表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/1544

第三十九話:本選進出

 闘技大会予選二日目。昨日の反省を生かし、今日は早めに出てきたので時間ぎりぎりということはなかった。

 全く昨日は酷い目に遭った。あの後、夕食を食べるために一度放しはしたが、夜になるとまた抱き着いてきてそのまま寝てしまうのだから勘弁してほしい。

 私は抱き枕じゃないって。……まあ、ちょっと嬉しかったけど。

 今日もあれだというなら少し対策を考えた方がいいかもしれない。いや、今はもっと考えなければならないことがあるか。

 道中常に探知魔法をかけていたが、私達に付き纏う人影が一つあった。闘技場に来てからその姿を確認することが出来たけど、灰色のローブを被った人物だった。十中八九あいつらの仲間だろう。

 あいつらがどれほどの組織なのかはわからない。昨日会ったあの二人個人かもしれないし、もっと巨大なものなのかもしれない。そして、もしそうだとしたら私一人ではどうしようもない。

 なんとかあいつらの仲間を見つけ出せればそこに青年とその弟君がいるかもしれない。あいつらを見分ける方法があれば……。

 いや、待てよ? あいつらが着ているローブは魔法を無効化する効果がある。現に、今確認しているあいつらの仲間らしき人物の気配はとても希薄だ。それに、アリアの気配も感じられない。でも、それなら逆に気配が希薄な人物がいる場所を探せばそこにいるのでは?

 とはいえ、簡単なことではない。気配が希薄と言っても、それが距離が遠すぎてそう感じているのかどうかの判別がつかないから。これだけ至近距離にいてくれるならわかりやすいけど、流石にあいつらの根城はこの闘技場ではないだろう。

 中央部のどこかにあればまだ探しようがあるか……外縁部にあったらもうここからじゃわからないぞ。

 昨日の時点でもう少し気を張っていればよかったか。今日の試合が終わったら外縁部でも探知魔法を広げてみよう。


「ハク、出番みたいだよ?」


「え? あ、うん」


 気が付けば自分の番になっていたようだ。お姉ちゃんに促されてフィールドへと進む。


 試合の方は順調に勝ち進むことが出来た。三回戦目ということもあってそれなりふるいが掛けられ。選手達の練度は上がっていたが、相手が大ぶりな大剣使いだったこともあってそこまで苦戦することなく勝ち上がることが出来た。

 私が苦手とするのは素早い相手だ。オーガ戦の時もそうだったが、大ぶりな攻撃なら身体強化魔法を施した目によって完全に見切ることが出来る。だけど、相手が素早いと見切れたとしても体が間に合わない可能性がある。

