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幕間:アダマンタイトの使い道

 主人公、ハクの視点です。

 アダマンタイト。世界三大神金属の一つで、世界最硬の強度を持つ最高の素材。

 神金属を使った武具では主に盾や防具に使用されており、どんな攻撃でも砕けず、魔法攻撃すらも跳ね退ける。まさに無敵の金属だ。

 しかし、これは神が住まう場所にある金属であり、地上に残っているのは神々がたまたま地上に落としてしまった残りかすであり、かなり貴重なものとなっている。

 また、そのあまりの強度から加工するのは相当難易度が高く、研究者の間ではこれは神にしか扱えない金属として匙を投げる人も出てくるほど。

 仮に加工できたとしても数があまりにも少ないことから実践投入するのはあまりにも現実的でなく、現在はその成分を分析するために各国が少量所持しているのみとされている。

 しかし、それはつい最近までの話だった。


「さて、何に加工しようかな」


 私の手には精錬によってインゴットになった青緑色の金属が握られている。そう、アダマンタイトのインゴットだ。

 地上ではまずお目にかかれないアダマンタイトではあるが、ホムラが見つけたダンジョンにたまたま生成されているのを見つけ、かなりの量を確保することに成功した。

 しかも、ダンジョンの性質上、放っておけばそのうちまた生成される。つまり、アダマンタイトが無限に取り放題というわけだ。

 これだけあれば研究だってし放題だろうし、そうすれば加工の技術も確立できるかもしれない。でも、私はそれをする気はなかった。

 先に述べた様に、アダマンタイトはどの金属よりも固く、魔法を吸収する性質を持っている。防御面では右に出る者はないような夢のような性質を持っているそんな金属で防具を作ることが出来れば、それを着た人の生存率はぐっと上がることだろう。しかしそれは同時に、その人物を死地に誘うことにも繋がる。

 現在の戦争で使われてる最高の防具と言えばミスリル製のものだ。軽い上に丈夫で、魔法に対してもある程度の耐性を持っている。重さを除けばアダマンタイトの下位互換のような素材だ。

 この装備があるからこそ、敵の魔法攻撃にも切り結んでもある程度は耐えることが出来る。しかし、そこにアダマンタイト製の防具が投入されたらどうだろう。

 並大抵の攻撃は弾き、魔法すらも跳ね退ける。そうなれば、アダマンタイト製の防具を持たない側はあっさりと負けてしまうだろう。

 それだけなら、無駄に戦闘を引き延ばすこともなく死者も減るのではないかと思う。しかし、人間は欲深な生き物だ。今まではそれで満足していたことでも、いざ強い力が手に入ったとなれば増長する人も出てくる。

 強欲に領地を求め、より強敵へと挑むことになるだろう。もしかしたら、その硬さに任せて自爆特攻のようなことをさせられるかもしれない。

 いくらアダマンタイトが優秀とは言っても、それを使うのは所詮は人だ。守れない部分も当然あるし、何度も攻撃を受けていれば衝撃で中身の人の方が先に壊れてしまうかもしれない。それに、負けた側もただでは起きないだろう。アダマンタイトに対抗するために、さらなる殺戮の手段を考えてしまうかもしれない。

 つまり、アダマンタイトを戦争に流用されてしまえば戦争の形は大きく変わり、より多くの死者が出てしまうのだ。それは望むところではない。

 しかし、かといってこんな夢のような素材を前にして何も手を出さないという選択肢は私にはなかった。


「セオリー通りに行くなら盾とか鎧とかだけど……」


 アダマンタイトと言えばゲームでもよく聞く最硬の金属だ。

 私が知ってる硬いものと言ったらダイヤモンドだけど、それよりも固い。

 もちろん、私自身は別に防具など必要ない。竜の血が流れるこの体はある意味でとても頑丈だし、仮に腕を切り落とされたとしても治癒魔法ですぐにくっつけることが出来る。そりゃ、防具を着ていた方が安全なのに変わりはないけど、アダマンタイトの重さを考えると相当軽装でない限り私では装備できそうにない。だから、そこまで必要というわけではない。

