第三百八十三話:戦場跡探索を終えて
宝物庫と言っても、もう何百年も放置された場所だ。仮に当時お宝がそのまま放置されていたとしても、その後誰かが持ち去っていることは容易に想像できる。
それに、この国は観光と言う形で見学まで許しているし、今さらになって調べたところでお宝が残っているはずもない。
案の定、入った場所はただの朽ちた部屋であり、それ以上でもそれ以下でもなかった。強いていうなら、強化も何も施されていないようだったので、魔法でごり押しすれば簡単に開けられそうだなと思ったくらいか。
まあ、大昔の技術に文句を言っても仕方あるまい。
言い出しっぺのキーリエさんはそれでも何か感じるものがあるのか、メモ帳に色々書き込んでいるようだ。勉強熱心だね。
「ここにあったお宝はどうなったんです?」
「国が滅んだ後、盗賊にでも入られたのか何点かの品は持ち去られていましたが、残っていたものは回収し、現在の城で保管しております。ただ、特に歴史的価値の高いものは資料館に展示されていますよ」
ああ、確かにそんなものもあった気がする。あれはここにあったものだったってわけね。
とは言っても、そこまで目ぼしいものはなかった気がする。当時のお金とかもあったが、黒ずんでいてよくわからなかったし。
ただ、歴史を学ぶ上では割と重要だったかな。今まで見てきた場所も説明と一緒に聞けば当時の様子を思い描くことができるし、残された物品を見れば当時の人達がどのように戦っていたかを想像することもできる。
私はその頃も生きていたらしいけど、実際に見たわけじゃないからね。なんとなく、当時の人達のことに感傷を覚えられれば授業としてはいい方だろう。
「カムイさん、カムイさんもちゃんとメモとか取っておいた方がいいですよ。……あれ?」
一応、この後レポートを書かなければならないのできちんと見聞きしたことは記憶しておく必要がある。
カムイさんの事だ、きっと私を倒そうとか画策していて碌にメモなど取っていないだろう。そう思っての発言だったのだが、振り返ってみてもカムイさんの姿はなかった。
おかしいな、さっき玉座の間にいた時にはいた気がするんだけど……。
まったく、単独行動はダメだと言われているというのに、一体どこに行ったのやら。私は宝物庫の入口を出て廊下を見回す。すると、ちょうどどこからか帰ってきたのか、歩いてくるカムイさんの姿があった。
「カムイさん、どこ行ってたんですか?」
「うぇっ!? あ、え、えっと、それは、その……そ、そう、お花を摘みに行ってたのよ!」
私が話しかけると、あからさまに動揺した様子でそう取り繕ってきた。
明らかに嘘だけど、だとしてもここで離れる理由が見当たらない。何か気になるものでもあったんだろうか?
「そうですか。でも、一人で行動しちゃだめですよ。カムイさんが強いのは知ってますけど、それでも危険ですからね」
「え、ええ、ごめんなさい……」
どこに行っていたかは知らないが、まあ無事で何よりだ。ここで帰ってこなかったら、先生に言って探してもらう羽目になっていただろう。
ちらりと手を見てみる。すると、少し土で汚れているようだった。
土でも掘ってた? それとも落し物して地面を探していたりしたんだろうか。うーん……。
「そろそろ移動だと思いますから、はぐれないでくださいね」
「もちろんよ!」
まあ、仮に良からぬことを企んでいたのだとしても、カムイさんが消えていた時間はせいぜい三十分程度だろう。町に行って何かする時間はなかっただろうし、トラップを仕掛けるにしても碌なものは仕掛けられないだろう。
魔物をけしかけるにしても、私の実力はカムイさんも十分知っているはず。この辺りの魔物が多少強かったとしても問題はないことくらいわかっているだろう。
だから、そこまで気にすることはない。そう思うことにしよう。
「さて、そろそろ戻りましょう。日が暮れてくると魔物が活発になってきますからね」
マクロさんの合図によって、王都跡の探索は終了した。
時刻は夕方頃。もうここに来た目的の九割は完了したので、後はエルシャに帰って観光するだけである。
まあ、もし望むならこの町に残って観光していってもいいとのことなので、その辺りを報告していれば今日からでも自由時間だ。
この町は王都跡の保護を目的に造られた町で、その影響からか観光客向けの店もそこそこ多い。中にはこの町限定のアクセサリーなども売っているそうなので、買っていくなら今かな。
「ハクさん、これからどうしますか?」
「夕食まではまだ時間がありそうですが」
「私は宿屋でゆっくりしようかなと思っていましたけど、皆さんが行きたいところがあるなら付き合いますよ」
この町から観光を始める場合、一緒に回ると約束した王子が明日王都跡を回る予定になっているので、少なくとも明日一日は暇になる。だから、お土産を買うにしてもその時でいいかなと思っていた。
これでも、王都跡はかなり広い。ざっと三時間くらいは歩きっぱなしだっただろう。私はあまり体力が多いとは言えないので、結構疲れていたのだ。
でも、せっかく誘ってくれているならそれを断るのも悪いし、遊園地に遊びに来たようなものと考えて踏ん張ることは可能である。足が棒になってもアトラクションを求めてさまよい続けるのはよくあることだからね。あんまり行ったことないけど。
「でしたら、今日も講義をしてくれませんか? もうちょっとでものにできそうですし」
「私も同じく。ハクさんのようにはいきませんけど、一つだけでも使いこなせるようになりたいですわ」
「まあ、そういうことならいいですよ。それじゃあ、宿屋に戻りましょうか」
魔法陣の講義に関してはシルヴィアさんとアーシェさんは割と意欲的だ。と言うか、昨日一日で初級魔法とは言え魔法陣一つ覚えたのは普通に筋がいい。
ただ、私の魔法は世間一般からするとやはり特殊なようなので、本当にそれでいいのかどうかは未だにわかっていない。
二人が教えてくれと言うなら教えるけど、それで普通の使い方を忘れられても困る。
その辺りは適度に注意していくことにしよう。二人なら、多分うまいことすみ分けしてくれるはずだ。
「あ、私は少し行きたいところがあるのでここで失礼しますね」
「私も、もう少し調べておきたいことがあるので」
新しく借りた宿屋に戻ろうとしたところ、カムイさんとキーリエさんがそう言ってきた。
まあ、絶対に一緒に行動しなくてはならないというわけではないし、今は自由時間だ。行きたいところがあるなら行けばいいだろう。
私が頷くと、二人は去っていった。ちなみに、ミスティアさんも昨日の一日で私の魔法陣理論には見切りをつけたらしく、部屋でゆっくりするらしい。サリアとエルはいつも通り私と一緒にいるとのことだけど、エルはともかくサリアは自由に見て回ってもいいんだよ?
「まあ、それじゃあ改めて戻りましょうか」
「「はい」」
四人を伴って宿屋へと向かう。
ふと、二人が去っていった方を見てみると、キーリエさんはまだ後姿を確認できたが、カムイさんの姿は消えていた。
ここは大通りで、横道に入るにはもう少し歩かなくてはいけないはずだが、一体どこに消えたのやら。
まあ、探知魔法を見る限りはまだそう遠くには行っていないし、誰かと一緒にいるわけでもないようなので誘拐とかそういうわけではないだろう。
多少気にはなったが、あまりプライベートを詮索するのもあれだし、気にしない方がいいかもしれない。もし私を倒すための作戦を練っているとかだったら……まあ、何とかなるだろう。
視線を戻し、再び歩を進め始めた。
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