幕間:娯楽を作ろう3
主人公の友達の転生者、アリシアの視点です。
今回は前章の幕間『娯楽を作ろう』の続きです。読んでいなければ読んでいただけた方がわかりやすいと思います。
ハクがカードゲームを作成しようと言いだしてからしばらく経った。
本来なら、学園が春休みに入る直前だったので、その休みを利用して色々作ろうという話だったのだが、春休みに入って早々ハクは中々帰ってこない兄を迎えに行くとかで隣の大陸に行ってしまった。
まあ、それはいいさ。もうすでに一年以上も会っていないようだし、日頃から兄についての話は聞かされていたからいい加減会ってもいい頃だろうとは思っていたから。
だが、一か月ほどして戻ってきたハクはなんか色々問題を抱えて帰ってきたらしく、最初に少し説明したっきりしばらく会いに来ていない。
とても深刻そうな顔でエルさんが死んだって聞かされた時はびっくりしたものだが、それに関しては生き返らせる用意があるらしく、春休みが終わる前には復活させると言っていた。
なんか、平然と生き返らせるとか言っている辺り流石としか言いようがないが、それ以外にも封印が解けてしまい、竜としての力を制御しきれなくなったのでリハビリするとか言ってカード作りどころではなくなってしまったようだ。
これもわかる。生き返らせられるとは言え、身内が死んだ上に力が制御できないなんて危なっかしくてしょうがないし、そこはちゃんと制御できるようになってから来てほしいと思うから全然問題はない。別にこれまでに発売するとか言う期限もないし。
ただ一つ問題があるとすれば、テトさんが勝手にセッティングしたルール説明会にハクが出られなくなったことで、俺一人でどうにかしなくてはいけなくなったということだ。
「いやキャンセルしろよ! ハクがあんな状態でできるわけないだろ!」
ルール説明会と言う名の通り、今回は新しく発売するカードゲームを広く知ってもらおうという趣旨の下、ルールブックの無料配布や実際に交戦しての説明などをする予定だ。
カード自体はどこからラインを見つけてきたのか、テトさんが前世で見たのと遜色ないくらいのクオリティに仕上げてきたし、ルールブックも簡易的なものとはいえ100冊ほど用意して気合十分。
説明くらいだったら俺一人でもできるが、実際に交戦をやるにはどうしても相手が必要になる。流石に、説明会で一人で二役やるのは無理があるだろう。
ハクが来れないのはしょうがない。病欠みたいなものだ。だけど、テトさんが代役をしないのは納得できなかった。
「あ、私絵を描くくらいしかできませんのでそちらはお任せしますね」
それがテトさんの言い分。まあ、確かに最初からルールよくわかってないみたいなこと言ってたからわかるけどさ、少しくらい融通利かせてくれてもよくない?
相手がいない以上は中止するというのも手だと思うのだが、そこは奇妙な人脈を使って多くの貴族を呼び集めたらしく、今更キャンセルするのは不可能だという。
かといって、交戦を省いて説明するにしても、交戦なしでは盛り上がりに欠けるし、なにより来た人はこのゲームをあまり理解できないだろう。
参加型にするにしても一回はちゃんとルールがわかってる人にやってもらってこういうものだと示さなければ始まらないし、今の時点でルールを完全に把握している人なんて俺とハク以外にはいない。完全に八方塞がりだ。
「こうなったら、今からでも出来る奴を探さなくては……」
説明会が開催されるのは三日後、それまでに候補を見つけてルールを叩き込み、出来るようにしなくてはならない。
正直無理ゲー臭いがやらなければこのカードゲームは確実に躓く。何としても見つけなくては!
「とは言っても、俺の人脈で誘えそうな人と言うと……」
正直、俺の人脈はあまり広くない。デビュタントもまだ済ませていないから貴族家との繋がりも薄いからな。
あるとすれば、サクさんの道場だが、サクさん自身はともかく、他の奴らはこのカードゲームのルールを理解できるほど頭はよくないし、サクさんも道場を空けるわけにはいかないだろうから無理。
他には、ミーシャは帰省中でしばらく実家から帰ってこれないと言っていたし、アルト王子はこんなことに招くわけにいかないし、リリーさんとソニアさんはあまり交流がないし、サフィさんは引っ越しで忙しいって言ってたし、エルさんはいないし……。
「サリア、しかいないか……」
結局、消去法で残ったのはサリアだけ。正直不安しかない。
いや、確かに貴族だし、学園でもBクラスに入れるほどには教養もあるし悪くはない。ただ、失礼かもしれないがあんまり頭のいいイメージではないので覚えられるかどうか至極不安だった。
だが、他に適任もいないのも事実。ここはダメ元でもやってみるしかなかった。
「とりあえず、聞いてみるか」
俺はため息を一つついて、学園へと足を延ばした。
いつもならハクにくっついていくサリアだったが、今回は留守番していたようだ。まあ、目的が兄に会いに行くためだから当たり前と言えば当たり前だが、サリアは相当ぐずっていたらしい。
しかも、ようやく帰ってきたかと思ったらハクはリハビリとエルさんの蘇生に力を入れていてあまり構ってもらえない。春休み中ということもあって学園の友達も大半は実家に帰省しているようで、暇を持て余しているようだった。
「カードゲーム? よくわかんないけど、いいぞー」
ひとまず、協力を取り付けることには早々に成功した。と言うか、即決だった。
よほど暇だったのか、これがハクの考案した計画だからかは知らないが、まあやる気なのはなにより。後はこれで実力がついてくれば完璧だな。
「サリア、大まかなルールは説明するけど、詳しいことはこれを読んでみてね。ルールが書いてあるから。わからないことがあったら補足するからいつでも聞いて」
「おー」
とりあえずルールブックを渡す。もちろん、これで投げっぱなしなんてことはしない。ちゃんと実際にカードも持ってきたし、質問されればちゃんと状況を再現して説明してやるつもりだ。
それに、召喚獣の召喚方法や攻撃の仕方、どうすれば勝ちかなどの大筋のルールは初めに説明するし、説明の仕方としては多分問題ないだろう。
まあ、最終的には実際にやってもらってそれで理解してもらうのが一番早いとは思うが。
「じゃあ、まずはね……」
俺はルールを説明していく。サリアは途中で寝ることもなく真剣に話を聞き、小一時間ほどで説明は終わった。
残りの詳しい部分は限定的な状況でのルールが多いし、とりあえずこれだけわかっていればだいたいは遊べると思う。
まあ、一回で理解できるとは全く思っていないので何度も説明する気でいるが。
「……と言うことなんだけど、わかった?」
「んー、なんとなく?」
「それじゃあ、実際にやってみましょう。ゆっくりやるから、焦らずにやってみてね」
「おー、任せろー」
俺はテトさんから受け取ったサンプルデッキを渡し、実際に戦ってみることにする。
サンプルデッキだけあってテーマとかはないが、攻撃力の高い召喚獣を入れていたり、汎用性の高い支援魔法を入れていたりと初心者でも遊びやすく作っているつもりだ。
テーブルにデッキを置き、お互いに初期手札である五枚を引く。
「アリシア、この交戦? って掛け声やりたいぞ」
「あ、うん。それじゃあやりましょうか」
「おおー。それじゃあ……」
「「交戦!」」
ルールを説明するための戦いが始まった。
感想、誤字報告ありがとうございます。