幕間:お疲れ様会
主人公の友達、シルヴィアの視点です。
並べられた机に置かれる数々の料理、そして乾杯のために用意されたグラス。
教室一つを貸し切りにして用意された歓迎の場には、多くの生徒達が駆けつけていた。
何の歓迎かと言われれば、今回活躍に活躍を重ね、英雄とも名高い五人のチームを労うためのものだ。そう、対抗試合のメンバーへ向けたお疲れ様会である。
前々からこのパーティは企画していた。対抗試合は数年に一度行われるオルフェス魔法学園の由緒あるイベントだし、魔法の才に優れたエルフ達を相手に戦うチームは学園の生徒にとってはヒーローのようなものだ。
まあ、最近の戦績は残念ながら負け続きで、今回も勝てないかもしれないというムードではあったが、負けたなら負けたで慰めてあげようとこうした場を設けようと思ったのだ。
しかし、今回はその参加メンバーの中に私の友人の名前があった。そう、ハクさんとサリアさん、それにエルさんである。
この三人はオルフェス魔法学園の長い歴史の中でも一、二を争う実力者であり、すでに成人している二人はともかく、ハクさんに至ってはまさに神童というべき存在だった。
それに加え、他のメンバーはかつて勇者と共に魔王に挑んだ魔術師の家系であるソーサラス家のアッドさん、そして、主に六年生の間で密かに人気が高いテトさんだというのだから興奮を隠せない。
間違いなく、今までで最高のメンバーである。これならば、勝ちの目も十分にあるし、なによりハクさん達が戦うとあれば応援しないわけにはいかない。
そして、ハクさん達は私達の期待を裏切らず、見事に勝利を収めてくれた。しかも、ただの勝利ではない。数々の妨害を受けて圧倒的に劣勢の状況だったのにもかかわらず勝利したのだ。
この妨害については国の方から国民全員に知らされていて、すでに周知されている。ただ、魔術師の聖地として名高いローゼリア森国が不正を行っていたなんて話は寝耳に水で、すぐには信じられなかった。
しかし、実際にハクさん達はその問題を暴いたことによって陛下から表彰されており、ハクさん達も事実だと言っていたので本当の事なのだろう。
噂では、賢者様まで悪事に加担していたという話もあり、清廉潔白なエルフのイメージが損なわれるのと同時に、よくそんな実力者に勝てたなとハクさんの事を見直した。
「ハクさん達はいつ来ると?」
「そろそろ来ると思いますわ」
今回のパーティは生徒のみならず教師や護衛の方達も参加している。護衛の中にはハクさんのお姉さんであるサフィさんもいたようで、声を掛けたら割とあっさりと参加の返事をもらうことが出来た。
今はまだ来ていないようだけど、ハクさんと一緒に来るのかもしれない。ハクさんは意外とお姉ちゃんっ子のようだし、運が良ければレアなハクさんの表情を拝めるかもしれない。見逃さないようにしなければ!
「あ、来ましたわ」
そうこうしているうちに、ハクさん達が会場内に姿を現した。その傍らにはサフィさんと、テトさんの友達なのか女生徒の姿がある。
こうして並ばれているとハクさんの小ささがより際立ち、下手をすれば大人であるサフィさんの子供のようにも見えなくはない。
髪の色も顔立ちもあまり似てはいないけど、それはそれでありだなと思った。
よし、後でネタ帳に追加しておこう。新しい本ができるかもしれない。
「皆さんお静かに。主役も来たようですので、そろそろパーティを始めますわ!」
私はそっとハクさん達に近づき、主役席へと案内する。まあ、席と言っても立食形式にしているから目立つように一段高くなっている教壇の下に連れて行っただけですけど。
生徒達は主役の登場を歓迎するようにハクさん達に視線を送っている。
それが恥ずかしいのか、ハクさんの表情がビミョーにぴくぴくと動いている気がした。
ふふ、可愛い。
「まずは皆さん、対抗試合の方お疲れ様ですわ! どの試合も見ごたえがあってとてもかっこよかったです。色々アクシデントもあったようですが、皆さんならきっと乗り越えられると信じておりましたわ」
私の言葉に賛同するようにみんなが頷いている。
アクシデント、と可愛い言葉で言ってはいるが、実際はもっと大変だったと思っている。もしかすると命の危険すらあったのかもしれない。
でも、そこはあまり掘り下げるべきではないだろう。ここは労いの場、試合の事を振り返っての思い出話もいいかもしれないが、それは主役であるハクさん達の役目だ。私達は聞きに徹する側、それにあまり待たせてはせっかくの料理も冷めてしまう。
だから、前置きは簡単に、さっさとパーティを始めてしまおうと思った。
「ささやかではありますが、このような場を設けさせていただきましたわ。ハクさん、それに他のメンバーの皆様も本当にお疲れ様でした。そして、おめでとうございます! この勝利を称え、乾杯といたしましょう!」
アーシェがグラスを持ってきてハクさん達に渡していく。それに呼応するように生徒達もグラスを手にし、合図を待った。
「それでは、乾杯!」
「「「乾杯!」」」
グラスを高々と掲げ、その後一気に飲み干していく。
今回用意したのは友人に取り寄せてもらった高級ワインだ。彼女の領地はワインで有名らしく、急な発注だったにもかかわらずちゃんとパーティに間に合わせてくれた。
彼女には後でハクサリ本の新作を進呈しておくことにしよう。彼女もまた、ハクサリを愛でる会の一員なのだ。
「これ、お酒ですか……」
「ええ。もしかして、ハクさんはお酒は苦手でしたか?」
「いや、まあ、苦手ってほどじゃないですけど……」
みんなの勢いにつられたのか、すでにハクさんのグラスは空になっている。
このワインはそんなに酒精は強くないはずですけど、ハクさんにはまだ早すぎたかしら?
