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第三百十九話:ボス戦の後で

 炎が噴き出した瞬間、ゴゴゴと地鳴りと共に巨大な花が盛り上がっていった。

 流石にこれで燃え尽きてはい終わり、とはいかないようだ。埋まっていた本体が見えてくると、その姿に少し驚く。

 花は結構巨大だったが、その下にあったのは人間の女性を模した上半身だった。

 一瞬なんでこんなところに人間が? とも思ったが、よく見てみるとそれは擬態なんだとわかる。なぜなら、下半身があるべき部分には巨大な球根が付いており、美しい女性の姿とは裏腹に巨大な口を開けているのだから。


「アルラウネ……」


 ギルドの資料室で見たことがある。

 普段は花や人に擬態し、獲物を待っている。そして、それらの見た目に騙されて近づいてきた獲物を下の球根についた口でばくりと食べるのだ。

 根を張っているため動くことはないが、張り巡らされた蔓は自在に動かすことが出来、鞭のようにしならせて攻撃してくることがある。その射程はかなり長く、植物系の魔物としては高めのDランクに指定されている。

 ただ、対処さえ知っていればそこまで苦戦するような相手ではない。射程が長いと言っても離れれば離れるほど動きは緩慢になるし、植物系の魔物は共通して大体火属性が弱点なので、長距離から攻撃できる魔術師がいれば不意打ちを受けなければ割と簡単に倒すことが出来る相手だ。

 今回のメンツはみんな魔術師。油断せずに蔓にさえ気を付けていれば余裕で勝てる。


「追撃行くよ、サリア」


「おう!」


 ごうごうと燃え盛る花に向かって私の炎の刃を発射する。少し遅れてサリアが風魔法で突風を起こし、その火を更に増大させることによって疑似的に威力を増した。

 アルラウネは蔓で花を押さえて必死に消そうとしているようだが、逆に蔓にも火がついてしまってもうどうしようもないって感じ。ただ、女性の身体の表情は驚くほどに無表情で正直怖い。

 あれは擬態としての身体だから表情がないのか、それとも本当に冷静に考える頭があるのか、どちらかはわからないけど警戒はした方がよさそうかな。


「あああぁぁぁああああ!」


 女性の悲鳴のような声を上げながら幾重もの蔓が襲い掛かってくる。

 何本かは火がついており、意外と危険な攻撃だ。幸いそこまで速くないので普通に避けられるが、下手すると周囲の木々に火が燃え移っちゃいそうだな。

 別にここは部屋として区切られているわけじゃないから燃え移ったら最悪ダンジョン全体が燃えることになってしまう。

 安易に火を使ったのは間違いだったかな。これじゃダンジョンにいる他の教師達が危なそうだし、早めに消した方がいいかも。


「エル、お願い」


「了解です」


 エルは一歩前に出ると、素早く腕を横に振るう。すると、その軌跡を描くように氷の柱が乱立していき、やがてアルラウネの身体を飲み込んだ。

 氷漬けになったアルラウネの本体。だが、まだ意識はあるらしく、氷結を逃れた蔓がぴくぴくと脈打っている。

 なんだか少し可哀そうになってきたな。せめて安らかに送ってあげよう。


「テトさん、とどめを」


「わかりました。ごめんね、アルラウネ」


 後ろで絵を描いて準備していたテトさんは筆を振るう。

 今回描いたのはどうやら大砲のようだ。横一列に整列したポップな画風の大砲はテトさんの合図とともにぽんっと音を立てて弾を飛ばしていく。

 もちろん、弾も絵なのだが、その威力は本物の大砲に引けを取らない。氷漬けになっていたアルラウネは避けることも叶わず、そのまま砕け散ってしまった。

 ぴくぴくと動いていた蔓も動きを止め、完全に息の根を止めたことがわかる。

 ダンジョンだからどうせその内復活するだろうけど、女性を模した姿だけあって少しだけ罪悪感を抱いた。


「さて、踏破の証を取るか」


「そうだね」


 念のため再度死亡確認を行い、優勝杯に近づいていく。

 周囲が氷漬けになっているので少々動きづらいが、まあ取るだけなら問題はない。

 ……まあ、普通には取らせてくれないみたいだけどね。


「やっぱりここできますか」


 突如、背後から飛んできた炎の槍を水の刃で相殺する。

 完全な不意打ちならともかく、奴らが隠れていることはすでにわかっていた。だから、先読みして相殺するなど朝飯前である。

 振り返ると、巨木の後ろからぞろぞろと三人のエルフが出てくる。そう、ローゼリア魔法学園のメンバーであるあの三人だ。

 先頭にいるのはフィルノルドさん。どうやら不意打ちがうまくいかなかったことがお気に召さなかったようで、舌打ちしながら不機嫌そうな顔をしている。


「ばれてたのか。そのまま食らってれば楽だったのによ」


「まあ、あなた達の考えそうなことですし」


 ここに来て三人が現れるのは別に不思議ではない。元々先行していたのだし、先に辿り着いていること自体は普通だ。だけど、あえて私達が来るまで待っていたということは、私達にアルラウネの相手をさせて横から踏破の証を奪っていこうと考えたからに違いない。

