい男の子。王子も割と身長が高い方だと思うが、アレクさんはさらに高い。とてもじゃないけど、13歳には見えないな。
騎士団長の息子ってことは、剣術に明るいんだろうか。まあ体格はいいし、少なくとも王子よりは強そうではあるかな。
「私はエレーナ。魔法騎士団長の娘よ。あなたと違ってしっかりとした身分のあるアルト様にふさわしい女だから、そこのところわきまえてよね」
続いて挨拶してきたのは金髪の女の子。目つきが鋭く、なんかよくわからないくらいくるんくるんとなっているツインテールはどこぞの悪役令嬢を思わせる。
ああ言う髪の子って本当にいるんだ。あれどうやってセットしてるんだろう。少し気になる。
「私で最後かな。私はフェルマータ。アルト君とは従妹に当たるんだけどあんまり気にせず仲良くしてほしいな」
最後に挨拶してきたのは翡翠色の髪の女の子。エレーナさんとは対極的に目つきは優しく、ふとした笑顔が可愛らしい。
王子の従妹ってことは、多分公爵だよね。めっちゃ偉い人の娘じゃん。
本人はあまり身分とかに拘っていなさそうだけど、流石王子が連れているメンバーだけあってみんな凄い肩書の持ち主だ。
これ、みんな緊張しちゃうんじゃ? まさかこんなメンツが揃っているとは思わなかったし、特にシルヴィアさん達はきついかもしれない。
ちらりと見てみると、やはり緊張しているようで、ぎこちなく挨拶に応じていた。
うーん、この辺りは王子が気づかいが足りなかったかな。いくら学園で身分が平等とは言え、流石に完全にため口なんて無理だろうし、気を使ってしまう。
私が間に入ってそれとなくフォローしようか。
「ハク、資料館で色々聞いたんだが、その……すまん」
「なんのことですか?」
王子は紹介が終わるなり、私に顔を寄せて謝ってきた。
資料館で、と言っていたが、さっぱり心当たりがない。そもそも、王子とは別々に回ったわけだし。
何のことかわからず首を傾げいていると、王子は少し困ったような表情をしながら続けた。
「この国はどうやら過去に竜を封印したそうだな。ハクにとって、竜は仲間みたいなものだろう? だから、気に病んでいないか心配でな」
「ああ、そういうことですか」
確かに、この国は過去に助けに来た竜を封印してしまった。でも、それは過去のこの国の人々が無知だっただけで、別に王子の責任ではない。
それに、確かに仲間意識はあるが、1000年以上も昔の竜だし、会ったこともないのでそこまでの衝撃はない。ただ、もし助けられるなら助けたいなとそれくらいだ。
だから、王子が謝る必要など全くない。
「私は気にしてませんよ。もちろん、今も封印されているなら助けたいと思いますが、それは王子の責任ではないですし」
「そ、そうか。ならいいんだが……」
王子は私の正体が竜だということを知っている。だから、同情してくれたんだろう。その気持ちは嬉しいし、気遣ってくれる王子は優しいと思う。
ただ、何でもかんでも竜関係だからと気に病んでいてはきりがないだろう。
王子には影で色々助けられているし、それだけで十分だ。好きだという思いには応えられないけど、友人としてならいくらでも好きと言ってくれて構わない。
「ちょっと、何アルト様に色目使ってるのよ! さっさと離れなさい!」
ふと、エレーナさんが間に割って入ると、私と王子を強引に引き離した。
色目って、私そんなことした気は一ミリもないんだけど。
ちらりとエレーナさんの方を見てみると、私を射殺さんばかりの勢いで睨みつけている。
これは、あれか。王子が好きで、近寄る女は許さない的な感じかな?
行動まで悪役令嬢っぽい。……あれ、でもそれだと私が主人公ってことになっちゃうな。うーん……それはないなぁ。
「アルト様、なんでこんな奴と一緒に回ろうなんて思っちゃったんですか!? せっかくの修学旅行なのに!」
「みんなで回った方が楽しいだろう?」
「いいえ、こんな奴と一緒に回る必要なんてありませんわ! 今からでも遅くありません、私達だけで回りましょう?」
エレーナさんの言い分に王子も困った様子。
これはまあ、王子が独断で一緒に回ろうと言ったのが悪いかな。そりゃあ、エレーナさんは王子の事なら好意的だろうし、いい子だったのかもしれないが、これくらいのトラブルは予想できただろうに。
私は気にしないけど、エルが若干不機嫌なのが気になる。
あんまり喚き散らすとキレそうだからできれば大人しくしてほしいな。
「エレーナ、そんなこと言わずに一緒に回ろう。二人もそっちの方がいいと思うよな?」
「そうだな。俺は異論はないよ」
「私も。人がたくさんいた方が楽しいしね」
アレクさんとフェルマータさんは賛成の様子。これを受けて、エレーナさんは若干怯んだようだ。
まあ、流石に多数決で圧倒的に不利となれば一人で騒ぎ続けるのは逆に迷惑をかけることになるだろう。エレーナさんとて、王子を困らせたいわけじゃないだろうしね。
「くっ……! わ、わかったわよ、一緒に回ればいいんでしょう」
「そうか、わかってくれて何よりだ」
「ただし!」
エレーナさんは私にずいっと顔を近づけると苛立ったような声で捲し立ててきた。
「アルト様は私のものなんだから、平民如きが近づこうなんて思わないことね!」
「はぁ、わかりました」
どうやら、王子が私にお熱だから焼きもちを焼いているらしい。
と言っても、最近の王子はそこまで積極的に絡んでくるわけではないからそんなに親しい仲には見えないと思うんだけど、以前から私達の関係を知っているんだろうか。
まあ、別に私は王子に恋愛的な興味があるわけでもないし、それでエレーナさんが納得するなら問題はない。離れていても会話くらいはできるだろうし、それに王子の方から近づいてくるんだったら私は悪くないしね。
そんなわけで、新たに王子達を加え、本格的に観光を始めるのだった。
感想、誤字報告ありがとうございます。