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捨てられたと思ったら異世界に転生していた話  作者: ウィン
第十一章:編入生と修学旅行編
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第三百七十一話:的当て勝負

 構えはごく自然だ。他の生徒のように大きな声で詠唱したり目を閉じて集中したりと言ったことはせず、じっと的を見つめている。

 そして、おもむろに片手を上げたかと思うと、その瞬間手が火球と化した。

 火球を生み出した、ではない。そのままの意味で、手が火球となったのだ。

 手が燃えているとも言っていい状況ではあるが、カムイさんはそれを意に介さず、冷静に見据え、放り投げるように火球を放つ。放たれた火球は見事に的に命中し、ぱきんと言う音と共に砕いてしまった。

 それだけではない。命中したはずの火球はそのまま消滅することなく軌道を変え、隣にあった的へと迫る。そして、背面から当たると、同じように砕いてしまった。

 それを繰り返し、置いてある的はすべて破壊されてしまう。すべての的を葬り去った火球はその後カムイさんの手へと戻ると、再び手の形を形成し、元の白い手に戻った。


「おぉ……」


 思わず感嘆の声が漏れる。

 魔法の軌道を途中で変えるというのは中々に難しい技術だ。通常の火球は、何事もなく直進すれば満点で、他はイメージ不足によって軌道がぶれたりする程度。

 一応、魔法陣に手を加えれば途中で軌道を操ることもできなくはないが、魔力消費の観点からしてもかなり無駄が多く、ある意味曲芸に近い。

 それをあっさりとやれるというだけで凄いし、しかも的を破壊できるほどの威力があり、それが衰えないというのも凄い。

 まさに体の一部を扱うかのような動きだった。魔法とは少し違う気もするけど、端から見たら魔法と言っても遜色ないだろう。

 完璧に能力を使いこなしている。その姿はいつものドジっぷりからは想像ができないくらい立派だった。


「カムイさん、今のは……」


「ファイアボールですよね? あ、的は壊しちゃダメだったでしょうか……」


 私を含め、生徒達が唖然とする中、先生が恐る恐ると言った体で話しかける。

 カムイさん的にはあれはファイアボールらしいが、あれはもはやファイアボールの形をした何かだ。少なくとも、初級魔法の域ではない。

 先生もどう言葉をかけていいかわからない様子。魔法の誘導に関しては私よりも凄いし、編入生が、しかも魔法が苦手な獣人がそれをやったと考えると気持ちはわかる。


「いえ、的はいいんだけれど……」


「よかった。まずいことをしたんじゃないかとひやひやしました」


 十分まずいことをしているのだが、カムイさんはそれに気が付いていないらしい。

 まあ確かに、聖教勇者連盟で育ったのなら周りはみんな特殊な能力を持つ者ばかりだっただろうし、その辺りの常識はあまりないのかな? いや、転生者だとわかっているのだからそれはないか。

 となると天然なのか。ドジっ子で天然ってもうどうしようもないと思うんだけど……。


「カムイちゃん凄い! 今のどうやったの?」


「何かコツとかあるのか? 教えてくれよ」


「ハクさん、エルさんに次ぐ天才現るって感じ? ぜひともお近づきになりたいわ」


 一時の静寂の後、どっと生徒達がカムイさんに集結する。

 カムイさんはきょとんとした様子だったが、生徒達からすれば天才が現れたと騒ぐのも無理はないだろう。

 私は授業ではあまり本気を出さないからそういうことはあまりされたことはないが、一部の生徒には実力がばれてしまっている様子。まあ、騒ぎ立てなければ何でもいいんだけどね。