 この分だと、タイム測定係は買収されているかな? 一応、オルフェス側とローゼリア側で二人いるはずだけど、オルフェスの教師が全員いい人ってわけでもないし、なんなら成り代わられている可能性もある。教師も誘拐されていたしね。


「はっ、だがまあいい。どうせお前らは今魔力を相当使っていっぱいいっぱいだろうからな。今なら簡単にひねりつぶせる」


「はあ、別にそこまで消耗してないんですが」


「そうだといいなぁ? おい、やっちまえ!」


 この男は私達の戦いを見てなかったんだろうか。

 アッドさんとテトさんに関してはそもそも魔力を消費するものじゃないし、魔法を使った私達だって数える程度しか攻撃していない。

 そりゃ、中級を何十発も撃ったって言うなら魔力切れもあるかもしれないけど、エル以外はみんな初級だ。そこまで消耗するわけがない。少なくとも、私はまだ一割も魔力を使っていないんだけど。

 まあとりあえず、今は振りかかる火の粉を払うことにしよう。突進してくるアルマゴレムさんに対して水の剣を生成して応戦する。

 作ってから、流石に身体強化魔法の達人相手には力不足かとも思ったが、そう思ったのも束の間、割り込んできたエルがアルマゴレムさんを殴り飛ばした。


「ぐふぉあ!?」


 何の魔法も使っていない単純な拳による攻撃。ただそれだけのはずなのに、アルマゴレムさんの持つ杖は真っ二つにおられ、その上大柄な体を吹き飛ばし数メートル先にある木にめり込ませた。

 よく見れば、エルの手が一瞬竜化していたのがわかる。

 【人化】した状態のエルは本来の姿に比べてかなり弱体化しているが、それでも普通の人間と比べればかなり強い。それは筋力にも言えることで、エルの拳は巨大なハンマーで殴りつけたのと同等の威力を誇るだろう。

 それも今回は一部竜化したことによって威力を増している。どう考えてもオーバーキルだ。いや、死んではいないだろうけど、しばらくは立てないだろう。


「なっ!?」


「よそ見してる場合か?」


「ッ!?」


 アルマゴレムさんの背後で魔法を放つ準備をしていたミストレイスさんはわずかに動きを止めてしまった。その隙に、アッドさんの宝石魔法が炸裂する。

 模擬戦では見事に相殺して見せたミストレイスさんだったが、流石に不意を突かれてはそれも叶わない。とっさに背後に飛んだようだが、爆風までは避けきれず、大きく浮き上がってしまう。


「捕まえた」


 空中では攻撃を避けることは困難だ。しかも、巨木が乱立する中でもその陰に入り込んでしまったのが運のつき。サリアの放った拘束魔法によって空中で磔にされ、完全に動きを封じる。


「このっ……! ウォータースピア!」


「はい、通しません」


 動きを封じても魔法を使うことで反撃できるのが魔術師の厄介なところ。だが、相手は所詮ただの生徒。優秀とは言ってもその威力はたかが知れている。

 こうして結界で周囲を覆い、魔法を遮断してしまえば封殺したも同然だ。何度か攻撃を放っていたようだったが、その度に拘束を強くしていき、やがてがくりと首を垂れる。

 まあ、一対一でなければこれくらいは簡単だね。


「な、なんでまだそんなに魔法が使えるんだ! ボスと戦ったはずだろ!」


「だから見てなかったんですか? あれくらいならまだまだ余裕ですよ」


 元より第二試合で戦ったデビルアーチャーよりも弱い相手だったのだ。デビルアーチャー戦ですらサリアが少し消耗したくらいでそこまで弱っていなかったのに、それよりもランクが低く、しかも基本的に移動できない植物系が相手となれば余裕に決まっている。

 恐らく、こんな真似をせずに普通に戦っていれば彼らでも勝てたことだろう。

 試合に勝つだけだったらそれでも十分だっただろうに、私達の邪魔をしようと余計なことを考えるからこうなるのだ。


「くっ、悪運の強い奴め……だが、あの二人を倒したところでお前達に勝ち目はない。なぜなら……」


「そこにいるエンゲルベルト先生の事ですか? それならとっくに対策済みですよ」


「なっ!?」


 フィルノルドさんが振り返ると、そこには鉄砲を持った動物達の絵に包囲されたエンゲルベルトさんの姿があった。

 感想、誤字報告ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] スカッと爽快!俊速のザマァにありがとうございます♪(^◇^;)特にアッド先輩がなぶられたミストレイスに一矢むくいた流れはバッチリであります! [一言] 次回はドクズ先生エンゲルベルトの言い…
[一言] ファンシーな見た目の長靴○履いた猫やトム○ジェリーみたいに二足歩行した動物が銃を突きつけてる後景を思い浮かべた
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