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捨てられたと思ったら異世界に転生していた話  作者: ウィン
第十一章:編入生と修学旅行編
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第三百六十四話:転生の儀式

 今回から第十一章が始まります。

 無事に王都に帰還し、春休みもそろそろ終わりという頃。ついに念願だった物が完成した。

 そう、『輪廻転生の杯』だ。

 私が竜形態の動き方や魔力の制御の仕方に悪戦苦闘している間、お兄ちゃんはずっとそれを作るのに尽力していて、ついに完成したとのことだった。

 ようやく、ようやくエルを生き返らせることができる。

 この二か月ほど、エルのいない生活は寂しかった。私がリハビリしていたということもあるけど、いつも一緒にいるのはアリアだけで、サリアともテトさんともほとんど会っていなかったのでだいぶ来るものがあった。

 会おうと思えば会える友達はともかく、エルに関しては最初のうちはまだ我慢できていたが、やはり私の中でも特別な存在となっていたエルの喪失は精神的に多大な負荷となって押し寄せてきた。

 でも、それも今日で終わる。ミホさんに確認してみても、ばっちりできているとのお墨付きをもらったし、いい感じに満月も来て準備万端。

 エルの遺体も【ストレージ】から取り出し、後は実行に移すだけだった。


「ハク、準備はいいな?」


「うん」


 お兄ちゃんのためにも拠点が必要だろうと購入した、小さな屋敷に集まる。今いるメンバーはお兄ちゃんとお姉ちゃん、ミホさんにアリア、そして私の五人だ。

 エルの死についてはアリシアくらいにしか伝えていない。混乱させるのもどうかと思ったし、下手に死んだという噂が流れれば生き返った時に不便になってしまうだろう。

 だからあくまで秘密裏に事を進めてきた。

 屋敷の庭に魔法陣を描き、その上にエルを横たえる。

 見たこともない魔法陣だけど、ミホさんに聞いたところ空間魔法の一種なのだという。流石、空間の大精霊は空間魔法の知識に関しては右に出る者はいないな。


「確か、これを手に持って生き返らせたい者のことを強く思えばいいんだったな?」


「はい。そうすれば、輪廻の輪の中からその者の魂が呼び出され、器に魂が宿り、生き返るはずです」


 ただ願うだけなんて簡単だなと思ったが、そもそも特定の魂を呼び出すなんてそうそうできないらしい。

 死んだばかりでまだ現世に留まっている魂ならばともかく、すでに輪廻の輪に取り込まれてしまっている魂を探すのは砂漠で一粒の砂を探すような行為のようだ。

 それを可能にするために、世界に現存するあらゆる魔力的リソースが高い素材を混ぜ込み、それを神金属によって固め、さらに儀式魔法によって固定化することによってようやく、輪廻の輪に干渉することができるのだとか。


「決して無駄なことは考えないようにしてください。想いがぶれればぶれるほど、別人が呼び出される可能性が高くなります。そうなれば、もうやり直しは利きません」


 輪廻転生と言う名前の通り、これは蘇生と言うよりは転生に近い。なので、用意する器によっては全く別人の姿になる。

 今回は遺体が残っているので問題はないが、それでも特定の魂を呼び出すというのは至難の業らしく、エルを想う気持ちがものをいうらしい。

 強制的に転生させるという無茶を通す以上、神金属で固定化してもなお不安定であり、一度転生をさせてしまったら杯は壊れてしまう。だから、やり直しはできない。

 チャンスは一度きり。そう聞くと少し不安になるが、エルを思う気持ちなら誰にも負けない自信がある。

 大丈夫、私なら、エルの魂をちゃんと呼び出せる。そう自分に言い聞かせた。


「それでは、ラルド様」


「ああ。ハク、頼んだぞ」


「わかった」


 お兄ちゃんから杯を受け取り、エルの遺体の前に立つ。

 体が巨大なので魔法陣が隠れてしまっているが、なるべくその魔法陣を意識しながら、目を閉じて集中する。

 エルの事を想う。エルは私にとっての仲間であり、保護者であり、家族だ。今までの思い出を思い出しながらエルの事を強くイメージする。

 すると、エルの身体の下から光が漏れ出した。魔法陣が発光しているのだ。

 だが、それに気を取られることなく集中し続ける。

 エル、エル、エル。エルの魂。どうか、戻ってきて……!


