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第三百二十五話:お兄ちゃんからの手紙

 第十章開始です。

 あれからしばらく経ち、春休みに入った。

 対抗試合のエルフの不正行為について割と包み隠さず伝えたせいで、今オルフェス王国ではエルフの差別が問題になっている。

 オルフェス王国は多種族国家であり、どのような種族であっても受け入れるという誓約を掲げているため一種族が差別されるという今回の件はかなり深刻な問題であり、エルフをむやみに差別してはならないというお触れを出すことになった。

 それでも未だにエルフに対する疑念は根強く、対抗試合直後のエルフに対する暴力や恐喝といった行為こそ少なくなったものの、至る所で陰口が絶えず、エルフはかなり肩身の狭い思いをしている。

 まあ、対抗試合は数年に一度行われる国の大きなイベントの一つだし、相手のローゼリア森国は魔術師の聖地として慕われていた。だからこそ、その期待度は大きく、それを裏切られた形になった今回の事件は国民にとって相当胸糞悪いニュースなのだ。だから、気持ちはわからなくはない。

 だったら初めから真実を伝えずに秘密裏に処理すればよかったのではないかと思うが、流石に学園での被害者が多すぎてこのまま事件を闇に葬り去るのは憚られたし、何より代表であるアリスさんがそのまま伝えて欲しいと頼んできたのだ。自らの行いを悔いるために。

 自ら泥を被るその姿勢は立派だと思うし、そのおかげで関係決裂とまではいかずに程よい距離感を保つことが出来たけど、それで割を食っている他のエルフは少し可哀そうだなと思った。

 まあ、色々思うことはあるけど、私はこれ以上は何もしない。もちろん、アリスさんに頼まれたり、向こうが何かちょっかいをかけてくるようなら動くのも吝かではないけど、これはもはや個人の問題ではなく国同士の問題だ。

 アリスさんもローゼリア森国復興のために力を尽くすと約束してくれたし、後は彼女らが何とかしてくれることだろう。なので、私は気兼ねなく休暇を過ごすことに決めた。


「いらっしゃいハク、調子はどう?」


 エルフ達が虐げられているのとは裏腹に、私達はかなり賞賛されていた。

 不正を暴いたことだけでなく、不正を受けながらも正々堂々勝負し見事に勝利したことが国民の心に刺さったのか、町を歩けば英雄様だともてはやされ、あっという間に囲まれてしまうので碌に町を歩けなかった。

 これじゃあ闘技大会で優勝した時と同じじゃないか。

 まあ、大体はアッドさんだったりエルが身代わりとなって相手をしてくれるからまだましなんだけど、おかげで隠密系の魔法を改良する羽目になった。

 目標は音はもちろん、臭いも魔力すらも感知されない完全な隠密だね。結界を応用すればできそうだけど、あんまり完璧にしちゃうとそれはそれで面倒事の種になっちゃうかな。

 まあ、これに関しては他の人に教えるつもりはないし、別に大丈夫か。私が操られて王様の暗殺でも命じられない限りは問題ない。まさかそんなことする奴なんているわけないだろうし。……いないよね?

 まあ、そんなおかげで人気者になってしまったので、発表会はかなり大盛況だった。ヴィクトール先輩はともかく、ミスティアさんが得意げな顔してたのは意外だったなぁ。


「うん、いつも通り元気だよ。お姉ちゃんは?」


「私も元気だよ。でも、最近暗殺者退治ばっかりでちょっと退屈だったけど」


 今はお姉ちゃんが泊まっている宿へと足を運んでいる。というのも、数日前にお姉ちゃんの方に呼び出されたのだ。

 その時は休みが空いてなかったので、少し伸びてこうして春休みまで会うことはできなかった。

 まあ、お姉ちゃんもそこまで急ぎではないと言っていたのでこうして遅れてきたわけだが、結局まだなんで呼び出されたのかは聞いていない。

 急ぎの用だとしたらお姉ちゃんなら直接寮の方に来るだろうし、一体何なんだろう?