 だけど、せっかく夢の金属が大量に手に入ったのだから作らないのはもったいなさすぎる。私は使わないかもしれないけど、他の人は使うかもしれないしね。

 大量に出回るのは危険かもしれないけど、私の知り合いに少し配るくらいだったらそう騒ぎになることもないだろう。【鑑定】でも使わなければわからないだろうし、その【鑑定】を使える人も少数で、しかも勝手に人を【鑑定】することはマナー違反らしいからね。

 まあ、勝手に【鑑定】したとしても相手にはわからないからもしかしたらしてる人もいるかもしれないけど、どっちにしろ【鑑定妨害】はかけるつもりだから関係ない。


「使う人、いるかな」


 さっと思い浮かべてみるが、特に思い至らない。

 アダマンタイトと言えば盾や防具というのは神具の傾向からくるものだけど、かといって使える人が少なすぎる。

 お姉ちゃんはスピードタイプだから重いアダマンタイトの防具はいらないし、サリアも相手の背後を取っていく暗殺スタイルもあるから向かないし、エルは竜だからそんなものなくても普通に強いし……。

 あり得るとしたらサクさんとかアリシアだろうか。どちらもどちらかというと受けの戦法だし、防御力が高いというのは割とありかもしれない。……いや、でもサクさんの流派は相手の動きに合わせて動きを変えていくスタイルだから重くて動きの制限される鎧は逆に邪魔かな? やっぱりだめじゃん。


「うーん、アリア、何かいい案ない?」


「まあ、ないこともないよ」


 アダマンタイトという貴重な金属を使う以上、あまり信用できない人には渡したくない。だけど、みんなしなやかに自由に動く戦法の人が多いからアダマンタイトの特性である重さがネックになってくる。

 普通の鎧だったら刻印魔法で重量軽減するって言うのも手だけど、アダマンタイトは固すぎて刻印魔法が施せない。……いや、鋳造すればできるかもしれないけど、繊細な模様を描かなくてはならない刻印魔法を鋳造でやろうとするのは少し無謀に思える。そもそも、魔力の密度が高すぎて魔力を受け付けないから刻印できても発動しないしね。

 ほぼ破壊不可で魔法吸収っていう凄い強みがあるから刻印魔法がなくてもそこそこ強いとはいえ、やっぱり使い勝手で言うとミスリルの方が加工も楽だし強そうだ。

 せっかくの素材なのに勿体なさすぎる。どうにかして刻めればいいんだけどな。


「どんなの?」


「防具じゃなくて武器にすればいいんじゃないかな」


「……なるほど」


 アリアの言葉に納得する。

 アダマンタイトと言えば防具というイメージがあったけど、確かに武器にしてはならないというわけではない。

 アダマンタイトほどの強度があれば刃こぼれもしないだろうし、魔法吸収の能力も使いこなせれば中々強いかもしれない。

 まあ、重いって言うことに変わりはないからお姉ちゃん達に持たせるなら多少小さめの武器にする必要がありそうだけど、多少重量が増える程度だったら使える人もいるだろう。

 あるいは、解体ナイフにしてしまうというのもいいかもしれない。魔物の中にはとてつもなく硬い皮膚を持つものもいるし、そういった奴を解体するのには便利かもしれないね。


「ハクはどんな武器を使うつもりなの? やっぱり剣?」


「え? まあ、使うなら剣だと思うけど」


 一番練習しているのは剣だし、私が武器を使うとしたら剣だろうな。

 一応、シンシアさんの影響もあって最近は魔導銃も少し練習しているけど、腕前はまあ、まだまだかな。


「だと思うって、え? 自分のを作るつもりじゃなかったの?」


「いや、誰かにプレゼントしようと思ってたんだけど……」


 アリアがきょとんとした顔でこちらを見てくる。

 確かに、自分が使うという選択肢もあったか。私は魔法がメインだし、アダマンタイトは魔力伝導率がかなり悪いから杖には向かないしで私が使うというイメージを全く思い浮かべていなかった。

