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第三百四十三話:移住先の候補

 カエデさん達を近くの町に送り届けた後、私達は集落へと戻ってきた。

 現状、この山に捜索に来ている人間はすべて捕まえたはずだ。それは捕まえた人からも聞いたし、カエデさんからも人数を聞いたので間違いないと思う。

 だから、移動するなら絶好のチャンスである。

 ただ、移動して新天地でうまく溶け込めたとしても、聖教勇者連盟の誤解は解けていないのでどうしても追われることになる。なので、出来ることなら聖教勇者連盟の手が届かない安全な場所に移住してほしい。

 そのようなことをお兄ちゃんに報告すると、即座に会議が開かれた。


「というわけだが、何か言いたい奴はいるか?」


「では、一つ。移動するのは賛成ですが、安全な場所とはどこですかな?」


「それに関してはいくつか考えています」


 私は町で買ってきた地図を開き、机の上に置く。

 この世界の地図は割とおおざっぱで、尺度もはっきりしてないし、合ってたとしてもその人の歩幅によって変わるので地図によって微妙に形が違う。特に、海図に関しては壊滅的で、適当にこのくらいの距離の海だろうということしか記されていないのであまり役に立たない。

 まあ、これでもどこにどんな町があるかとか街道の場所とかは書いてあるのでこの世界基準ではなかなか使えるものだ。それに、イメージをつけやすくするためにあえて地図を用いることにした。

 私はまず、この大陸全体の地図を見て、一点を指さす。


「まず一つ目は竜の谷です。あそこなら、聖教勇者連盟と言えども容易には入ってこられません」


「り、竜の谷ですと!?」


「そ、それは無茶が過ぎる! 我らに死ねと申すか!?」


 竜の谷は竜の巣窟だ。かつては勇者がやってきたこともあったようだが、それを除けば間違って誰かが辿り着くこともないとても安全な場所だ。

 竜の魔力によってかなり魔力濃度が濃いが、谷の底ならそこまででもないので、暮らすことは可能なはず。

 竜人がすでに住んでいるけど、彼らは外からくる者には寛容だし、そもそも竜の谷は相当広いから離れたところに集落を築けば全く干渉せずに暮らすことだってできる。

 まあ、竜の谷に住む以上は竜と交流しなければならないし、そこが難易度高いかなと思うけど、それさえなんとかできれば今回の候補地の中で最も安全な場所だ。


「竜の谷には知り合いがいるので、頼めば住む場所くらい提供してくれると思いますよ? それに、竜は別に好んで人を殺すことはしないです。攻撃されたら反撃しますけど、それだけですよ」


「う、ううむ……しかし……」


「ほ、他の候補地も聞かせてもらえますかな?」


 鳥獣人達の反応はいまいち。まあ、いきなり竜と一緒に住めって言われても無理か。

 鼠獣人の集落でもそうだったが、この大陸の人は竜を異常に怖がっている節があるしね。


「次の候補地はここです」


「? そこは海のようだが……」


「ここに島があるんです。無人島なので、隠れ住むにはちょうどいいかと」


 私が次に取り出したのはこの大陸と隣の大陸をつなぐ地図だ。

 ここに来る途中、エルの背中から海を眺めていたが、船の航路から外れた場所にある島はいくつもあった。

 この世界の技術では船はまだ風任せで動くものしかなく、ほとんど開拓は行われていない。なので、適当な無人島に移住すれば誰からも干渉されることなく暮らしていくことが出来るだろう。

 まあ、その代わり自分達で開拓しなければならないからかなりの手間がかかるだろうけど。

 でも、こんな山奥に集落を築けるのだから、それくらいはできるよね?