ワインは貴族の間では割と一般的な飲み物であるけれど、元々平民だったハクさんには馴染みが薄いのかもしれない。それでびっくりしたのかもしれませんわね。
まあ、表情に変化がないところを見ると全く飲めないというわけではないのでしょう。たまに全く飲めない人もいるらしいですが、そうでなくてよかったですわ。
「ではハクさん、対抗試合でのエピソードを色々聞かせてくださいな。特に、第三試合は私もよく知らないので聞きたいですわ」
「は、はい」
その後、それぞれ知り合いの生徒に誘われて各々話を聞きながら飲み食いすることになった。
ダンジョンに関しては未だに謎が多く、低ランクとは言えども危険な場所。もちろん、教師や護衛による安全確保が行われていたとはいえ、初見の生徒はダンジョンに潜ることに忌避感を覚える人もいる。
その点、ハクさんは頻繁に王都のダンジョンに行っているだけあって取り乱すこともなく、冷静に探知魔法で敵を探し出し、罠を探り当て、メンバーを支援することに徹していたのだとか。
最後、ボス部屋ではアルラウネと対決し、エルさんが氷漬けにしたところを破壊することで倒すという豪快な倒し方をしたという話はかなり興奮したし、出来ることなら実際に見たかったなと思った。
「国の発表では向こうの生徒が妨害してきたらしいですけど、具体的にはどんなことを?」
「まあ、色々と。でも、全員じゃないですよ。まともなエルフもいましたし、エルフ全体がああというわけではないと思います」
ハクさんはあまり詳しくは話そうとしなかった。
恐らく、話すことでエルフのイメージが下がることを恐れているんだろう。実際、向こうのメンバーのうち二人はまともで正々堂々と戦おうとしていたらしいですし。
散々妨害されたのに相手のことを心配するなんて、ハクさんは優しすぎますね。近くで話しているエルさんなんかは容赦なく話してしまっているというのに。
「あ、ハクちゃん、口が汚れてるよ」
「んっ……」
隣にいるテトさんがハクさんの口元をハンカチで拭ってあげている。
不思議なのだが、テトさんはなぜかハクさんにべったりくっついて離れなかった。
と言っても、サリアさんのような甘えん坊というわけではないし、エルさんのような主従のような関係にも見えない。どちらかというと、恋人のようなそんな甘酸っぱい雰囲気を感じる。
テトさんはアッドさんと恋仲なのではないかという話をちらほらと聞いたことがあるが、まさかのハクさんに乗り換えだろうか?
まあ、ハクさんは魅力的だからその気持ちはわからなくもない。少し不満そうにしているハクさんも可愛いし、私としては新たなカップリングが生まれることは大歓迎だ。
これもメモしておこう。本のネタがどんどん増えていく。うへへ……。
その後、アルト王子が再び告白しようとしたかと思えば、騎士としての忠誠を誓おうとしたり、酔ったハクさんがそれをオッケーしてしまいそうになったり、テトさんがどさくさに紛れてハクさんにキスしようとしたりと色々とドタバタがあったが、無事にパーティは終了した。
今回の事件でエルフの印象が変わったという話が広がっているけれど、このメンバーにも色々と変化があったらしい。
私は後片付けをしながら新たな妄想を膨らませていた。
感想、誤字報告ありがとうございます。