「これは……」


「転生の瞬間ってやつですね」


 どれほど集中していたことだろう。自分が立っていることすら忘れて想い続けたその時間はほんの数分のようにも思えるし、数時間だったようにも思える。

 しかし、その苦労は確実に実を結んだ。

 のそり、とエルの身体が動く。メタリックな質感を持つ紺碧の翼が広げられ、頭が徐々に持ち上がっていく。

 そして、その視線は探るようにきょろきょろと彷徨った後、しばらくして私へと向けられた。


〈ハクお嬢様……?〉


「エル、なんだよね?」


 落ち着いた優しい声、それは何度も聞いてきたエルの声そのものだ。

 思わず持っていた杯を取り落とす。アダマンタイトで固められたそれは割れることこそなかったが、その役割を終えたとばかりに黒ずみ、輝きを失っていた。

 でも、そんなことは今はどうでもよかった。エルが生きて目の前にいる。その事実を知った今、杯がどうなろうと関係ない。

 私はそっと近づいて、エルの身体に触れる。


「エル、生きてる……」


〈……どうやらそのようです。ハクお嬢様が救ってくださったんですか?〉


 どうやら別人の魂が宿ってしまったというわけでもなさそうだ。

 無事に戻ってきてくれた、その事実が浸透していき、涙が溢れてくる。

 ああ、エルだ、エルがここにいる。一度は失われてしまったけれど、また戻ってきてくれた。

 戻ってきた時は笑顔でと思っていたのに、どんどん涙が溢れてくる。私は涙が他の人にばれないようにエルの身体に顔を埋めて声を殺して泣くことしかできなかった。


「エル、エルぅ……」


〈ご心配をおかけしてしまったようですね。申し訳ありません〉


「ううん、戻ってきてくれたなら、ぐすっ……それでいい……」


 エルが顔を近づけてきてそっと舐めてくる。

 しばらくの間、私はエルから引っ付いて離れなかった。もう、絶対に失いたくないと思ったから。

 そんな様子をお兄ちゃんやお姉ちゃんは何も言わずに見守っていてくれた。


「……傷、痛くない?」


〈傷、ああ、これですか。いえ、特には。きちんと治療してくれたようで、ありがとうございます〉


「治しきれなかったけどね……」


 勇者によって斬られた腹と背中には未だに傷が残っている。

 あの後、何度も何度も治癒魔法を試みたが、完全に傷跡を消すことはできなかった。

 やはり、あの剣で切られた傷は確実な致命傷を与えるらしい。

 恐らく呪いが原因だろうということで呪いの解呪も試みたが、それでも完全に治すには至らなかった。

 この傷を見ているとあの時の光景を思い出すからできれば完全に消したかったんだけど……やはり竜殺しの剣なんてこの世から消えるべきだ。


〈大丈夫ですよ。痛くも何ともありませんし、それに勲章みたいでかっこいいじゃないですか〉


「でも……」


〈お気になさらないでください。こうして蘇らせてくれただけでも十分です〉


 恐らく、人状態になってもこの傷は残るだろうし、お風呂に入るたびにこの傷を見てしまうと考えるとエルも複雑な気持ちだろう。

 でも、あえてかっこいいと称することで私の罪悪感を払拭しようとしてくれた。

 やはりエルは優しい。私の事をよくわかってくれている。

 もう、この手は絶対に離さない。何があろうと、私が守って見せる。


〈……さて、この姿では狭いですね〉


 エルはそう言って人の姿になる。そして、縋りつく私をそっと抱きしめて、よしよしと背中を撫でてくれた。


「ありがとうございます、ハクお嬢様。一生お守りしますね」


「……守るだけじゃダメ。生きていてくれなきゃ」


「ふふ、そうですね。今度は死なないように気を付けます」


 エルは私の気が落ち着くまでずっと背中を撫でてくれた。

 その暖かな感触はとても安心できるもので、私はいつの間にか眠ってしまっていた。

 今日ここに、エルは復活を果たしたのだった。

 感想、誤字報告ありがとうございます。


 そして、今回初めてレビューが書かれました。ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 仮にハクがあのまま死んでたとして、お兄ちゃんたちはハクの死体を確保してなかった訳で…… 杯を作った後、ハクの魂が宿る器をどう調達するつもりだったんだろう? スラム辺りから新鮮な?死体を…
[一言] よかった……
[良い点] おかえりなさいエルさん!(^◇^;)帰ってくると読者は信じてました♪ [気になる点] (´Д` )もう『輪廻転生の杯』はその効力を失ったのかな?アダマンタイトの器の中に有ったものはエルの魂…
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