第三百八十二話:戦場跡
翌日。私達は昨日別れた班ごとに馬車に乗り、エルシャから南へ行ったところにある町を目指していた。
予定によると、過去に勇者達が戦った戦場跡を見学し、当時の話を聞きながら見分を深めるとのこと。
過去に王都があった場所でもあり、城下町や城がそのまま残されているのだとか。今向かっているのはその近くに新たに造られた町で、それらの保護を行っているらしい。
王都周辺に比べると強い魔物も多く出てくるようだが、最近の冒険者は粒揃いが多く、また聖教勇者連盟の助力もあるのでどうにかなっているらしい。
まあ、それでももっと南、最初の王都があった場所あたりは流石に苦戦するようだけど。
聞く限り、王都は何度も何度も移転を繰り返しているらしい。そんなに離れたら旨味である高純度の魔石の採取も難しくなりそうだけど、すでに当時の王都があった場所は魔力溜まりのようになっているらしく、近づくのも容易ではないのだとか。
完全に侵食しているね。出来ることなら少しだけでも竜脈の整備を行いたいところだけど、あれは私もあまりやりたいとは思えない。素人が手を出すべきものでもないだろうしね。
「皆さん、到着しましたよ」
馬車に揺られること数日、ようやく目的地に着いたようだ。
最前線の町だけあって、城壁はエルシャと比肩するほどに立派だ。城壁の上にはバリスタも設置されていて、かなり物々しい雰囲気である。
ただ、町自体はエルシャと同じく木造の家が多く、城壁にすべての防衛機能を割いているって感じだ。
いやまあ、魔物避けや結界も張っているようだから十分かもしれないけどね。家を一軒一軒頑丈にしたところで壊される時は一瞬なんだし。
「それでは、これから王都跡へご案内します。念を押しておきますが、この辺りは王都周辺よりも強力な魔物が多く生息しています。くれぐれも、勝手な行動をとってはぐれたりしないように。はぐれてしまった場合、命の保証はしかねます」
案内に来ていたマクロさんがそう注意を促す。
今回もいくつかの班ごとに分かれて時間をずらして入ることになっており、それぞれに護衛の冒険者と地元の猟師が付くことになっている。
この国の冒険者はよく魔物討伐の依頼が出ている関係からか、ランク詐欺の者が多いらしく、CランクでもBランク並みの活躍をする者もいるらしい。冒険者は各班につき一人だけだが、それでも三人いるので一パーティ分くらいはいることになる。それに加えて地元に詳しい人も付いてくるのだから、よほどのことがなければ安全は保障されていると言えるだろう。
ただ、王都跡と言うだけあってかなり広く、基本的には案内に従って移動するが、城などは自由探索をすることもあるらしい。なので、はぐれる可能性もなくはないようだ。
一応、王都跡にも保護の観点から結界は張っているらしいのであまり魔物は入ってこないようだが、破ってくることも普通にあるらしいので油断はできない。命が惜しいなら下手な行動はしない方が無難だね。
「それでは行きます。ついてきてください」
マクロさんの案内の下、王都跡へと足を踏み入れる。
ここは四度目の移転地と言うことではあったが、歴史的にはそこそこあるようで、大体700年くらい前のもののようだ。
当時から対魔物の意識は高かったのか、立派な城壁は今なお残っており、存在感を放っている。ただ、ところどころ大きく崩落していることから、恐らくあそこから魔物が入ってきたんだろう。
いくら頑丈とは言っても所詮は石の壁だ。今は錬金術によって強化も容易になっているが、700年前だとどうだったんだろうか。
「当時はセフィリア聖教国が勇者召喚に成功し、その恩恵を我々も受け始めた頃だったようです。ですが、当時は聖教勇者連盟も人が少なく、遠く離れたこの地には見習いが送られてくることが多かったため、このように突破されることも多かったのだとか」
聖教勇者連盟が発足したのは約700年ちょっと前。お父さんが魔王と間違われて対処不能だと判断した聖教勇者連盟が勇者召喚の儀を取り行ったことが始まりだという。
勇者は役目を終えたら元の世界に帰るという触れ込みだった気がするんだけど、聖教勇者連盟はその後も事あるごとに勇者召喚を試み、次いで勇者と同じような力を持つ転生者に目を付け、確保しに回っていった。
