第三百二十四話:事態の収束
あれからしばらくして王都に戻ることになった。
ダンジョンを脱出してからすぐに早馬を飛ばして王様に報告したらしく、三日後には騎士達がやってきてガレスの町の捜査を開始。既に捕まえてあった教師達から話を聞き出し、潜んでいた暗殺者達をすべて捕まえたとのこと。
王都でも同様のことが行われており、さらにはローゼリア森国の長と連絡を取り、今回の顛末を報告。娘であるアリスさんが襲われたという話も伝わったようで、確実に殲滅すると息巻いていたようだった。
これによってオルフェス王国およびローゼリア森国に潜む脅威はあらかた摘み取ったことになる。
もちろん、まだ吐かせていない情報があるかもしれないし、これですべてというわけではないだろうが、今回の事は国中に伝えるらしく、今後ローゼリア森国の評価はがらりと変わることになるだろう。
森に住むエルフ達の動きだったり、これを機にエルフ自体に忌避感を抱くことがあるかもしれないという問題もあるが、少なくとも対抗試合の妨害騒動はこれで幕を引くことになるだろう。
主犯のエルマセイルさんや実行犯のエンゲルベルトさんがどうなったかは聞かされていないが、きちんとした罰を受けているといいな。
「よくやってくれた。君達がいなければ、私達はこれからも理不尽な妨害を受け、苦しむ生徒を生み出し続けていたことだろう。数々の妨害を受けながらそれを耐え抜き、よくぞ打ち勝ってくれた。ありがとう」
戻って早々学園長室に呼ばれると、そんな言葉と共に学園長が頭を下げた。
呪いで声を出せなくされたり魔法を封じる魔道具を付けさせられたりと割と理不尽な妨害を受けたが、よく勝てたものだ。
これもひとえにみんなの頑張りがあっての事。このメンバーでなければ今回の事件は解決できなかっただろう。本当によかった。
「いえいえ、私達は当然のことをしたまでです。それに、単純に勝ちたかったですしね」
「ハクちゃん、あの状況でも試合に勝とうとしてたの?」
「ええ、まあ」
「見上げた根性ですね。私はもう試合なんてどうでもよくなってました」
まあ、私が対抗試合に参加しようと思ったのはエルフという種族を見てみたかったことと、単純に楽しみたかったからだ。
そりゃ、妨害されるのはあまり気分がいいものではないし、正々堂々戦ってくれないのはもやもやするけど、それを言うなら私の能力も反則級である。
それにエルだっていたし、元々人間対エルフという構図の中に空気を読めない竜達が混ざっていたのだ。多少の妨害はむしろ当然とも言える。
もちろん、竜としての力は使わないようにはしていたけど、それでも魔力の量だけはごまかせない。そして、魔力が多ければ魔法の威力も自由自在だ。
だから、全体的に見れば妨害も含めて楽しかったと思う。まあ、それは私だけの価値観なので出来ることなら私だけを妨害してほしかったけどね。
「今回の件は国同士の関係を揺るがしかねないとても大きな事件だ。本来ならローゼリア森国とは国交を断ち、下手をすれば戦争沙汰になっていた可能性もある。だが、君達やアリストクロス君達の証言によってそれは免れた。君達は国を救った英雄というわけだ」
この場合の救ったはローゼリア森国の事だろうか。
私としても、他種族との関わりを持ってくれる貴重なエルフ達がいなくなってしまうのは惜しいし、その件に関しては本当によかったと思ってる。
もしあれならいつか遊びに行ってみたいね。ローゼリア森国。
「そこで、国の方から表彰されることになった。都合は君達に合わせるので、予定を聞かせて欲しい」
「表彰、ですか」
勲章でも貰えるんだろうか。いや、今回はオルフェス王国が危機に陥ったわけではないし、それはないかな?
