第三百四十一話:聖教勇者連盟について
「それじゃあ、聖教勇者連盟について少し教えてくれますか?」
「よっしゃ、なら、何から聞きたい?」
留置所に着き、マルスさん達を放り込んで一息ついたところで早速話を切り出す。
ここは結界が張られているし、魔物も来ないから話す分には問題ないだろう。
適当にその辺の転がっている大きな岩に腰かけながら、【ストレージ】から出したお茶を振舞う。
雪山と言うこともあってすぐに冷めてしまったが、二人とも全然気にしていないようだった。
「じゃあ、どういう組織体系なんですか?」
「んー、そうやなぁ、聖教勇者連盟は大きく三つのグループに分かれてんで」
カエデさんの話を聞くと、聖教勇者連盟の中には勇者の補佐をするために色々な戦闘技術を仕込まれ、各地の魔物などを倒すなどの任務を請け負う戦闘グループと、竜や竜人などの情報を集め、場合によっては殺害を請け負う対竜グループ、そして、特に役職などを持たず、持ち前の知識を生かして色々なものを作ったり、各地を転々として冒険者稼業をしていたりと自由に過ごしている自由グループがあるのだとか。
カエデさんはこの中で対竜グループに所属しており、一か月ほど前からこの山に潜む竜人、もとい鳥獣人達を殲滅する任についていたらしい。
聖教勇者連盟は特殊な能力を持つ人を保護し、自由に暮らすように呼び掛けている。望めば学園で知識を学ぶこともできるし、就職したければ仕事先を斡旋してくれる。衣食住も保障しており、保護された人にとってはまさに夢のような場所なのだとか。
保護されているのはほとんどが捨てられたり迫害を受けていたりした子供であり、そうした人達は聖教勇者連盟に恩を返すために多くが戦闘グループや対竜グループに所属したがるのだとか。
自由グループに所属している人達も、必要とあらば指令を受けて依頼をこなすので、完全に言うことを聞かずに逃げ出すっていう人はいないらしい。
まあ、恩返しのために力を貸すって言うのはわからなくはないけど、何というか、うまくいきすぎている気がしないでもない。
聖教勇者連盟に保護された人達は現在500人ほどいるらしい。それらが全員転生者ってわけじゃないだろうけど、普通は前世と違う価値観の世界なのだから反発する者が出るのが普通ではないだろうか。
強い力を持って生まれ、それを生かせる場所を提供してくれるとしても、私と同じように人殺しを忌避する人はいるだろうし、竜人や魔物に好意的な反応を示す人もいるかもしれない。でも、実際にはそんな人は全くおらず、みんな恩返しのために快く協力する人ばかり。
これは転生者特有の価値観に沿っているからなのか、それとも何か裏があるのか。どちらにしろ、怪しいことに違いはない。
「転生者はどれくらいいるんですか?」
「なんや、転生者のこと知ってるんか?」
「まあ、以前会いましたので」
「そっか。まあ、うちの知る限りやと50人くらいはそうやなぁ。まあ、全部見てるわけやないからもっといるかもしれへんが」
随分とたくさんいるように感じる。
私やアリシアのように保護されていない転生者も含めたら、この世界には転生者がかなりの数存在していそうだ。
一人一人が下手したら一軍をも凌駕するほどの力を持っていると考えると、それほどの数を揃えているセフィリア聖教国はとんでもない軍事力を持っていることになる。しかも、資金力だって転生者の前世知識による革新的な道具のおかげで潤沢にある。
戦力に資金力を兼ね備えた大国。一応、今は別に侵略などしている様子はないけれど、いつかやりそうで怖いな。勇者を囲う国として、どの国にも平然と入れる権力を持っているようだし、戦争になったら一瞬で勝負がついてしまう気がする。
「勇者召喚については何か知っていますか?」
「うーん、それについてはあんまり知らんなぁ。なんか、大神殿っちゅう場所でやるのは知ってるんやけど、あそこに入れるのは一部の人だけやねん」
「そうですか」
勇者召喚は今でも数十年おきに行われているらしい。
普通に考えて、勇者召喚なんていう異世界から人を呼び出す術式なんて使ったら相当なエネルギーを消費しそうなもんだけど、それが溜まるのが数十年おきってことなんだろうか。
