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幕間:娯楽を作ろう

 主人公の友達の転生者、アリシアの視点です。

「娯楽を作りたい?」


 対抗試合も終わり、その後のごたごたも粗方落ち着いてきた頃、俺の家に対抗試合のメンバーであるテトさんを伴ってハクがやってきた。

 珍しくサリアとエルさんがいないことを不思議に思いながら部屋に通すと、そんなことを言ってきたのだ。

 娯楽を作る、確かにそれは俺も考えたことがあった。この国の娯楽はせいぜい闘技場での戦いや劇場での演劇くらいなもの。読書という手もあるが、庶民でも買えない値段ではないとはいえまだまだ高い。

 前世ではゲームやらアニメやら色々な娯楽があったが、この世界にはそれがあまりに少ない。だから、何か作ってやろうと考えはしたが、結局それを実行に移すことはなかった。

 いや、移す暇がなかったというべきだろうか。

 子供の頃からお嬢様としての教育を受けてきたし、少し大きくなってからは剣の稽古も加わったから趣味に費やす時間はあまりなかった。

 来年には学園に入学することになっているので多少は暇もできるだろうが、別になくても今のところ困ってないしなとあまり興味を持っていなかった。


「それは、素晴らしいことだとは思いますが、何で急に?」


「まあ、必要に駆られてというか、あまりに暇を潰すものがなかったからこの際作れないかなと思って」


 どうやら、対抗試合の時にガレスという町に宿泊した際、あまりに暇でしょうがなかったらしい。

 その時はテトさんが紙芝居のようなものを見せて暇を凌いだらしいが、ハクが暇を持て余すとは正直意外だった。

 だって、ハクは魔法の才能がずば抜けているせいかオリジナルの魔法を作れるほどに頭がいい。

 実際、宿暮らしだった頃はほとんどの時間を魔法の研究に充てていたようで、その魔法の種類は計り知れない。

 それなのに暇を持て余すってことは、もう研究に飽きたってことだろうか? いや、ハクの性格からしてそれはない気がする。ハクは興味のあることにはどこまでも突っ走っていくような性格だし。

 となると、何らかの理由で暇はあったけど研究している場合じゃなかったってことになる。対抗試合でって考えると、まあ、十中八九例のエルフの不正騒動のせいだろうな。

 ハクは何も言わないけど、相当神経を使っていただろうし、純粋に楽しむ娯楽が欲しくなったのかもしれない。好きなことでも、ずっとやってたら飽きるだろうしな。


「なるほど、それじゃあ、何を作るつもり?」


「まあ、無難にトランプかなぁ」


 トランプか。確かに紙に数字を描けば作れるだろうし、いくつもの遊び方があるから飽きも来にくい。暇つぶしとして作るならいい選択だろう。

 他には将棋とかチェスとかもよさそうだけど、あれは立体だから木とか石とかを削って作らなくちゃならないからな、割と手間がかかりそうだ。


「いいんじゃない? 娯楽が増えるのは歓迎だし」


「そうだよね。それじゃあ、材料とかデザインの話をしたいんだけど……」


「……ハクちゃん、ちょっといいかな?」


 ハクはトランプを作るつもり満々だったようだけど、そこでテトさんから待ったの声がかかった。

 不思議だったのだが、なんでこの場にテトさんがいるんだろうか。

 いつものメンバーであるサリアやエルさんならともかく、対抗試合で知り合ったとはいえ関係の薄そうなテトさんが来る意味がわからない。

 絵を描くのが得意らしいから、デザイナーという名目で呼んだとか? まあ、素人よりはプロが描いた方がいいだろうけど、身内で楽しむ分には別にそこまでのクオリティーはいらない気がするだが。


「なんでしょう?」


「ハクちゃん、トランプはすでにあるよ?」


「え?」


 テトさんが言うには、トランプはすでにこの世界に存在しているらしい。

 なんでも、セフィリア聖教国が主導になって販売しているようで、隣の大陸では貴族を中心に結構な人気になっているのだとか。

 まあ、セフィリア聖教国と言えば、転生者を囲っている聖教勇者連盟がある場所だ。そりゃ転生者が何十人もいればそういうのを売り出す奴もいるわな。

 流通こそ少ないが、この国でも買うことはできるらしい。恐らくだが、数人の貴族はすでに持っているのではないかとのこと。

 なるほど、すでに流通してるなら、わざわざ自分達で作る必要はないか。


「そっか。知らなかった」


「まあ、今のところ持っているのは上流階級の人ばっかりみたいだから仕方ないよ」


「それじゃあ、この話はなかったことに……」


「待って、それなら別の物を作ろうよ」


「別のもの?」


 トランプはすでに作られている。それどころか、将棋やチェスもすでにあるらしい。

 別にこれを売るつもりはなかったが、先を越されたと考えると少し腹が立つ気もする。まあ、誰もが知ってるゲームだから作られるのは当たり前っちゃ当たり前なんだけど。

 一応、売ろうと思えばこっちの大陸ならまだまだ流通は少ないし、値段を安くすれば売れそうな気がしないでもないけど、それはそれで量産するのが面倒くさそうだし、商人でもないから売るルートもない。

 しかし、テトさんは何か別の考えがあるようで、にやりと笑って数枚の絵を取り出した。


「ハクちゃんに娯楽を作りたいって言われた時に思ったんだけどね、これ使えないかなぁって」


「これは?」


「トレーディングカードゲームって言うのかな? 前世の世界で割と流行ってたやつ」


「ああ、どこかで見たことがあると思ったらそれか」


 『サモナーズウォー』というカードゲーム。

 プレイヤーは召喚士サモナーとなってカードに封印している召喚獣を使役し、それぞれが持つ特有の効果や支援魔法、罠などを用いて戦う前世では割と有名だったカードゲームだ。

 テトさんが出したイラストはそれに登場する有名なカードのイラストであり、多少のデフォルメこそあるがかなり再現度が高いものとなっていた。

 というか、さらっと前世って言ってたけど、もしかしてテトさんって俺と同郷の人だったりする?


