第三百六十七話:意外な関係
カムイさんの事を知っていそうな知り合い。正直心当たりはないけれど、ひとまずトラム大陸の事を知っていそうな人に聞いてみることにした。
と言っても、そんな知り合いはあまりいない。なので、とりあえず最近までトラム大陸にいたお兄ちゃんに聞いてみることにした。
「……と言うわけなんだけど、何か知らない?」
「犬獣人のカムイか……確かに、一度材料を探すために協力してもらったことはあったが、その名前には聞き覚えがないな」
犬獣人は鼻が効くらしく、それを利用して『輪廻転生の杯』の材料を探してもらったことがあったらしい。しかし、そこはお兄ちゃんらしく、友好的に接して十分な報酬も払った上での協力だったため、恨まれるようなことは一切していないとのことだった。
まあ、仮に恨まれるようなことをしていたとしても、私とお兄ちゃんが会ったのはほんとに最近だから関係は薄いように思える。
やはり、私がある程度接した知り合いとなるか。
「ありがと、お兄ちゃん。他を当たってみるね」
「ああ。あんまり遅くなるなよ」
さて、となると他に知り合いは……ギルドの人達だろうか。
冒険者ならばもしかしたらトラム大陸の関係者もいるかもしれないし、獣人だっている。何かしら関係があるかもしれない。
そういうわけでギルドへと向かったのだが、ギルドマスターを含め色んな冒険者に聞いてみたけどすべて空振りに終わった。
一応、フォシュロンゼ伯爵家と言う名前も当たってみたが、皆知らないという。
まあ、貴族からの依頼を受ける冒険者はBランク以上がほとんどだし、そこまで聞き覚えがある人はいないか。そもそも冒険者に依頼を出すような家なのかもわからないし。
であれば、もっと大きな繋がりかもしれない。
「それで私のところに来たと」
「はい。何か知りませんか?」
次にやってきたのは王子のところだ。
オルフェス王国は海に面しているため、船による貿易も行っている。だから、トラム大陸とも一応無関係というわけではない。
だから、国同士の繋がりに詳しいであろう王子の下に来たのだが、王子は少し苦笑いをしながら知らないと答えた。
「私も外交に携わる関係上少しばかりは情報が流れてくるが、そこまで詳しいことは知らない。そのカムイと言う少女の事も聞いたことはないな」
「そうですか」
国同士の外交のために国の要人が移動する場合、ほとんどは転移魔法陣を用いて行うらしいのだが、トラム大陸では転移魔法陣を敷いている国はあまり多くないらしい。
一応、エルクード帝国が転移魔法陣を持っているが、使うことは稀だそうだ。王子も行ったことはないらしい。
王様ならばあるいは行ったことがあるかもしれないが、私がこの国に来てからはまだ行っていないらしい。ならば、あまり関係ないかもしれない。
「……ハク、その、なんだ……」
「どうかしましたか?」
後は誰かいただろうかと考えあぐねていると、王子がなにやら口をもごもごさせながら何か言いたげにしていた。
「竜の力がさらに強くなったことは聞いた。そして、それの制御に苦労しているとも……私などでは頼りないかもしれないが、もし辛くなったらどうか私を頼って欲しい。出来る限り力になるつもりだ」
「はぁ、ありがとうございます?」
エルが生き返った後、私の身に起こったことは私の正体を知るメンバーには全員伝えた。特に、力が強くなった関係で学園でやらかす可能性が高くなったことから、王様や王子には割と詳しく説明していた。
だから、少し不安になったのかもしれない。私も絶対にやらかさないという自信はないし。
でもまあ、きっと大丈夫だろうとも思っている。私にはエルもいるし、サリアもいるし、シルヴィアさんやアーシェさん、ミスティアさんなどたくさんの友達がいる。そしてその中には王子も入っている。
だから、仮に私が何かやらかしたとしても誰かがフォローしてくれるだろう。もちろん、何もやらかさないのが一番ではあるけどね。
