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捨てられたと思ったら異世界に転生していた話  作者: ウィン
第十一章:編入生と修学旅行編
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第三百六十五話:獣人の編入生

 正直、エルが復活するまでは塞ぎ込んでいたように思える。

 本来なら、ほったらかしにしていたサリアはもちろん、アリシアやテトさん、サクさんやギルドのみんなに挨拶に行くところをちょっと顔を出しただけでその後はずっとリハビリの時間に充てていた。

 確かに、竜の力を早急に制御できるようにするというのは必要なことではあったけど、それにしたってないがしろにしすぎだった。

 今思えば、それだけ余裕がなかったってことなんだろう。何かに打ち込んでいなければ心が潰れてしまいそうで、耐えられなかった。あんまり引きずっていないと思っていたけど、結局引きずってたんだなぁ。

 でも、それもエルが復活したことで解消された。

 春休みも残り少なかったが、きちんと知り合いには挨拶に行けたし、サリアとも普通に接することができた。そしてなにより、エルのアドバイスによって竜の力の制御方法もある程度理解できたので、多少の窮屈さはあるものの魔力駄々洩れで威圧感バリバリと言うことはなくなった。

 これで普通に生活する分には大丈夫だろう。そう思えるところまで回復した時、ちょうど春休みが終わった。


 今年で私は三年生になる。授業内容的には一年生で習った内容の復習が少し減ったくらいで二年生の時とあまり変わらないらしい。

 まあ、Bクラスともなれば多少なりとも詠唱を覚えている人は多くなってくるが、それ以外のクラスだと未だに詠唱を覚えられない人も多く、二年生から四年生までは詠唱を完璧にマスターするための期間だと言われているらしい。

 もちろん、すでに完璧に覚えている者は魔法の応用も視野に入れて勉強することが求められるし、この時点で詠唱を覚えているからと言って授業が楽になるわけではないが、今後さらに上のクラスを目指すならばこの時点で覚えておくことに越したことはない。

 ちなみに、今回はクラス替えはなかった。いや、あったはあったけどBクラスのままだったのだ。

 サリアの実力であればAクラスも狙えたことだろう。しかし、サリアは対抗試合でこそ頑張ったとはいえ、テストでは程よく手を抜いたらしくこのクラス分けとなったのだ。

 本来であれば、テストで手を抜くのは不真面目な行為だろう。しかし、サリアが手を抜いたのは何も楽をしたいからというわけではなく、友達と一緒にいたいからという理由だった。

 友達、主にシルヴィアさんやアーシェさん達だが、一緒に勉強する機会も多い。その中で、どうにもみんなAクラスに行くには点数が足りなくなりそうだと睨んだサリアは、あえて手を抜くことで彼女らと一緒のクラスになろうと画策したわけだ。

 その結果、見事に同じクラスになることができた。そして、サリアのお目付け役である私も自動的にBクラスとなり、晴れてみんな一緒に仲良く同じクラスというわけだ。

 まあ、サリアのモチベーション的にも友達が多いのに越したことはない。向こうもできることなら一緒のクラスになりたいと思っていたようだし、学園生活が楽しいものになるなら手を抜くのも十分ありだろう。


「ハクさん、サリアさん、エルさん、おはようございます」


「クラス分けは見まして? 今回も同じクラスですわ!」


「シルヴィアさん、アーシェさん、おはようございます。また同じクラスになれて嬉しいです」


「頑張った甲斐があったぞ!」


 早速やってきたシルヴィアさん達が喜びの声を上げる。

 最近、実家にお呼ばれしてもいけないことが多いので申し訳ないのだが、あまり気にしていないようで正直助かっている。

 今度誘われたらできるだけ行くことにしよう。……と思ったけど、こんなこと言ったら用事が入りそうで怖い。フラグって割と回収されるからね。


「今年もよろしくお願いしますわね、皆さん」


「ええ、こちらこそ」


 雑談をしながら教室へと向かう。前回同様、今日は始業式と連絡事項を伝えられるだけで授業はない。

 教室にはすでに数人の生徒が席に座っていた。その中には見知った顔もちらほらあるが、いない人も多い。やはり、Bクラスを維持し続けるというのは少し難しいようだ。そう考えると、Aクラスには上がれなかったものの、Bクラスに留まったシルヴィアさん達は結構優秀と言うことになる。