 身体強化魔法を施していない体の方は目で見えているほど素早く動けない。相手がスローモーションのように見えるのと同じようにこちらの動きもスローモーションになるのだ。

 ある程度予測して早めに回避することはできる。だけど、それでも間に合わない時はあるだろう。お姉ちゃんの動きとか絶対間に合う気がしない。

 対策するには体に、特に足に身体強化魔法をかけておくことだけど、流石に負担が大きい。反動が来ることは間違いない。

 でも、いずれはそうでもしないと勝てない相手が来るだろうな……。

 ゼムルスさんと一緒に見た魔爪のミーシャもそうだし、お姉ちゃんともいずれは当たってしまうかもしれない。

 事情を話せれば簡単なことなんだけど……恨めし気に左腕を見てもそこには変わらず紋章が刻まれている。これがある限り、他言するのは不可能だ。

 いっそ腕でも切り落とせば行けるかもしれないけど、それは流石にやりたくないな……。

 気分は憂鬱だが、やらなければならない。気持ちを入れ替えて挑んだ第四試合も快勝でき、私は見事に本選進出を果たした。


「お疲れ様、ハク。凄いじゃない、連戦連勝よ?」


「流石はお嬢ちゃんだ。ちょっと尊敬しますぜ?」


「よしてくださいよ。私はゼムルスさんみたいな立派な冒険者じゃありませんから……」


 試合も終わり、再び闘技場の通路で出会う。

 ゼムルスさんは今日も見に来てくれたのか、終始私の事を褒め称えていた。

 褒めてくれるのは嬉しいけど、むず痒くて仕方がない。私はそんなに凄い人じゃない。親友一人守れないただの子供だ。


「ハク、元気ないけど、どうしたの?」


「う、ううん、なんでもないよ」


 自然と俯いていたところにお姉ちゃんが上から覗き込んでくる。

 努めて平静を装って笑ってみたが、口の端が引くついていてうまく笑えていたかどうかわからない。でも、お姉ちゃんはそれ以上聞いてくることはなかった。


「明日はいよいよ本選っすね。もしかしたら、姉妹対決になるかも?」


「あら、そうなったら正々堂々勝負しましょうね」


「う、うん」


 ブロック的にお姉ちゃんと当たるのは多分準決勝あたりだと思うけど……うん、勝てないだろうな。

 となると、少なくともそれまでにはあいつらのアジトを見つけないといけない。

 プログラム的に準決勝は恐らく二日後だ。間に合うだろうか……。いや、やるしかないんだ。


 明日にある本選に向けて宿へと戻る。帰り道でも探知魔法を広げてみたが、ついてくる一つの気配以外にそれらしい気配は感じられなかった。

 範囲が狭すぎるのだろうか。もっと魔力を込めて範囲を広げてみるが、やはり見つからない。この近くにはないのか、それとも希薄すぎて見つけられていないのか。

 ずきりと頭が痛む。少し魔力を使いすぎたかもしれない。でも、そんなことに構っていられるか。

 ふらつく足元を何とか修正しながら宿に戻ると、ベッドに倒れ込む。あれから町の半分を飲み込むくらいの範囲を探ってみたが、結局見つからなかった。

 いったいどこに隠れている? この町に確実にいるはずなのに……。

 探し方が悪いのだろうか。希薄な気配というだけでは曖昧過ぎる? 実際、希薄なだけだったらいくつかの気配はあった。だけど、それは距離的に仕方ないと思えるほどの場所であり、恐らく違うだろうと思われる。

 もしかして、その中に奴らのアジトがある? だとしても、それらをすべて調べることはできない。

 闘技大会があるし、何より見張りの目もある。確認した限り、見張りは一人だけのようだからあの見張りさえ倒せば少しくらいなら時間が稼げるかもしれないけど、流石に街を虱潰しに探しているだけの時間はない。

 もっと確実に、絶対にここがアジトだという保証がなければ乗り込むことも難しい。

 他に何かないだろうか。あいつらだとわかる何か、探知魔法に引っ掛かるような何かが。

 ……ダメだ、思い浮かばない。


「疲れちゃった? ハク、今日は頑張ってたもんね」


 隣に座ったお姉ちゃんが頭を撫でてくれる。

 落ち着くはずなのに、どこか胸のうちにもやもやとした感触がわだかまっている。

 いや、わかっている。焦っているんだ。

 このままアリアを救い出せなかったら? そう考えると胸が締め付けられる思いがする。

 アリアは私にとってかけがえのない親友だ。それをあんな得体のしれない連中に好きにされるなんて耐えられない。出来ることなら今すぐ探しに行きたい。

 だけど、私が下手に動けば人質となっている青年はもちろん、アリアにだって危険が及ぶかもしれない。それは絶対にダメだ。

 いっそ探索はいったん諦めて紋章の方を何とかした方がいいか? 呪いというものがよくわからないが、ゲームで言うなら教会かなにかで解いてもらうようなものではないか? かけることが出来るのだ、解く方法だってあるはず。

 ちらりと左腕を見ると、袖の下に隠れた紋章がチクリと痛んだ気がした。

 昨日の夜から高熱と腹痛に苛まれてまともに小説が書けません。薬を飲んでも腹痛が収まらないので変な病気じゃないか心配です。

 コロナではない気がするのですが……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] アリア先生も居ない中、時間と精神的に追い込まれるハクさんの緊張感。 [気になる点] 王都の半分を探知範囲に収めるハクさんの探索魔法、これかなりどえらい魔力発現だと思うんですけど(´Д` )…
[気になる点] 魔法無効化のローブがこんな何着もポンポンでてきたらこの世界の魔法使いが軒並み雑魚化するやん…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