第三百三十五話:実力の証明
あれから、何度かお兄ちゃんを説得して条件付きで私が狩りを見せることになった。
条件というのは、まずお兄ちゃんが同行する。そして、相手をする魔物はお兄ちゃんが決め、攻撃は魔法攻撃のみで気づかれない位置から一発だけ放つ、というものだ。
正直、そんなので実力を測れるのかと言ったら微妙だけど、どうにもお兄ちゃんは以前の非力な私を想像しているようでこの辺の魔物には到底敵わないと思っているようだ。
お兄ちゃんの話を聞く限り、この山にいる魔物は推定Aランク相当。中にはSランクに届きそうなものもいるって感じ。つまり、仮にAランク冒険者でも苦戦必至の場所ということだ。
お兄ちゃんはミホさんの加護を得たことによって魔法の威力が上がった他、一部の空間魔法まで使えるようになったらしく、実力的にはSランクにも届きそうな気がする。ただ、それでも空間魔法は切り札的な存在らしく、軽々しく乱発することはできないらしい。
大精霊の加護によって消費魔力は少なくなっているとはいえ、やっぱり空間魔法は消費魔力が多すぎるからね。当然と言えば当然か。
そう考えると、私の魔力って異常なんだなぁ。流石竜の血を引いているだけある。
「あいつは魔法攻撃してくるからダメだな……あいつも消化液が厄介だし危険……あいつは空を飛ぶから追いかけられたら面倒……」
そんなこんなでメンバーにお兄ちゃんを加えて山をさ迷うこと一時間ほど。
今までにも何匹か魔物を見つけたが、お兄ちゃんは色々と理由を付けていつまでも戦わせてくれなかった。
まさかこのままケチつけまくって戦わせない気じゃないだろうな。それは流石に怒るよ?
「お兄ちゃん、まだ?」
「なぁ、やっぱりやめた方がよくないか? ハクに指一本触れさせる気はないが、危険すぎる……」
「それ、もう何度も聞いたよ。大丈夫だから戦わせて?」
まあ、確かに私は以前は魔法なんて一つも使えなかったし、力だって強いわけではなかった。体力だってなくて、薬草採取に森に行った時は帰りはいつも抱きかかえられていた。
そんな妹が強くなったからいきなり戦わせろと言っても信じられないだろう。たとえその経歴を聞いたとしても、すぐには私には結びつかない。
お姉ちゃんは案外簡単に信じてくれたんだけどね。これが姉と兄の差か。
「これじゃあいつまで経っても埒が明かないし、次魔物に出会ったら誰であってもそれを倒すってことにしない?」
「うん、それがいい」
「いやいや、どうしようもない奴だったらどうするんだ。ハクもそうだが、サフィだって危険かもしれないんだぞ?」
「ハクに関してはエルさんがいるから大丈夫だよ。私だって、あれから結構強くなったんだから」
「ハクお嬢様は私が守りますのでご安心を」
仮に私が昔と同じ非力な存在だったとしても、まずエルがいる限り相当な不運がない限り敗北はありえない。エルが本気を出せばここら一帯を凍り付かせることが出来るだろうし、その気になれば竜の威圧を使って手を使わずとも相手を退散させることもできるだろう。単純な戦闘をするにしても、私を守りながら戦うなんて朝飯前だと思う。
お姉ちゃんに関しても、強くなっているというのは多分本当だろう。なんか、竜の谷に行った時にライ達に散々しごかれたらしいし。
あれから戦っているところをあまり見ていないから詳しくはわからないけど、少なくとも逃げるくらいは簡単にできそうだ。神速の異名も持っているしね。
そういえば、Aランク冒険者はみんな異名というか二つ名みたいなものを持っているらしいけどお兄ちゃんも持っているんだろうか。後で聞いてみようかな。
「あ、いた」
そうこうしているうちにお姉ちゃんが前方に一体の魔物を発見する。
見た目は白くて巨大な芋虫のような姿。確か名前は……アイスワームだったかな?
でかい口が特徴で、その口で大地を抉り取るように食べる、とか言われていた気がする。
元々はワームという魔物が別にいて、それはCランクの魔物なんだけど、成長するとどんどん巨大化していって、何でも食べて環境すら破壊する害悪モンスターと化すらしい。アイスワームはその中でも雪山に生息する種類で、大きさにもよるけど、あの大きさなら間違いなくAランク相当はあるだろう。
流石、過酷な環境で育った魔物は強い。だから、いつまで経っても開拓が進まないわけだけど。
「よ、よりによってワームか……あいつは飲み込まれたらそれで終わりの厄介な相手だぞ? やめておいた方が……」
「お兄ちゃん、私やるからね?」
「うぅ……仕方ない、失敗してもお兄ちゃんが絶対守ってやるからな」
いつまでもぐちぐち言ってるお兄ちゃんを無視して私はアイスワームに狙いを定める。
さて、一発しか撃てないとなると何をやったものか。あんまり弱すぎると認めてくれなさそうだし、強すぎるのも環境を破壊しそうで怖い。
Aランクの魔物というとギガントゴーレムと戦ったことがあるけれど、あれは魔法防御はあまり高くなかったから簡単な魔法でも簡単に怯んでくれた。対して、ワーム系は主に土の中で生活しているせいか土属性に高い耐性を持っている。自身の属性も土属性であることが多い。
となると、対となる風属性が有効かな? でも、あれはアイスワームだから多分属性は氷、氷を解かすと考えると火属性の方がいいかな。
だいぶ降りてきてしまったので辺りは平地に近い、あまり手の入ってない新雪を溶かしてしまうと雪崩の可能性もあるかなと思ったけど、ここならその心配はなさそうだ。
うん、火にしよう。なら、後はどの程度の出力にするかだ。
こればっかりは経験が少なすぎて何とも言えない。Aランクともなれば流石に初級魔法じゃ無理か? なら中級かな。上級でもいいけど、加減するの難しいし。
中級で目一杯魔力を籠めればいいだろう。それくらいの威力があれば一撃は無理でも相当なダメージを与えられるはず。そうすれば、お兄ちゃんとて多少は認めてくれるに違いない。
「じゃあ、いくよ」
心配そうに見守るお兄ちゃんをしり目に静かに右手を上げる。そして、瞬時に炎の槍を形成するとアイスワームに向けて放った。
ひゅん、と風を切る音が聞こえる。炎の槍は一直線にアイスワームに突き刺さり、そして派手に炸裂した。
後には一瞬にして雪が蒸発してなくなり、黒く染まった大地と木っ端微塵になったアイスワームの残骸だけが残された。
あ、あれ?
「……は?」
「アイスワームが一撃なんだ……」
「流石ハクお嬢様です!」
お兄ちゃんは口をぽかんと開け、お姉ちゃんも呆れたように笑っている。
おかしい。本当なら腹に風穴空ける程度で済ませるつもりだったのに、いつの間にか木っ端微塵になっていた。
おかしいな、Aランクなんだから中級くらい耐えると思ったのに。というか、爆発したのも想定外なんだけど。
あれかな、体内にガスでも溜まっていて、それに炎が引火して爆発したとか?
なんにせよ、これでは魔物が集まってきてしまう。早々に撤退しなければならない。
「ラルド兄、ハクの力はわかったかな?」
「あ、あぁ。痛いほどにな……」
なぜかがっくりと項垂れるお兄ちゃんとそれを宥めるお姉ちゃん。
予定とは違ったけど、Aランクを一撃で倒せるのだったら少しは認めてもらえるだろう。
私はふふんと笑ってお兄ちゃんにピースサインを見せる。
お兄ちゃんは疲れたように半笑いを浮かべていた。
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