だが、当時はまだそのシステムが確立されておらず、ここに来るのはこの地で勇者と言われていた人物の劣化版ばかり。戦力自体は増えはしたが、やはりそれでも守りきれるはずもなく、結局滅びたということだった。
「ここが当時の主戦場となった場所です。当時は封印師も現存していて、勇者と共に魔物に立ち向かったとされています」
城壁の崩れている部分からほぼ一直線に続くように建物の倒壊が激しくなっている。そして、特に激しいのは城の前にある広場で、ここだけ地面が抉れるようにして削られていたりと損傷が激しい。
後ろが城のため、ここが最後の防衛線だったのだろう。ほとんど風化しているので血のような痕跡は見られないが、微かに瘴気のようなものを感じる気がする。
怨念とかってあるのかな。あるとしたら、この地にはかなりの怨念が溜まっていそうだ。ゴーストになって襲い掛かってきても不思議ではない。
「続いては城ですね。当時の国王は民を捨て、真っ先に逃げだしたとされています。ただ、結局逃げた先で魔物に食い殺され、生き残った民衆から自業自得だと蔑まれたようですね」
城も結構ボロボロで、一部は破損が激しく廃墟と化していた。
調度品やらなんやらは持ち出されたのか風化したのか全然見ることはできなかった。ただ、ここも廊下の床や壁なんかが明らかに抉り取られたような傷があったので、もしかしたら内部にも魔物は入ってきていたのかもしれない。
「ここが当時の国王が逃げるのに使用した隠し通路です。ただ、出口にも魔物がいたようで、それで逃げられなかったようですね」
玉座の間らしき場所にあった隠し通路はいかにもな感じの地下通路だった。
まあ、王族が住む場所に逃げるための隠し通路があるのは普通だし、自分が殺されたら王族の血が途絶えてしまうと考えたなら逃げたのも頷けるが、待ち伏せとは運が悪かったね。
私には当時の国王が本当に命欲しさに逃げだしたのかわからないけど、もしそういう理由なのだとしたら少し不憫だなと思う。逃げ延びたならまだしも、殺されてしまっているのだから戦って死んだ方が後世の栄誉は守られた気がするからね。
「さて、ここまで気になる所もたくさんあったでしょう。個人個人で動くことはできませんが、言っていただければ当時のエピソードを話させていただきますよ」
規定ルートの説明は終えたのか、マクロさんがそう言ってきた。
見たい場所かぁ、正直そんなに思いつかない。
一応、さっき見た城の前にあった主戦場? あそこが少し気になると言えば気になる。
あそこは多くの血が流れた場所だろうし、瘴気が溜まりやすい場所でもある。この世界では動く死体やゴーストのような魔物も普通にいるし、そういったものが生まれやすいのは瘴気が濃い場所だ。
だから、ここにもそういったアンデット系の魔物がいてもおかしくないと思ったんだけど、それらが見られないのが少し気になった。
まあ、ここが滅んだのはもう700年も前の話だし、この時代になるまでに排除されたからどこかに行ってしまったって考えもあるけど、基本的にアンデットは怨念の集合体だからそれらが生まれる場所は特別な意味を持つことが多い。
この場合なら、城を守るために死んでいったわけだから、城を守るためにもこの地からは動かない気がする。
排除されたにしても、アンデットは基本不死身だし、完全に駆除するには浄化する必要がある。そんな人材がこの地にいたのだろうか。
まあ、単純に最近になって観光地化してきたから、教会の人を雇って浄化してもらったってだけかもしれないけどね。それに、死んだ後に丁重に弔われてアンデット化しなかった可能性もあるし。
どちらにしろ、そこまで気になることと言うわけではない。だから、私は特に行きたいところはなかった。
「あ、じゃあ少しいいですか?」
手を上げたのはキーリエさんで、城の宝物庫を見てみたいという話だった。
宝物庫、まあ確かに普段入れるような場所ではないし、お宝はないにしてもどんな構造になっているかとかは気になる、のかな?
まあ、別に行きたい場所もないしと言うことで、その案は承諾された。
できれば何か残ってくれていると面白いんだけどね。
感想ありがとうございます。