第三百四十七話:ラルドVSミラ2
主人公の兄、ラルドの視点です。
戦いは一方的だった。どこからともなく飛んでくる様々な攻撃はそれを感じ取ってから回避するというのは不可能に近く、容赦なく俺の身体を切り刻んでいく。
ミホは多少なりとも察知できているのか、その度に結界を張ってくれるが、やはり反応速度が足りない。守り切れなかった場所からは血が噴き出し、服ももうボロボロだ。
この服お気に入りだったんだがな……いや、そんなこと考えている場合じゃないか。
「なかなか粘るね。でも、どうしようもないんじゃないかい?」
「うるせぇよ」
強がってみたが、確かに奴の言う通りだ。
俺はかなり勘が鋭い方だ。いわゆる殺気や気配と言ったものを感じ取り、目を瞑っていても敵の場所をある程度把握することが出来る。
まあ、この技術は極東では当たり前の技術らしいが、冒険者の中では出来るのはBランク以上の奴に限られるだろう。
この技術を応用すれば、不可視の攻撃すら見破ることはできる。出来るが、その攻撃が発生するのは俺の身体のすぐそば。つまり、感知できたとしても回避する時間がないのだ。
慣れてきた今となっては多少刀で捌くこともできるようになったが、それでもミホの結界なしではとっくに死んでいることだろう。
反撃しようにも、その瞬間に同じ場所にそっくりそのまま同じ攻撃を返される。俺の攻撃が強ければ強いほど、反射された攻撃も強くなってしまうのだ。
こちらからは攻撃する手段がないのに、向こうは攻撃する手段がある。まさに八方塞がりと言ったところ。
「まあまあ安心しなって。君が死んだとしてもちゃんと仲間もあの世に送ってあげるから。それなら寂しくないでしょ?」
「……それは、ハクを殺すってことか?」
「あ、ハクって言うの? まあ、そうなるかな。もしかしたら、もう死んでるかもね」
「殺す!」
俺は一瞬で距離を詰め、斬りかかる。しかし、やはり攻撃は通らず、同じ場所に反撃が飛んでくる。
ミホはあらかじめ予想していたのかすでに結界を張っており、反撃が通ることはなかったが、俺は憎々しげに見らを眺めることしかできなかった。
ハクを殺すだと? ふざけるのも大概にしろ! 俺の宝物を殺すなど、たとえ世界が許しても俺が許さん!
「熱くなっちゃって、そんなに大事なお仲間さんなのかな?」
「俺の妹だ! 手を出すことは許さん!」
「ああ、妹なのね。そんなこと言ってもなぁ、他の人がどうするかはその人次第だしなぁ」
本当ならば今すぐにでもこいつを倒してハクの援護に行きたいが、未だに突破方法は見つからない。
こいつ自身の実力は皆無だ。身のこなしは並以下だし、攻撃さえ通れば一瞬で殺すことが出来る。なのに、それが通らない。
どうすれば奴の反射を突破できる? 何か手はないのか……!
「……そういえばミホ、お前はどこから攻撃が来るか見えているのか?」
「え? は、はい、攻撃の瞬間に空間の揺らぎのようなものが感じられるので」
空間の揺らぎ? 矢を射る時に聞こえる風切り音のようなものだろうか。つまり、攻撃の予兆のようなものを感じ取れるらしい。
奴の攻撃は以前受けた攻撃を吸収しておき、この場で解放することでその時の攻撃を放っていると言っていた。
なら、その時の攻撃のエネルギーはどこに保存されているんだ?
普通、攻撃したらそのエネルギーはその場で消費され、消えてしまうはず。そのエネルギーを使って斬った、刺したなどの現象が起こるのだから当たり前だ。
しかし、仮にそのエネルギーを保存しておくとしたら、何かしらの入れ物が必要のはず。……いや、入れ物でなくとも、空間があればいいのか?
保存するものは違うとはいえ、別の空間に物を保存しておくという行為自体は覚えがある。そう、【アイテムボックス】だ。
ミホと契約したことによって手に入れたスキルではあるが、これは亜空間に物を保存しておくためのスキルだ。
これと同じと考えるなら、奴は亜空間に攻撃のエネルギーを保存しており、攻撃の際にそれを取り出しているということになる。
つまり、奴の攻撃は【アイテムボックス】から物を取り出す行為を繰り返しているということか。
「ミホ、奴の周囲の空間を探れるか?」
「で、出来ますが、それだとラルド様への攻撃を防ぐのが難しくなってしまいます!」
「ある程度は自力で何とかする。だから、少し調べてみてくれ」
「わ、わかりました」
もし、この仮説が合っているとすれば、奴の【アイテムボックス】を使用不能にしてしまえば奴は攻撃が出来なくなるはずだ。
ただ、【アイテムボックス】を使用不能にするなんて芸当出来るんだろうか。いや、空間の大精霊であるミホならば【アイテムボックス】の入口を閉じることくらいできるはず。そうでなければ、俺が【アイテムボックス】を使えるようになるはずがない。
開くことが出来るなら閉じることもできるだろう。だから、見つけることさえできれば多少は楽になるはず。
「壊れにくいおもちゃって言うのは魅力だけど、みんなの試合を観戦したい気持ちもあるんだよね。だから、そろそろくたばってくれないかな。流石に少し飽きてきたよ」
「黙れ」
ミホに攻撃が向かないことが幸いか。ミホは今姿を消しているから、奴には見えないんだろう。
思いっきり俺が話しかけているが、独り言を言っているとでも思っているんだろうか。
いや、どうでもいいのかもしれない。奴にとって俺はただの獲物で、脅威とは思っていないのだ。
これでも名の知れた冒険者なんだがな。ま、聖教勇者連盟には関係のない話か。
「ほら、死んでいいよ?」
「ぐふっ……!」
恐らく棍棒か何かの殴打だろうか。重い衝撃が頭に走る。
刀である程度捌けるとはいえ、完全に防ぐことなんてできない。ミホが解析に集中している今、結界による防御も見込めないし、受けきれなかった衝撃はダイレクトに食らうことになる。
正直、相当きつい。基本的に魔物との戦いは食らったら終わりだ。鎧でがちがちに防御し、大盾を構えたタンクならば多少は受け止められるかもしれないが、そうでない者は基本的に避けなければ致命傷となる。
それなのに、今は受け止めざるを得ない状況だ。いつ気を失ってもおかしくない。
だが、ここで倒れればハクを守ることはできない。せっかくハクと再会できたのだ、ここでくたばるなんて死んでも許さない。
「ラルド様、ご無事ですか!?」
「ああ、大丈夫だ……何かわかったか?」
「は、はい、どうやら目の付近に亜空間の入口があるようです」
ミホの報告に思わず口がにやついた。
それが本当だとすれば、あの攻撃はやはり【アイテムボックス】に収納された攻撃と言うことだろう。入り口があるのなら、それを閉じてしまえばそれは使えないはず。
「ミホ、その入り口閉じれるか」
「やったことがないので断言はできませんが、恐らく可能です。……あの、もしかしてさっきまでの攻撃は……」
「ああ、それが見えない攻撃の正体だ」
攻撃を封じることが出来ればひとまず負けることはなくなる。どうしようもなくなれば、向こうは恐らく仲間と合流を計りたいはずだ。
しかし、派手に出現した巨木のせいで合流は困難。であれば、その隙に拘束することも可能なはず。
勝負はまだこれからだ。俺は頭痛のする頭を押さえながら、それでも不敵に笑った。
感想、誤字報告ありがとうございます。