第三十四話:姉との遭遇
え、何、何なの?
やたらと強い力で抱きしめてくるそれは、私の顔を容赦なくその豊満な胸に押し当ててくる。
ちょ、息が苦しい……。
バタバタともがいて何とか拘束から脱すると、それをやった張本人の顔を見ることが出来た。
明るく澄み切った空のような髪色に細い顔立ち。耳に着けているピアスは確か魔法をある程度弾く効果があるのだと教えてくれたことがあった。
私が会いたくてたまらなかった人物。姉であるサフィの姿がそこにはあった。
「お、お姉ちゃん!?」
「やっぱりハクだ! 無事でよかったよぉ!」
お姉ちゃんは瞳を潤ませ、半分泣いたような声で再び抱き付いてくる。
わっぷ……! だからそれ苦しいんだって!
バシバシと何度か腕を叩くと、しばらくして解放してくれたが、その頃には息も絶え絶えになっていた。
こ、殺す気か!?
「ハク、捨てられたって聞いて、ほんとに心配してたんだよ?」
「あ、そのことも知ってるんだね」
「うん。村に行ったらハクがいなくて、父さんに聞いたら捨てたとか言ったからぶん殴ってきたよ」
お姉ちゃんが村を訪れるのは年に数回程度だけど、それでも毎年必ず訪れてくれる。
親に色々思うところはあるけど、私のために怒ってくれたと思うとちょっと嬉しくなった。
「ほんとに無事でよかった。今までどうしてたの?」
「まあ、色々と。今は冒険者をやってるよ」
「おお、冒険者! 凄いねハク! でも、魔力がなくて魔法使えないって聞いたけど?」
「ああ、それはね……」
私は今までの経緯を話した。一応、アリアの事は話さなかったけど、お姉ちゃんだったら話してもいい気はする。でも、一応後でアリアと相談しようかな。
魔力溜まりにいた話を聞くとお姉ちゃんは顔を青くしていたけど、なんとか乗り越えられたことを告げると再び抱き着いてきた。
だからそれはもういいって!
昔からそうだけど、お姉ちゃんはよく私に抱き着いてくる。その度にその豊満な胸に溺れそうになるのだから困ったものだ。
まあ、嫌ではないんだけどね。むしろ嬉しい。けど長くやられると息ができなくなってくるからやっぱりダメ。
「私、お姉ちゃんの事は信じてるからね」
「私はいつでもハクの味方だよぉ! もう絶対離さないからね!」
最後にお姉ちゃんに会いたくて探しに来たことを告げると、力強く抱きしめてきた。
ぐすぐすと鼻を鳴らしながら私に縋り付いてくる姿は子供のようで、これではどちらが姉かわからない。
見た目だけならお姉ちゃんはかなり身長が高いからすぐにどっちが姉かはわかるけどね。というか私が小さすぎるんだよ。お姉ちゃんの胸より少し低いくらいだし。
探している間に日は落ち、人通りも少なくなってきたとはいえ、道の真ん中でこんなことをしていれば結構目立つ。
なんとか落ち着かせて泣き止ませると、近くの店に入った。
「そういえばお姉ちゃん、お兄ちゃんは一緒じゃないの?」
適当に飲み物を注文しながら話題を振る。
私には姉の他にも兄が一人いる。お姉ちゃんよりも三つ上の兄だ。お兄ちゃんも毎年何回か村に遊びに来てくれていて、よく遊んでもらったことを覚えてる。
訪れる時は別々の時もあったが、大抵は一緒に来てくれていたのでてっきり冒険者のパーティを組んでいるのかと思っていたのだけど。
「ああ、ラルド兄ならハクを生き返らせる方法を見つけるって言って隣の大陸に」
「生き返らせるって……生きてるよ?」
「だって、三か月も探したのに見つからなかったんだよ? 普通に考えたら生きてるなんて思わないじゃない」
まあ、それはそうか。普通、着の身着のまま森に放り出された子供が一年も生きながらえているのがおかしいんだ。
私の場合はアリアという救世主がいてくれたから何とかなったけど、普通に考えたらすでに死んでいると考える方が自然だ。
それにしても生き返らせるって……確かに記憶にある限りはお兄ちゃんは私の事をかなり溺愛してくれていたように思えるけど、それにしたって死んだ人は普通生き返らないと思うんだけど。変なことに手を出してなきゃいいけど。
「でも、こうして無事に見つかったことだし、本当によかった。これなら、闘技大会に出る意味もあんまりないかなぁ」
「そういえば、なんで闘技大会なんかに?」
「ラルド兄の頼みでね。ハクのために必要になるかもしれないからなるべくお金を稼いでほしいって言われたから手っ取り早く大金が手に入りそうなこの闘技大会に参加したの」
「なるほど」
そうか、大会なんだから賞金が出るのか。お姉ちゃんが出るってことだけに頭が行ってて全然そんなこと考えてなかった。
聞けば闘技大会の優勝賞金は金貨1000枚だという。それだけの大金があれば大抵のものは買えるだろう。お兄ちゃんはなんだか普通では手に入らないようなものを探しているようだし、単純にお金は必要か。
「お姉ちゃん、結構期待されてるみたいだったけど」
「まあ、これでも一応名の知れた冒険者だからね。あ、ハクには言ってなかったっけ?」
「うん。確か、神速のサフィって呼ばれていたような」
「そう、それ。ちょっと恥ずかしいんだけどね」
「ううん、かっこいいよ」
冒険者であることは知っていたが、異名を持つほど有名な冒険者だと知ったのは本当につい先日の事だ。
いつもほわほわして一見するとただの優しそうなお姉さんにしか見えないのに。今考えると結構意外だったかもしれない。
パッとお姉ちゃんの身体を観察してみると、腰に小振りな剣を二本佩いている。二刀流? ちょっとかっこいい。
神速って言うくらいだから足が速いのだろうか。二本の剣で戦場を駆け、敵をバッタバッタと薙ぎ倒していく。うん、想像するとやっぱりかっこいい。
「私、お姉ちゃんの戦ってるところ見てみたい」
「え? そ、そう?」
お姉ちゃんが剣を抜いたところなんてせいぜい森に行った時に魔物を見かけた時くらいだ。その時も威嚇程度で実際に戦っていたわけではないし。
せっかく闘技大会なんて言う戦いの場があるのだから実際にお姉ちゃんの実力を見てみたい。
「棄権しようかなぁと思ってたけど、ハクがそこまで言うなら頑張っちゃおうかなぁ」
「うん、お願い」
「……ふふ、わかった。お姉ちゃんに任せなさい」
一番の目的は無事に達成できたし、しばらくはこの余韻に浸ってのんびりと過ごしていたい。お兄ちゃんの行方も気になる所だけど、隣の大陸ではすぐに同行できるわけでもないし、お姉ちゃんの活躍を見物してから考えるとしよう。
しばらく再会の喜びを語らっていると、辺りはすっかり暗くなってしまっていた。
まずい。宿探ししてたのすっかり忘れてたよ……。今から探して見つかるかな。
「それじゃあ、行きましょうかハク」
「えっ? どこに?」
「どこって、宿によ。心配しないで、部屋は空いてるから」
自然と手を引かれ、後に続く形になる。
宿って、お姉ちゃんの泊まってる宿にってこと? 宿見つかってなかったからありがたいけど。
拒む理由もないのでそのままついていったが、部屋は空いてると言いつつ同じ部屋で一つのベッドで寝ることになり、朝まで抱き枕状態になったのはちょっと心臓に悪かった。
今更ながら、登場人物紹介のようなものは必要かと考えていました。もし必要だという声があれば書いてみたいと思います。