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第四話:魔法の練習

 周囲に木がない手頃な広場へと移動すると早速アリアの説明が始まる。興奮を抑えきれず、そわそわと落ち着かない。まるで翌日の遠足を楽しみにしすぎて寝られなくなっている子供のようだ。今考えると少し恥ずかしい。


「魔法を使う時に大事なのは集中力だよ。使いたい魔法をしっかりイメージして、魔力を元にそれを具現化して、魔法という現象を起こすの。まずは実際にやって見せるね」


 アリアは近場にあった石に狙いをつけるとすっと片手を突き出す。少しの間を開けて手の平に小さな魔法陣のようなものが出現し、次の瞬間にはそこから水球が飛び出し、石に直撃した。

 今のが、魔法……。

 時間にしてわずか数秒。見逃すまいと瞬きもせずに食い入るように見ていたがよくわからなかった。ちょっと難しそう。


「今のは基礎中の基礎のボール系の魔法だよ。威力はないけど小回りが利いて、いろんな魔法に応用されている魔法の一つ。まずはこれができるように頑張ろうか」


「う、うん!」


 魔力の使い方や制御の仕方。直感的なものがあるのか、アリアにもうまく説明できない部分があるみたいだけど大体のやり方は学んだ。

 恐る恐る手を伸ばし、的の石を正面に見据える。使うのは先程アリアが見せてくれた水の魔法だ。

 体内の魔力を手先に集めるように誘導し、魔法が発動した時のイメージを強める。すると、手の平の先に小さな魔法陣が現れた。青色に輝く魔法陣には幾何学的な模様や文字列が並んでいる。後は、水球を飛ばすようにイメージすれば……!


 パシュッ!と小さな音を立てて魔法陣から水球が飛び出していった。しかし、石に届く前に形をなくし、水滴となってその場に飛び散る。

 失敗と言わざるを得ない結果にしょんぼりする。まあ、初めからうまくいくとは思ってなかったけど、もう少しでできそうだったと思うとなんだか悔しい。


「もうちょっと込める魔力を多くした方がよかったかもね。でも、いい線行ってるよ。この調子で練習してみようか」


「わかった」


 アリアの助言を頼りにもう一度やってみる。先程は使う魔力の量が少なすぎて水球の形を保てなくなっていた。今度はもう少し量を増やしてやってみる。

 同じように的の石を正面に捉え、水球を放つ。先程よりも大きな球が飛び出し、石に向かって飛んでいった。しかし、すぐに軌道がふらふらとぶれだすと、明後日の方向へと飛んで行ってしまった。

 水球の形は保っていた。だから、魔力の量は申し分なかったはず。となると、制御の問題だろうか。水球を形作ることに意識が向いてしまい、飛ばした後のことまで正確にイメージできなかったのが原因かもしれない。


「今度は制御が甘いね。まっすぐ飛ばす時は誘導するというより撃ち出すようなイメージでいいと思うよ。勢いがあれば多少ぶれても当たることが多いから」


「なかなか難しいね……」


 魔法は中々繊細なもののようだ。イメージの些細な違い一つでも大きな差が生まれる。ここら辺の感覚については練習して身に着けていくしかないだろう。扱いは難しいが、とてもワクワクしている。

 なにせ失敗したとはいえ、ちゃんとした魔法を使うことができたのだ。全く使えなかった頃と比べたらそれは目覚ましい進歩だと言える。この調子で練習すれば、いずれはそこそこの魔術師になれるかもしれないと思うと興奮を抑えられない。今だけは、絶え間なく続く頭痛が気にならなくなっていた。


「練習あるのみだよ。頑張ろ?」


「うん。ところでアリア、この魔法陣ってなんなの?」


 魔法を発動する際、発動する場所を起点に魔法陣が出現する。ゲームでもこういった演出はよく見受けられるが、何か意味のあるものなのだろうか。


「それは魔力でできてるんだよ。魔法を発動する時にその魔法をイメージするでしょ? その情報を元に現実に具現化できるように手助けする触媒のような役割があるよ」


 ふむ。つまり、イメージした情報が事細かに書かれた説明書のようなものってこと? 例えば、水球を石に向かって飛ばすという魔法なら、使用する魔力の量や水球が通る軌道、当たった時の威力などが書かれていることになる。