「お姉ちゃん、何かあったの?」


「あ、うん、実はね、ラルド兄からまた手紙が届いたんだ」


「お兄ちゃんから!?」


 私にはお姉ちゃんの他にもお兄ちゃんがいる。もちろん、竜の子とわかった今では血縁関係なんてないけど、そんなことは些細なことで、私にとってはお姉ちゃんと同じくらい大切な人だ。

 以前、お姉ちゃんに聞いた話では私が死んだと思って私の事を生き返らせるために隣の大陸に渡り、その方法を探していたらしい。しかし、お姉ちゃんの方から手紙で私の無事を知らせ、今は私に会うために色々と問題を片付けている最中だと言っていた。

 思えば、お姉ちゃんが私の無事を伝えてからすでに一年以上が経過している。こちらも色々とごたついていて忘れていたが、流石にそろそろ戻ってきてもいい頃合いだと思うのに未だに帰ってこない。

 まさかお兄ちゃんの身に何かあったんじゃと心配になったが、こうして手紙が送られてきているということは無事なのだろう。少し安心して胸を撫で下ろす。


「お、お兄ちゃんは何て?」


「前に見せたのとだいたい同じかな。まだ戻れそうにないっていう話とそれについての謝罪がいっぱい」


「そっか……」


 実を言うと、お兄ちゃんからの手紙はもっと頻繁に送られてきていたらしい。ただ、その内容が毎回同じだから伝えていなかったようだ。

 まあ、お兄ちゃんにも都合というものがあるだろうからそれはいいんだけど、一年以上もの間片付かない問題っていったい何なんだろう。

 お兄ちゃんの性格からして、大抵の事なら無視して私に会いに来ようとする気がする。それをしないってことは、よほど重要な用事があるってことだ。

 お姉ちゃんによると、お兄ちゃんはお姉ちゃんよりも強いらしい。だから、そうそうやられることはないだろうけど、やはり心配ではある。

 せっかくこうして生き延びられたのに、このままお兄ちゃんと音信不通になってしまうかと思うととても悲しい。早く会いたいなぁ……。


「ハク、ラルド兄に会いたい?」


「うん……」


「それじゃあ、会いに行きましょ」


「……え?」


 俯いていた顔を上げると、にっこりと笑ったお姉ちゃんの顔が目に入った。

 会いに行く。なるほど、確かにそういう選択肢もあったなと思い至る。

 そうだよ、簡単な話だ。お兄ちゃんが動けない状態にあるのならこちらから会いに行けばいい。

 もちろん、隣の大陸に行くとなればかなりの日数がかかるけど、こちらには馬車よりも安全で且つとても早いエルという足がある。本来なら二か月以上かかる道のりでも、エルならば十日もあれば十分辿り着ける。

 仮にエルが力を貸してくれなかったとしても、その時は私が飛べばいいだけの話だ。何の問題もない。

 お兄ちゃんに会える、そう思うと俄然やる気が出てくる。

 幸い今は春休み、多少王都を離れたところで問題はない。むしろ、英雄騒ぎが落ち着くまでは離れていた方がいいまである。

 お姉ちゃんの誘いはとても魅力的だった。


「い、行く! 行きたい!」


「ふふ、それじゃあ、行ってラルド兄を驚かせてやりましょ」


「うん!」


 そうと決まれば早速準備だ。とはいえ、私の【ストレージ】には常に数か月分の食料がストックされているし、テントや水なども完備済み。だから、後はエルを説得できさえすれば今すぐにでも出発が可能だ。


「お姉ちゃん、すぐ戻るから準備しておいてね!」


「あ、うん、わかったわ」


 きょとんとするお姉ちゃんをしり目に私は部屋を飛び出す。

 いつもなら一緒にいるエルだが、英雄騒動の壁役となって今は別行動中だ。だが、場所はすでに把握している。

 私はうきうきとした気持ちを抑えきれず、鼻歌を歌いながらエルの下に急いだ。

 感想、誤字報告ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] やっと兄が……( ˘ω˘ )
[良い点] おお、ハクさんの謎の兄上ラルドさんがついに参上するのか?題名にも「兄」ってなってるから確定っすね♪ワクワクします☆(^◇^;)いつも浮かれないハクさんがウキウキしているのも珍しくてめちゃく…
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