「あの、今前世って……」


「あ、説明するの忘れてた。アリシア、テトさんは転生者だよ。ちゃんとした女の子のね」


「やっぱりそうか……。そういうことは早く言って欲しかったな」


「ごめんごめん」


 まあ、ハクには転生者を見つけたら連れてきてほしいとは頼んでいたし、別にいいんだけどさ。


「自己紹介が遅れました。朝比奈千夜と言います。よろしくお願いしますね」


「あ、ああ。東風谷昴だ。こちらこそよろしくな。ちなみに元は男だったから、そこんとこよろしく」


「まあ……随分と可愛らしくなられて」


「うっせ」


 男だと暴露しても、千夜さん……いや、ここはテトさんでいいか、は特に驚いた様子もなかった。もしかしたら、事前にハクから教えられていたのかもしれない。

 にっこりと微笑む姿が意外と可愛い。ハクとはまた違った可愛さだな。

 それはともかく、ここに来てようやく見た目と中身が一致している奴が来たことに安堵している。

 まあ、アーシェントさんとかユルグとかは見た目と中身が一致しているけど、まさか俺と同じように見た目と中身が一致しない奴がいるとは思っていなかったから、案外俺みたいな奴って多いんじゃないかってハクを見て思っていた。

 転生なんだから単純に考えれば性別が一致するかどうかは二分の一だろうけど、普通は元の性別と同じになるよなぁ。とは言っても、ハクは結構特殊な例らしいので完全運で性別が反転したのは俺だけなんだろうけど。

 そう思うと少しへこむな。別にもう男に戻りたいとは思ってないからいいけどさ。


「さて、それはそれとして、これなら売れると思いませんか?」


「そりゃ、トレーディングカードゲームなんてこの世界にはないだろうし、ルールを浸透させることが出来ればもしかしたら売れるかもしれないが……」


 トランプと違ってこのカードゲームはルールが一つしかない。いや、あるにはあるが、『サモナーズウォー』のルールをそのまま適用するとなるとかなり複雑なルールになってしまう。

 ルールが難しければ新規の人はしり込みしてしまうだろうし、人口が増えなければあまり楽しめないだろう。

 うまくいくとは正直思えないし、そもそもどうやって量産するつもりなのだろうか。

 身内で楽しむ分にはいいかもしれないが……。


「量産については伝手がありますからご安心を。ただ、私はコレクションとしてしか集めてなかったので詳しいルールとかは知らないんです。だから、その辺りをお二人に考えていただければと」


「そもそも売る必要あるのか? 暇を潰したいだけなんだろう?」


「でも、みんなでやった方が面白くないですか?」


 まあ、一理ある。あのゲームは召喚獣、支援魔法、罠の三種類を使ってデッキと呼ばれる束を作るのだが、作るテーマによって戦い方は千差万別だ。

 召喚獣と言ってもその種類はかなり豊富で、人間だったり獣人だったり、果ては機械だったり精霊だったりがモチーフの召喚獣すら存在する。そして、テーマも速攻型だったり守りに特化していたりとかなりのバリエーションがある。

 一人が複数のデッキを持つこともあるし、カードの種類が多ければ多いほど楽しめる内容となっている。

 最低二人いれば遊べはするが、やはりいろんな人がそれぞれの趣味に合わせてデッキを作っていった方が楽しみの幅は広がるし、飽きも来づらいだろう。

 まあ、それほどの種類を流通させることが出来るのかという問題はあるが、その辺りは何か策があるらしい。

 別に開発費用を出してくれと言っているわけではないのだし、もしうまくいけば多少なりともお金が手に入る。俺の家は貴族ではあるけど階級的には一番下、だからそこまで裕福というわけではない。

 両親のために少しでも稼げるというのであれば割とあり、か?


「ルールを作れば後はやってくれるのか?」


「はい、これでも商人の娘なので」


「え、そうだったんですか?」


「うん、言ってなかったっけ?」


「聞いてないですね……」


 てっきりテトさんは貴族だと思っていたのだが、どうやら商人らしい。

 いや、貴族でも商人をしている人はいるから貴族でないとは限らないか。

 とはいえ、本職が手伝ってくれるというなら本気で売れるかもしれない。少しやる気が出てきたかも。


「ハクさえよければ俺はいいぜ。ハクはどうだ?」


「まあ、私も一時期はまってましたし、この世界でもそれができるのならまあ……」


「じゃあ決まり! とりあえず、絵の方は描いておくから、ルールの方をお願いね」


 そんなこんなで、トレカの製作に一枚噛むことになった。

 俺としてはトランプでもまあいいんだけど、興味がないわけではないし、これをきっかけに友達が増えてくれたらいいなと思うから話に乗るのも悪くはないだろう。

 俺達は早速ルールを思い出す作業を始めた。

 感想、誤字報告ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] パックを買い占めて貴族に転売する人達が出てきそうだよなぁ
[一言] 娯楽を作ろう! (´Д` )なんて言うから演劇とかのエンタメかな?と思ったらトレーディングカードゲーム作成、なんつーか文系よりな流れだなー。まあテトさんの筆魔法にはピッタリな作業ですし、前世…
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