 アリアが使った魔法の魔法陣と私の魔法陣を比べると同じ魔法であるはずなのに私の魔法陣の方が文字列が少ない。これは、アリアがしっかりと魔法のイメージができているのに対して、私のイメージが足りないからだと思う。

 試しにもう一度魔法を発動させてみる。今度は水球を撃ち出すようなイメージで。すると、先程の魔法陣と比べて一部の文字列が変化していることに気が付いた。やはりそういうことなのだろう。


「まあ、難しく考えなくてもイメージさえしっかりできていれば魔法を使うのに問題はないから、気にしなくていいと思うよ」


 アリアはそこまで重要なことだとは思っていないのか、手の平を振って流している。この魔法陣こそ重要なものではないかと思うのだけど……。

 魔法陣に書かれていることが魔法のイメージの具現化なのだとしたら、いわばこれは説明書のようなものだ。説明書を見ずになんとなくでやるより説明書を読んで慎重にやった方が安全で確実のはず。もし、最適な魔法の魔法陣を覚えることができれば、威力も精度も格段に上がると思われる。

 これは、研究しがいがありそうだ。


「アリア、もう一回やって見せてくれないかな?」


「うん、いいよー。じゃあ、よーく見ててね」


 魔法が発動する瞬間、魔法陣が現れる瞬間を見逃さないように傍に寄ってじっくりと観察する。そこに書かれている文字や模様をできるだけ覚えるように。

 文字は私の知らない文字だった。青い燐光を放つ文字は円状の魔法陣の端に沿うように湾曲して描かれている。中央には幾何学的な模様が描かれていて、どちらも何を示しているのかはわからない。しかし、必ず意味があるもののはずだ。

 何度も何度も魔法を使ってもらい、食い入るように魔法陣を見つめる。そのおかげか、だいぶ形を覚えることができてきた。


「ハク? ちょっと近いよ?」


「え、あ、ごめん」


「ちょっと疲れてきちゃったから、ハクやってみてよ」


 集中するあまりだいぶ接近していたようだ。いつの間にか顔の真横にいたアリアに謝罪し、今度は自分が魔法を放つ番。

 魔法陣に書かれていることの意味は分からない。けど、アリアの使う魔法の魔法陣は毎回同じものだった。だいぶ使い慣れているのだろう、体がその魔法を覚えていて、常に同じように魔法を発動できているのだと思う。

 あの魔法陣によって石を正確に射貫く魔法が再現できるのなら、私も同じようにするまでだ。

 私はイメージする。今回イメージするのは起こしたい魔法ではなく、あの魔法陣そのものだ。端から端まで、文字の形も間違えないように丁寧にイメージしていく。そのイメージを崩さないように、すっと手を伸ばした。

 手の平に魔法陣が現れる。それは、アリアが使っていた魔法の魔法陣と全く同じものだった。魔法陣から発射された水球は狙い過たず石に直撃した。


「おおー、すごいね! こんなに早く当てられるようになるなんて」


「アリアのおかげだよ」


 私が放った魔法はアリアの魔法と遜色ない精度を誇っていた。やはり、魔法陣を完全に暗記することによって精度を高めるという方法は間違っていなかった。

 こうなると、他の魔法も試してみたくなる。私は適性だけなら属性をすべて使えるのだから。

 早速アリアに頼もうと振り返ると、ふらりと足がもつれた。とっさに踏ん張ろうとしたが間に合わず、そのまま倒れ込んでしまった。


「あ、あれ? なんで……」


「ああ、魔力の使いすぎだね。魔力を使いすぎるととてつもなく眠くなって動けなくなるんだよ」


 言っている間にも瞼が落ちていく。まだ教わりたいことたくさんあるのに、体は動かない。

 草に顔を埋める私の横に降り立ったアリアは、小さな手で頬を撫でて微笑んだ。


「お休み。起きたらまた教えてあげるからさ」


 その言葉に私はほっと胸を撫で降ろすと静かに意識を手放した。

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