「ふむ、確かに我々であれば空を飛んで移動することもできるし、島一つとなればかなりの土地を自らの領土と言い張ることが出来るか」


「エルクード帝国から抜けるいい口実になるかもしれないな。我らの国を造り上げられるやもしれん」


 こちらは中々に好評だ。

 元々彼らはエルクード帝国所属だったはずだが、それに反発して集落を作り、縄張り争いを繰り広げているいわば昔ながらの獣人なので、自分達だけの国と言うのは憧れがあるんだろう。

 その島の規模にもよるけど、鳥獣人達が全員移り住めるだけの規模の島にも心当たりがあるし、この大陸自体からも離れることが出来るので聖教勇者連盟の手も届きにくくなる。

 開拓しなければならないという手間を考えても、一石二鳥の候補地だった。


「あと一つは、隣の大陸、シャイセ大陸に移り住むことです」


 なんか盛り上がっているけど、一応最後の選択肢も提示しておく。

 オルフェス王国があるシャイセ大陸は多くの種族が入り混じる場所だ。

 オルフェス王国のように他種族に寛容な国も多数あるし、獣人の国だってある。

 集落全員とは言ってもせいぜい50人ちょっとしかいないので、探せば住むところくらいいくらでも見つかるだろう。

 ローゼリア森国に送り込むというのもいいかもしれない。あそこは魔術師しかいないことで防衛力が皆無だから、前衛をこなせる鳥獣人達が入れば国力の増加にも繋がるだろうし。


「うーむ、しかし、それでは人間と一緒に暮らすことになるのでは……」


「国の庇護を受けられるのはいいかもしれないが、集落として存続できないとなると……」


 元々縄張り意識が強い人達なので集落がなくなることには少し反対のようだ。

 その割には逃げることには賛成なんだと思ったけど、これは多分お兄ちゃんのおかげだろう。

 先祖代々守ってきた土地と言うと手放したくなくなるのはわかるが、それで命を落としてしまっては意味がない。まずは逃げて、可能ならばとり返すという考え方の方がいい。

 まあ、これなら無人島の方がいいと思ってるんだろうけど、一応メリットもある。


「シャイセ大陸に住むのなら、お兄ちゃんに会いやすくなりますよ」


「む、そうか、妹殿が見つかった今、ラルド様がこの集落にいる理由も……」


「自分達だけでなんとかせねばならぬということか……少し寂しくなりますな」


 この問題が片付いたらお兄ちゃんには戻ってきてもらいたい。

 そもそも、お兄ちゃんが鳥獣人の集落に来た理由は私を復活させるためのアイテムを回収しに来ただけであり、別に鳥獣人自体を好きになったからというわけではない。

 お兄ちゃんのやり方がたまたま鳥獣人と友好を築き、親睦を深めて自然に目当ての物を受け取ろうというだけであって、お兄ちゃんが鳥獣人達を助ける理由なんてあまりなかったのだ。

 私がこうして見つかった今、鳥獣人達の集落に留まる必要はどこにもない。だから、これからは鳥獣人達は自分達の力だけで生きていかなければならない。


「私達はオルフェス王国の王都に帰るつもりなので、その近くにいれば会いやすくはなりますよ」


「なるほど」


 離れ離れになっていても、近くにいれば気軽に話すことが出来るだろう。鳥獣人は飛ぶ速度も速いので、多少の距離ならすぐに駆け付けられるはずだ。

 どこかの国に住んでも全く違う環境では戸惑うこともあるだろう。そんな時、頼りになる人が近くにいるというのは安心感がある。

 大陸に移り住む最大のメリットはこれだ。一応、聖教勇者連盟の追手が付きにくくなるというメリットもあるけどね。ただ、シャイセ大陸にも聖教勇者連盟はいないわけではないので、無人島よりは安全性は下がるけど。


「どこへ移住するにしても、私達がちゃんとサポートしますので、よく考えて決めてみてください。おすすめは竜の谷ですけど」


「いや、それは全力でお断りさせていただく」


 一番安全なのに、全会一致で断られてしまった。まあいいけどね。

 無人島に住むか、それとも隣の大陸に移り住むか、その二択でしばし論争を繰り広げる。

 なんとかなりそうだなと思いながら、しばらくその様子を観察していた。

 感想ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] 鳥族50人くらいならハクのいる国で良かったと思いました。 まさか候補にも上がらないとはw あ、それと毎回律義にコメントの返事くれていますが、面倒でしょうから気になった所だけでいいですよー。…
[一言] 一番安全だけどなにも知らなければ一番不安な場所( ˘ω˘ )
[気になる点] 人族を嫌いながらもラルドお兄ちゃんを「様」付けで慕う鳥さん御一行(´ω`)こりゃ相棒のミホさんがいなかったら多分若い乙女の鳥さんからの求愛がお兄ちゃんに殺到していたのでは?
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