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幕間:竜の姿に慣れるために

 主人公、ハクの視点です。

 私は今、王都から少しばかり離れた平原で竜姿となって佇んでいる。

 別にエルの死を引きずっているからというわけではない。そのことに関してはお兄ちゃんがさっそく『輪廻転生の杯』の作成を始めてくれたし、時間はかかるとしてもきっと大丈夫だろうという安心感がある。だから、憂鬱になって一人でここまで来たというわけではない。

 私がなぜここに来たかと言うと、リハビリのためだ。

 と言うのも、私は今回の旅でちょっとした弾みから完全な竜形態になれるようになった。これは、私の中にあった封印が完全に解かれた証拠であり、私の本来の力がすべて解放されたということである。

 別にそれだけなら何も困ることはない。力を持つこと自体は別に悪いことではないし、人の姿に戻れなくなったわけでもないのだから普通に生活することは可能だ。

 ただ、長らく人として生活していたせいか、本来の力の扱い方、つまり竜形態での動き方を完全に忘れており、そのせいか魔力も駄々洩れで無駄に威圧感を放つ迷惑な存在となってしまっていたのだ。

 幸いにして、飛ぶこと自体は竜の血の本能なのか覚えていたが、四足歩行と言うのがあまり慣れておらず、動くのに四苦八苦していた。


〈うーん、難しい〉


 一応、明らかな異常事態であったため、即座に転移魔法でお父さんの下に行き、判断を仰いでもらった。その結果、封印を掛け直すことは可能だが、今後の私の安全性も考えて今の状態でも少し慣れるようにと指示を受けた。

 エルのことについては秘密にしていたが、あの様子だと少し察していたのかもしれない。エルが不覚を取るような相手と戦うことがあるのだから、私は力を持っていた方がいい。すでに竜人形態のような状態になれていたのだから、もういっそのことこのまま竜形態もマスターしてほしいとのことだった。

 と言うわけで、街中で竜状態になるわけにもいかないのでこうして王都を離れて平原までやってきたのだが、まあ勝手がわからない。

 まず四足歩行と言うことに戸惑う。二本足で立とうとしても、骨格のせいかすぐに前足をついてしまうし、無理に立とうとすれば後ろにひっくり返ってしまう。もうこれだけで結構なストレスだ。

 次に体の大きさが全然違うことも問題である。私は人形態だとかなり小さい方だが、竜ともなれば人間など軽く見下ろせてしまうくらい大きくなる。

 もちろん、竜の中では小柄な方だとは思うが、人間と比べたらそれでも十分に大きい。それに伴って重量も増えており、私がひっくり返るたびにその辺に小さなクレーターを作っていた。

 幸い、鱗が頑丈なので別に痛くもなんともないのだが、竜が無様に仰向けになってもがいている姿を想像するとかなり滑稽だろう。

 一応、アリアにはついてきてもらっているのでアリアには見られてしまっているが、他の人がいなくて本当によかったと思った。


〈お兄ちゃん達を乗せられるのはいいけど、大きい身体っていうのも大変だなぁ〉


 空中の動きに関してはかなり動けている方だというのに、地上に降りた途端ポンコツになるのはほんとにどうにかしたい。

 こんな時エルがいたらアドバイスをくれるのかもしれないけど、今はそれも期待できないし……。


「ハク、動きだけじゃなくて竜の能力についても考えなくちゃだめだよ」


〈あ、うん、そうだね〉


 竜形態になるにあたって、今までできなかったこともできるようになった。

 例えば、ブレス。まあ、その気になれば人状態でも使えなくはなかっただろうけど、竜形態になったことによってより簡単に使えるようになった。

 試しに放ってみる。もちろん、王都とは逆の方向を向いて。

 その結果、直線上にあった山の一角が消し飛びました。


〈……強すぎない?〉


「まあ、ハクは一応エンシェントドラゴンの娘だし、それくらい出るんじゃない?」


 確かに、アリアの言う通りエンシェントドラゴンに同じことをやれって言ったら多分できるだろう。ただ、私は正確には竜ではないし、エンシェントドラゴンと呼ばれるほど生きてもいないのにこれだけの破壊力があると考えるとちょっと威力がありすぎるように思えた。

 それに、ブレスの系統もよくわからない。

 大体の竜は、自身が持つ属性にちなんだブレスの系統になる。火竜なら火のブレス、氷竜なら氷のブレス、みたいにね。

 対して、私のブレスはなんというか、一目にはどの系統なのかを判断することはできなかった。何色と表現していいかわからないが、見た限りでは青や赤、白と言った色が混ざり合ったような感じだった気がする。

 これは全属性のブレスとでも言えばいいんだろうか。私は全属性に適性があるから、こういう風になったとか?

