第三百六十八話:後任の実力
「それで、カムイさんはどんな人なんですか?」
「一言で言うと、ドジっ子なのです」
うん、知ってた。というか、聖教勇者連盟の中でもそんな扱いなのか。
シンシアさん達は聖教勇者連盟の中でも自由に動いているいわゆる自由グループに所属している。だから、対竜人や対竜をこなす対竜グループや魔物などの戦闘が主な戦闘グループと比べると練度も低く、実力はあまり高くない、らしい。
まあ、それでも持ち前の能力が強力なため、それらを活用すれば軽くAランク冒険者になれるくらいには強いようだが。むしろ、能力一辺倒の他のグループより、色々なことに手を出している自由グループの方が練度が高いまである。
そこらへんはグループ同士の対立というか、色々あるらしいのだがそれは置いておいて、カムイさんはそのグループの中で対竜グループに所属しているようだ。つまり、竜や竜人に対する訓練を行ってる人ってことだね。
まあ、エルと言う竜を倒すためによこされたのなら当たり前とも言えるけど、人数的にも特徴的にもあまりいいチョイスとは言えない気がする。
何か選ばれた理由でもあるんだろうか。
「でも、実力は本物なのです。やる時はやる子で、同じグループの中でも最強と呼び声が高いのです」
「そんなに強いんですか?」
「少なくとも、私やセシルさん達では勝てないのです」
少しドジなところはあるけれど、それを補えるほど実力が高いってことか。
多分、学園に入れたのは聖教勇者連盟からの圧力なんだろうけど、だとしても全く魔法が使えないのでは潜入したとしても目立ってしまうだろうし、それなりに魔法が使えるのかもしれない。
むしろ、そういう能力を持っているのかも? 獣人が魔法が使えない理由は魔力が少ないからだし、魔力無限みたいな能力を持っているなら獣人でもかなり強そうではある。魔法の威力は魔力の量で決まるからね。
「どんな能力を持っているんですか?」
「確か、体を炎に変化させて自由に操ることができるっていう能力なのです」
「なんかどこかで聞いたような能力ですね……」
「私もそう思うのです」
確か、前世で見たアニメの中にそんな能力を持っていた人がいた気がする。あれと同じだと考えるなら、確かに結構強いかもしれない。
炎だから斬撃は効きませんとか言ってきそう。水かけたら消えるのかな、それだったらかなり楽だけど、それで死んでしまったらちょっと大変だな。
「基本的に死なないし、触るだけで火傷しちゃうので物理寄りの人だと完封されてしまうのです」
「そのようですね。でも、私は魔法型なんですが……」
確かに、いくら竜でも死なない相手だったら倒すのは難しい。空間魔法などで閉じ込めることくらいはできそうだが、それが出来なければしつこく追い回される羽目になるだろう。
ただ、魔法型の場合そもそも相手を近寄らせないという戦い方ができるのでこちらが負けることも少ない気がする。特に、火に対して水が効くのならこちらの方が圧倒的に有利だろう。もし効かなかったとしても、単純な威力だけで押し返せる自信はある。
セシルさんは報告はきちんと行ったらしいのだが、実力はあっても相性が悪ければそれはいい人選とは言えないだろう。向こうは何を思ってカムイさんを派遣したのだろうか。
「多分、ハクちゃんなら負けることはないと思うのです。だからそこは心配していないのですが、カムイちゃんの方が心配なのです」
「なにがです?」
「その、張り切りすぎてとんでもないことをしでかしそうで……」
ああ、確かにわかるかもしれない。
正直、初対面の時のような攻撃ならばいくら攻撃されても私を倒すことはできないだろう。不意打ちしようにも私は常に探知魔法を張っているし、仮に油断して不意打ちを受けたとしても竜の力が完全に解放されている今、私の皮膚はエルと同じくらい硬い。まず一撃で死ぬことはないだろう。
いくら相手が実体を持たない炎になれるとしても、私もエルも空間魔法は使えるし、その気になれば結界で閉じ込めることだってできる。
問題なのは、私を攻撃しようとして他の者に迷惑をかけることだ。
例えば、授業中にいきなり私に襲い掛かってきたら他の人に迷惑がかかる。まあ、それくらいだったら可愛いもので、他の人を人質に取ったり、監禁したりといった手段を取ろうものならかなり迷惑をかけることになるだろう。
で、その尻拭いは私がやる羽目になると思う。そう考えると、結構厄介な存在かもしれない。
「ところで、聞いておいてなんですけど、私に彼女の事を話してよかったんですか?」
「ハクちゃんはもう友達なのです。家族のことも大事だけど、同じくらい友達のことも大事なのです」
「そうですか」
なんというか、シンシアさんらしい。
博愛主義、と言うわけではないと思うけど、シンシアさんはたとえ敵であっても助けたいと思ってしまうほどのお人好しだ。家族の事を大事にしていて、その家族を奪われる苦しみを知っているからこそ、相手にも同じ要素を見出してしまって中々非情になれない。
まあ、だからこそ竜の話にも耳を傾けてくれたし、そこがシンシアさんのいいところでもあるんだけどね。
「後任が来たわけですけど、シンシアさん達はもう王都を離れるんですか?」
「いえ、しばらくはゆっくりする予定なのです。カムイちゃんのバックアップも任せられていますし、しばらく冒険はいいかなと思っているのです」
シンシアさんの所属するチーム『流星』は各地の村々を回り、かなり良心的な価格で依頼を受けたりしているらしいのだが、今は心の整理をしたいようだ。
まだあの時のトラウマを引きずっているのだろうか。もう結構経ったけど、まあ確かに心の傷は容易には癒えないしね。自信を取り戻すのに少し時間がかかるのかもしれない。
さて、ようやく謎が解けた。
カムイさんは聖教勇者連盟の刺客であり、私およびエルを倒すために学園に潜入してきたということだ。
私を敵視していたのはそういう理由だったのかとようやく落ち着くことができる。
もちろん、対処をどうしようかとか色々やることはあるけれど、まあ多分大丈夫だろう。やる時はやる子だと言っていたが、今のところはそんな兆しはないし、適当にあしらっていればそのうち諦めるかもしれない。
いや、出来れば取り込んで二度と刺客がやってこないようにするのも手か。いつまでも付け狙われるのは勘弁だし。
「ありがとうございます。おかげで助かりました」
「いえいえ、お役に立てたようなら何よりなのです。また学園に遊びに行ってもいいですか?」
「ええ、いつでもどうぞ」
「それじゃあ、今度遊びに行くのです!」
そのうち遊ぶと約束してシンシアさんと別れる。
ドジっ子の刺客かぁ、なんか意外過ぎてどう転ぶかあまり想像できない。
これがちょいちょいちょっかいを出してくるかまってちゃんみたいな感じだったらまあいいんだけど、ほんとに他の人に迷惑かけないかだけが心配だ。
もちろん、エルの命を狙っているというのも問題だけど、私の目の黒いうちはエルに手を出させることはない。仮に出されたとしても、多分あれくらいならエルでも余裕で勝てる気がする。だから、あまり心配はしていない。
ひとまず、息が詰まらない程度に軽く警戒しておくことにしよう。そして、出来る限り被害を押さえるのが目標かな。
とりあえずの目標を立てつつ、学園へと戻る。さて、どうなることやら。
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