 この調子でキープできていければいいね。


「はい、皆さん、席についてください」


 しばらく教室で話していると、担任と思わしき先生が入ってきた。

 確か、火魔法を担当している人だったかな。去年のお試し期間中の授業で出会った気がする。

 二年の時も火魔法の先生が担任だったし、Bクラスは火魔法に縁でもあるんだろうか。

 今年も無事にシルヴィアさん達と一緒になれたので火魔法に関しては履修するつもりだが、急激に魔力が上がったので無意識にとんでもない威力の魔法を放ってしまう可能性もあるから一層気を付けないと。

 その後、いくつかの連絡事項があり、そろそろホームルームも終わるかと思われたその時、最後に先生が明るい声で重要事項を言い放った。


「……そうそう、今日から新しい子がこのクラスに編入することになります。どうぞ、入ってきてください」


 先生が扉に向かって呼びかけると、ガラガラと扉を開けて一人の少女が入ってくる。

 肩くらいの長さに切り揃えられた夕焼け色の髪にパールのような乳白色の瞳、病的なまでに白い肌はしゃなりしゃなりと優雅に歩く姿と相まってまるで深窓の令嬢を思わせる。そしてなにより、頭の上と腰元から生える髪色と同色の犬耳と尻尾は彼女が獣人であるということを示していた。

 編入なんて珍しい、とも思ったけど、私もサリアも、そしてエルもみんな編入生なので特に珍しくもないか。むしろ、獣人が入ってくることの方が珍しすぎる。

 獣人はドワーフと同じく種族的に魔法に対する適性が低く、使える者でも一属性がやっとといったところ。それも、魔力が少ないので使えるのは初級魔法程度だ。まあ、その代わりに身体能力が非常に高いわけだが。

 だが、ここは魔法学園。その程度の実力で入れるようなところではないし、ましてやBクラスともなれば通常よりも高い水準を要求される。それなのにこうして堂々と編入できるということは、仮に一属性だけだったとしても相当魔法の扱いがうまいか、複数の属性を持っているということだろうか。

 どんな子なのだろうとその様子を見ていると、教壇に上がる際にちょっとした段差に躓き、盛大に転倒した。


「……」


「だ、大丈夫?」


 近くにいた先生が心配そうに声をかけると、少女はプルプルと肩を震わせながらゆっくりと立ち上がる。

 顔から思いっきりぶつかったのだろう。鼻血などは出ていないようだが、おでこが赤く腫れてしまっている。


「……お構いなく。これくらい、何ともありません」


「そ、そう? 医務室で見てもらった方が……」


「大丈夫! です!」


 若干涙目になってしまっているが、少女は声を大にして先生の提案を突っぱねた。

 編入初日、挨拶する場面でいきなりこけるとかかなりメンタルに響きそうだけど、ここで逃げ出さない胆力は凄い。

 私も前世で面接の時に名前を呼ばれて入った時、緊張して思いっきり扉を蹴ってしまって気まずい思いをしながら耐えたことがあったが、今回のは自分にダメージがある分もっと辛いだろう。

 今後に響かなければいいんだけど。


「そ、そう。それじゃあ、自己紹介をお願いできる?」


「わかりました」


 少女はぱたぱたと埃を払うと、コホンと咳ばらいを一つ。


「私はカムイと申します。遠くトラム大陸からやって参りました。皆様、どうかこれからよろしくお願いしましゅ!」


「あっ……」


 今、噛んだよね? なんか先程の事がなかったかのように毅然と挨拶を始めたけど、大事なところで噛んだよね?

 割と思いっきり噛んだのか、口を押えて痛そうにしている。多分、口の中に鉄の味が広がっていることだろう。

 転倒したというだけでも結構なことなのに、その上台詞を噛んでしまうなんてどこまでついてないんだ。


「……カムイさん?」


「むがぁぁぁああ! なんでいつもいつもうまくいかないのよぉぉぉ!」


 とうとう耐えきれなくなったのか、少女、もといカムイさんは悲痛な叫びを上げた。

 なんか、また濃い人が入ってきたなぁと他人事のように思っていた。

 感想、誤字報告ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] やっぱりサリアさんそこそこ頭良いんだなぁ
[良い点] 今回は素晴らしいスカシ展開!(^皿^;) 副題の「獣人の編入生」←(*´-`)?ヒックくんかな? 出て来たのは見知らぬアルビノの女の子←(´Д` )違ったか〜。 しゃなりしゃなりとお…
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