 それがいいことなのか悪いことなのかはわからないけど、威力を見る限りは強いんだろうなと思った。


〈後は、天候操作、だっけ〉


 竜特有の魔法であり、恐らく空間属性に属すると思われる。

 竜の谷はこの魔法のおかげでいつも晴れており、雨はたまに畑に水をやるために降らせるくらいのようだ。

 今は晴れているので、試しに雨を降らせてみる。使い方に関してはなんとなく理解できた。

 私が魔法を発動してから数分して、ぽつりと頬に雨粒が当たる感触がする。それは次第に増えていくと、やがて本格的に降り始めた。

 これも問題なく使えるらしい。この力があれば、イベントの時とか雨降りにならなくて済みそうだね。

 その他にも雪を降らせたり、雷雨を作ってみたり、雹を降らせてみたり、思いつく限りは何でもできるように思えた。

 これだけ大規模な魔法ともなれば魔力消費もやばそうだが、全然減った気はしない。どうやら私の魔力は封印が解かれた影響で相当増えているようだった。

 竜人形態になれるようになった時だって相当増えたように感じたのに、それがさらに十倍とか二十倍とか増えたような感覚なのだ。恐らく、人族でこれほどの魔力を持つ者はいないだろう。

 竜ってつくづく規格外だなと思った。


〈粗方できるみたいだけど、持て余しそうだなぁ〉


「まあ、竜の力を使う場面なんてそうそう訪れないだろうしね。制御できそう?」


〈うーん、ちょっときつい、かも……?〉


 竜の力を試すのもリハビリの一環ではあるが、主な目的は人状態の時にちゃんと魔力を抑えられるようにするということだ。

 今までは、人状態の時は多少窮屈な思いはすれども特に問題はなかった。しかし、魔力が急激に増えてしまった結果、人状態でのキャパシティを超えてしまい、大量の魔力を駄々洩れにする結果になってしまったのだ。

 魔力と言うのは一種の威圧でもある。魔力溜まりに入れば急激に魔力を補給されて具合が悪くなるように、瞬間的に大量の魔力をぶつけられると人は怯んでしまう。つまり、大量に魔力を駄々洩れにしている状態と言うのは、常に威圧しているような状態であり、端から見れば「なんだあいつは、もの凄いオーラを感じる……!」みたいな感じになる。

 当然、そんなことをすればただそこにいるだけでも目立ってしまうし、子供なんかは泣いてしまうかもしれない。トラブルの元にもなるだろうし、魔力を制御するというのは人の中で暮らすにおいては最大の課題だった。

 一応、意識して抑えようとすれば人状態でもそこまで威圧感を発することはない。ただ、相当窮屈だ。

 以前の状態が猿轡をさせられた状態だと考えるなら、今はその上に全身縄でぐるぐる巻きにさせられて拘束されているような状態だ。

 正直息がつまるし、こんな状態で生活しろと言われたら普通に嫌である。しかし、だからと言って魔力を駄々洩れにして生活するというのもなしだ。


〈力がありすぎるっていうのも大変だね……〉


 はぁと溜息をつく。確かに自衛のための力は必要だとは思うが、持て余す力を持っていても邪魔なだけだ。もちろん、必要な場面は必ず訪れるだろうけど、それで普段の生活が破壊されるというのは何とも。

 私はしばらくの間、竜の身体に慣れるため、また魔力の制御を完璧にするためにしばしば平原に通うことになった。

 感想、誤字報告ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] エルさんとかどうやって抑えてたのか……
[良い点] さっさとハーフニルパパンにエンシェントドラゴン形態完了を相談しているハクさん(´ω`)読者は何か問題あるのかな?と思っていたのにパパンは自衛のために慣れておきなさいであっさり終わり、(ノД…
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