「カムイさんって凄いんですのね」


「獣人は魔法が使えないとよく聞きますけれど、あれを見るとそうとは思えませんわ」


 シルヴィアさんとアーシェさんも感心した様子でカムイさんを見ている。

 まあ、あれがすべてと言うわけではないだろうけど、少なくとも火魔法の操作に関しては一流と言うことがわかった。

 あれは結構厄介そうだ。自在に軌道を操れるってことは、避けても意味がないということだし、使い方によっては相手を拘束することもできるかもしれない。

 あんなことができるのならさっさとそれを使って攻撃してくればいいと思うのだが、なんでしてこないんだろうか。

 まだ様子見している最中とか? だとしたら、もっと自然に振舞えばいいと思うけど……やっぱりよくわからない。


「とりあえず、的の再設置でも手伝おうか」


 授業が終わるまではまだ間がある。的がなくては練習もできないだろう。

 その後、カムイさんは生徒達の注目の的になり、その動きを観察されることになった。

 ただ、カムイさんの放つ火球は手をそのまま火球に変化させるような方式のため、真似した生徒達が手に火傷を負う事件が頻発し、結局授業は途中で中断されてしまった。

 まあ、普通の人があれを真似したらそうなるよね。あれは体を炎に変化させることができるカムイさんだからできる技だ。

 そのことに対し、カムイさんは昔からこうだったと言っていたから一応能力について隠す気はあるのかな? 私の前だから言いたくないだけかもしれないけど。

 とはいえ、自分のせいでみんなに火傷を負わせてしまったことに責任を感じたらしく、カムイさんは終始生徒達に謝っていた。

 根は優しいんだろうな、と思う。だからこそ、本気で殺そうとしてないのかもしれないね。

 火傷を負った生徒達に簡易的な治癒魔法を施しつつ、カムイさんの事をそう分析した。


 授業が終わり、放課後となった。

 多数の火傷者を出した授業もあったが、それ以外は特に問題も起きず、平穏な時間が過ぎていった。

 この後は研究室に寄っていつも通り魔法薬の実験をするかと考えていたが、急な乱入によってその考えはかき消されることになる。


「ハク、逃がさないわよ!」


「はぁ、今度は何ですか?」


 お試し期間中は放課後は特にアプローチはなかったのだが、ここにきて初めてちょっかいをかけられた。

 一日一回が基本なのかなと思っていたから、これは予想外でもある。ただ、今までがおかしかっただけでもっと粘着してもおかしくはないと思っていたから特に驚きはない。

 これは日に日に増えていくパターンだろうか。休み時間や放課後に話しかけられるとかならともかく、食事中とか就寝中に来られるとちょっと面倒な気がする。

 もしそうなったら、何か対策を講じる必要があるだろう。そうならないのが一番ではあるけどね。


「さっきはできなかったからね、改めて勝負よ!」


「勝負? それって、的当ての事ですか?」


「そうよ! 負けないんだからね!」


 そういえば、やるなら放課後にしろと先生も言っていた気がする。それを律義に守ってきたってことか。

 まあ、いきなり攻撃されるならともかく、ただの勝負の誘いなら別に問題はない。ほんとは研究室に行きたかったけど、別に必ず行かなければいけないわけではないし。


「わかりました。それじゃあお相手になりますよ」


「ふふん、私に挑んだことを後悔させてあげるわ」


 挑んでるのはそっちだと思うんだけど……まあ何も言うまい。

 誰かついてくるかと聞いたら、エルは当然として、サリアやシルヴィアさん、アーシェさんも付いてくると言ってきた。まあいつものメンバーだね。

 訓練室の鍵を借りるために一度職員室に寄った後、訓練室に向かう。火魔法の授業で使った部屋と同じ部屋だ。


「それで、勝負の方法は?」


「お互いに同時に攻撃して、どちらが多く的を破壊できるかの勝負よ」


 なるほど、シンプルでわかりやすい。

 的の数は全部で三十個。十六個以上破壊出来れば勝ちだな。

 ただ、向こうは魔法誘導が相当長けている。私も速射には自信があるけど、どこまで通用するか。


「誰か合図お願いね。ハク、負けないから!」


「わかりました。お相手しますよ」


 その後、エルの合図によって的当てが始まった。

 まあ、やろうと思えば範囲魔法で一掃と言うこともできたけど、そこはちゃんと勝負したよ。

 結果は引き分け。同じ十五個だった。思ったより拮抗したなぁ。割と楽しかったかもしれない。


「くっ、引き分けね……。今度は負けないから、首を洗って待ってなさい!」


 そう言ってカムイさんは去っていった。

 というか、当初の目的はどこに行ったんだろうか。私のこと倒すんじゃなかったの?

 まあ、勝負に勝っても倒したと言えるかもしれないが、聖教勇者連盟が望んでいるのはそういうことじゃない気がする。

 それをわかっているのかそうでないのか、カムイさんの性格は容易には測りきれないなと思った。

 感想ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] 実は当初の目的忘れてる可能性……
[一言] ん〜?(- -;)カムイ、この子の「倒す」は物騒な意味じゃなくて能力の優劣を競うって事だったのなら、ポンコツ愉快すぎる。(^◇^;)勇者やその取り巻きが誤魔化し様の無い邪悪だったから読者は警…
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