「心配しなくても、気を付けるつもりではいますよ。でも、もしもの時は頼りにしてますね、王子」
「あ、ああ、任せておけ!」
さて、王子からはこれくらいでいいだろう。と言うか、もう知ってそうな知り合いがいない。
一番ありそうなのはロニールさんではあったけど、ロニールさんはすでに行商に出てしまっていて王都にはいないので、話を聞くことはできない。
うーん、どうしたものか。
「あ、ハクちゃんなのです!」
しばらく当てもなく町をぶらついていると、不意に声をかけられた。
振り返ってみると、狐耳を生やした女の子がこちらに走ってくるのが見えた。
「シンシアさん、なんだかお久しぶりですね」
「お久しぶりなのです。お元気にしていましたか?」
「まあ、少し落ち込んでいた時もありましたが今は大丈夫です」
シンシアさんは聖教勇者連盟の一員であり、冒険者チーム『流星』のメンバーの一人だ。
以前、エルの姿を見て聖教勇者連盟の方から指令を受け、エルを討伐するためにやってきたところを私が返り討ちにし、今は停戦協定を結んだ関係である。
まあ、停戦協定と言っても後任が決まるまでの間の監視の意味合いが強く、後任が到着し次第また討伐って流れになるのは目に見えているんだけど、その辺はもうどうしようもない。
私の中で聖教勇者連盟の株はかなり下がっている。危険な魔物を倒すというのはまだいいけど、竜人まで平然と殺しているのは納得できない。一億歩くらい譲って竜人が悪という考え方を許したとしても、その過程で無関係の種族まで殺そうとするのはもはやただの無差別殺人だ。神の名の下に正義を成すと言えば聞こえはいいけど、実際はただの殺人集団である。
もちろん、シンシアさんやカエデさんのように全員がそういう考えではないようだけど、大半の転生者達はそういう風に教育されてしまっているから面倒だ。
まあ、それはそれとして、停戦協定を結んでからそろそろ半年くらい経つだろうか。私の力を危険視しているにしても、対応がかなり遅い気がする。来るならもうとっくに来ていてもいい気がするんだけど。
いや、来ないならそれに越したことはない。むしろもうこのままずっと来ないでほしい。面倒事を増やしたくはないし。
「それで、どうしたんですか?」
「えっと、学園の方にカムイちゃんと言う方が来てると思うんですが、ご存じなのです?」
シンシアさんの口から飛び出したのは今まさに調べている少女の事だった。
そういえば、確かにシンシアさん達聖教勇者連盟の本拠地はトラム大陸にある。そして、メンバーであるセシルさんやルナさんは私が徹底的に戦ってトラウマを与えた相手だ。
私の知り合いで、さらに私に恨みがある。なるほど、聖教勇者連盟絡みだったわけか。
「知ってるも何も、同じクラスになりましたが」
「あ、そうなのですか。それなら話が早いのです」
「えっと、どういう関係なので?」
「簡単に言うと、私達の後任なのです」
まさかとは思ったが、彼女が後任、つまり私およびエルを倒すために派遣された人なのだという。
まあ、聖教勇者連盟の関係者なのだから転生者か、もしくはそれに近い能力を持っている人なんだろうけど、見た感じシンシアさんより弱そうな気がする。
いや、もちろん、シンシアさんだって弱いわけではない。力は並の獣人と同じくらいのようだが、材料さえあればどんなものでも成型できる能力によってあらゆる武器を作り出すことができるし、愛用している二丁拳銃も特殊な弾丸を使うことでBランクの魔物を一撃で葬り去るくらいの威力を持っている。
ただ、それ以上に強かったルナさんやセシルさんを差し置いて、カムイさんが強そうに見えるかと言われたら全然そうは思えない。ドジっ子だし。
これ、ここまで遅れた理由も案外道に迷ったとかなのかもしれないな。
そんなことをつらつら考えながら、シンシアさんの話に耳を傾けた。
感想、誤字報告ありがとうございます。