 以前から近接用に剣の一つでも持っておいた方がいいとは言われている。と言っても、私は魔法で武器を生成できるし、本物の剣は重すぎて持てないという欠点もあるから持つ気はなかった。

 うーん、仮に私用に作ったとしてもアダマンタイト製の武器じゃ多分持てないよなぁ。風魔法で重量軽減するにしても魔力伝導率の悪さが邪魔をするし、アダマンタイトの武器を私が持つのは多分無理じゃないだろうか。仮に持つとしても、軽いミスリルの方がいい気がする。


「そっかぁ、なんか残念」


「私じゃ扱いきれないと思うしね」


 鎧も盾も武器も重すぎて持てない。【竜化】すれば持てるだろうが、流石に限定的すぎる。

 まあでも、そんなこと言ったらお姉ちゃんの武器だって刻印魔法を付与した特注の武器らしいから私が新しく武器を用意していいものかと思わなくもないし、そんなことをいちいち気にしていたらいつまで経っても作ることはできない。

 別に使われなくたっていい。これは単純に私がアダマンタイトを加工したいだけの話であって、誰かに使ってほしいというわけではないのだから。

 そりゃ、もちろん使ってくれた方が嬉しいけど、使い勝手の悪いものを無理矢理使わせるというのも違うし、その人にとって合わないのなら使わないのも手だ。最悪、観賞用として使ってくれたってかまわない。

 とりあえず、いくつか作ってしまおう。話はそれからだ。


「とりあえず、色々試してみるよ」


「うん、頑張って」


 と言っても、加工するのは私じゃない。熔かすことはできるけど、鍛冶なんて私はやったことないからね。それっぽいことはできるかもしれないけど、こういうのは本職に任せるに限る。

 当然、任せるのは竜の谷に住む竜人だ。あの人達なら秘密は守ってくれるだろうし、加工技術も十分にあるだろう。なんせ日常的に竜の素材を取り扱ってるんだから。

 少し見せてもらったことがあるけど、竜の素材を使った鎧やら剣やらをいくつも作成していた。あれ、出回ったら相当やばいことになるだろうなぁ。

 そういうわけなので、希望を言って任せることにする。まあ、アダマンタイトを熔かせるのは今のところ私しかいないから私も手伝うんだけどさ。


「誰か使ってくれるといいんだけどな」


 そんなことを思いながら託して数日後、リクエスト通りいくつかの武器が出来上がった。

 剣に槍、ナイフなどのオーソドックスなものから、斧に棍、ハンマーなど、誰が使うんだって言うものまで様々。まあ、そこらへんは趣味に走っただけだから気にしないで欲しい。

 とりあえず、出来上がった武器は知り合いにばらまいてみたが、結局メイン武器として使ってくれたのはアリシアとサクさん、後は王子だけだった。

 お姉ちゃんやサリアも貰ってはくれたんだけどね、やっぱり使い勝手は悪かったらしい。

 武器としてはかなりの業物であることに違いはないが、やはり体に合わなければ意味がないということがわかった。

 まあ、アダマンタイトの武器を造れただけでも満足なので良しとしよう。

 【ストレージ】に大量の在庫を抱えながらふぅと息を吐いた。

 感想、誤字報告ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] アダマンタイト製の武器だと知ったら全員青ざめたと思う。 間違いなく国宝を超える代物だからw。
[一言] アダマンタイト製の食器や調理器具を作れば (アダマンタイト製の)匙を投げるってダジャレが完成する
[良い点] アリア先生お久しぶり〜♪そして久しぶりに満たされるハクさんの技術者魂(´ω`)特に必要じゃないけど出来るんならやっちまえ!な その思考にマッドの片鱗を感じます。 [気になる点] 神器や国宝…
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