一応、名目上は魔王を倒すことらしいけど、最近は魔王らしい魔王は出てきていないと聞いた気がするんだけどな。単なる戦力増強にしか思えない。
というか、異世界から無理矢理人を引っ張ってくるってそれもはや拉致だよね。過去の勇者は魔王を倒した後に元の世界に帰ったと言われているけど、本当かどうか怪しいもんだ。
「それじゃあ、聖教勇者連盟はなぜ竜人をそこまで敵視するのですか?」
「そやなぁ……うちらが教えられたんは、竜人は邪悪なる竜の子で、分類上は魔物に相当する。大昔の魔王大戦でも魔王側に与し、人族を大量虐殺した最悪の種族である。奴らを野放しにすれば世界はいずれ滅びてしまうから、一匹残らず駆逐しなければならない……やったかな」
「なんですかそれ」
要は、昔人を裏切ったから竜人と言う種族は敵だと言っているわけだ。
まあ、確かに竜であるお父さんが魔王とされていた時代だし、そっち側に着けば人族にとっては悪だと言われるのもわかるけど、だからと言って竜人が世界を滅ぼせる力を持っているわけない。
竜ならまだわかるよ? でも、いくら竜人が優秀な種族だと言っても、所詮は人族だ。むしろ、平穏無事に過ごしたいと思っている人の方が多い。
しかも、それでいて竜の方はあまり倒そうとしていないようだ。もちろん、人里に出てきた竜が倒されるって言うのはあるみたいだけど、本拠地である竜の谷には700年前の大戦以来誰も行っていないらしい。
道が険しいから? 竜が強いから? でも、以前の勇者はそれをやってのけたのに、なぜ今の勇者はそれをやらないんだろうか。
思うに、竜が倒せないから、まだ倒せそうな竜人を代わりに虐めているようにしか思えない。とりあえず竜に与する竜人を殺しておけば、世界平和のために働いているという姿勢を取ることが出来、権力を維持することが出来る。だから竜人を狙っているんじゃないだろうか。
私は全然聖教勇者連盟について知らないけど、カエデさんから話を聞くたびにそんな想像をしてしまう。
もちろん、これは私が竜だから、竜側の肩を持っているだけかもしれないけど、何の罪もない竜人を、ましてや無関係の種族まで殺すことが世界平和のためって言う大義名分でもみ消されるのは納得できなかった。
「まあ、ドラゴンライダーのハクちゃんからしたら納得できん話やわなぁ」
「それはまあ……なんでこうも人間に都合のいいことしか伝わっていないのかが気になります」
「せやなぁ。竜人が人族と争ったっていうても700年も前の話なんやろ? そもそも、人族同士でもしょっちゅう戦争しているこの世界で、竜人だけ未だに目の敵にされるっちゅうんはうちも納得できんわ」
そもそもの話、かつての大戦で多くの人族が犠牲になったという話だけど、それも本当かどうかわからない。
だって、お父さんが魔王ならば、わざわざ町を襲ったりなどしないはずだからだ。せいぜい、若い竜がやんちゃして少し町に被害を出した程度だろう。
そりゃもちろん、竜の尺度から見たら人間なんてありんこみたいなものだからうっかり潰しちゃったって言うのはもしかしたらあるかもしれないけど、国一つ滅んだ、とかそんなレベルになるとは思えない。あるとすればそれは、向こうから仕掛けてきたか、あるいは看過できない何かをやっていた場合だ。
恐らく、出た犠牲は人間が勝手に侵攻してその過程で迎撃されたり環境の過酷さによって倒れたりした人なんじゃないだろうか。つまり、お父さんはただ向かってきたから相手をしただけで、それ以外は何もしていないって言うのが私の考えだ。
というか、世界のバランスを守るのが仕事の竜が人族の大量虐殺なんてするわけない。
竜がいなければ人族なんてとっくの昔に滅んでいることだろう。それなのに、その恩を忘れて牙をむいてくるところは人間の愚かさを如実に表している。
お父さんはよく耐えられるものだ。
私は少し苛立ちながらふぅと嘆息した。
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