まあ、そうでないとしても結構名誉なことだろう。王様から表彰されたとあっては文字通り英雄扱いだろうし、その名は後世にまで轟くに違いない。
私としてはそこまで名声に興味はないけど、流石にここで辞退するというわけにもいかない。特に、アッドさんにとってはこれは必要なものだろう。
私が辞退したら一緒に辞退しちゃうかもしれないしね。一緒に受け取ってあげた方がいいだろう。
「この後はまた通常授業ですよね?」
「ああ、そうだな」
「なら予定はそちらにお任せします」
王様からの表彰となれば授業くらいは免除してもらえるだろう。私達は生徒の身、学園からの許可さえあれば割と自由に動ける立場だ。だから、学園長の許可さえあればいつだってかまわない。
それはみんなも同じようで、私に便乗するように口々にそう言った。
「わかった。では予定は後程伝えよう」
「お願いします」
「ああ。それと、もう一つ渡すものがある」
学園長はそう言って机の下からあるものを取り出す。
青く透明な素材でできた優勝杯。あの時、私達が手にするはずだったものだ。
「対抗試合自体は今回の事件のせいでうやむやになってしまったが、それでは君達も落ち着かないだろう。幸い、数々の妨害を受けていながらも得点は君達の方が上、さらに第三試合でも最初に手にしたのは君達だ。よって、君達にこれを贈ろう」
そう言って優勝杯を差し出してくる学園長。その瞬間、みんなが私の方を見たので私が代表して受け取ることになった。
受け取った優勝杯はどうやら魔石でできているらしく、魔力に反応して微かに光っている。水の魔石のようだが、特殊な加工を施してあるらしく、魔力を流しても水が生成されることはなかった。
「おめでとう。君達は実に三十年ぶりに勝利した名誉あるチームだ。誇るといい」
「ありがとうございます」
これは私達五人の優勝の証。正式なものというわけにはいかないけれど、それでも私達の力で勝ち取ったものだ。
こうして受け取ってみると喜びの感情が湧き上がってくる。
なんだかんだで楽しみにしていた行事なのだ。それに勝てたことは素直に喜ばしい。
みんなの方に振り返り、杯を掲げてみせると窓から差し込んだ光が反射してきらりと輝いた。
「話は以上だ。疲れたことだろう。ゆっくり休んでくれ」
「はい」
学園長室から退出し、寮へと戻る。
優勝杯に関しては私が保管することになった。部屋にでも飾っておくとしよう。
「ねぇ、ハクちゃん」
寮に戻る途中、テトさんが話しかけてきた。
なぜか少し顔を赤らめており、もじもじと体をくねらせている。
まるで異性に告白する時のようなしぐさであるが、現在は同性であるためそれはないだろう。
一体どうしたんだろうか。私はテトさんの方へと向き直った。
「その、今回は色々ありがとうございます。おかげで助かりました」
「? どういたしまして?」
呪いを解いたことだろうか、確かにあれは教会に行ったとしても解くのに時間がかかっただろうし、効果も声を出せなくして物を持てなくするというかなり凶悪なものだった。
それで恩義を感じるのは、まあなんとなくわかるけど、なんだか様子がおかしい。
「それで、その、あの時、ハクちゃんは私の、その、中に、入れたじゃない?」
「ええ、まあ」
「その時からなんだかハクちゃんのことが頭から離れなくて……ううん、もうはっきり言うね。ハクちゃん、あなたのことが好きです!」
「……はい?」
告白する直前のようだとは思っていたけど、まさか本当に告白するとは思わなかった。
え、ちょっと待って、どういうこと?
いや、確かにテトさんとは秘密を共有し合う仲間ではあるけど、そんなそぶり一回も見せてなかったじゃない。
まさか、呪いを解くために魂に触ったことによって何かしら悪影響が? うわ、だとしたらやばいことしたかもしれない。
テトさんの目はとろんとしていてマジで恋してるみたい。これは重傷だな。
「ハクちゃんがこんな風にしたんだから、責任取ってよね?」
「え、いや、それとこれとは話が……」
「ハクちゃん、私の事を捨てるのね……」
「いや、ちが、え、エル、助けて!」
「いいじゃないですか。お友達が増えましたよ?」
「そんなぁ……!」
いや、まあ、友達が増えるのはいいけどさぁ、これそういうのじゃないじゃん。
その後もどうにかして打開策を考えるがいいのが思い浮かばず、結局そのまま懐かれることになった。
どうしてこうなったし。
感想ありがとうございます。
長くなりましたが、今回で第九章は終了です。幕間を数話挟んだ後、第十章に入ります。