第三百十七話:狙われたのは
あれからしばらく進み、そろそろ中盤といったあたりだろうか。
あれからちょいちょい邪魔が入っているが、いずれもお粗末なもので、魔物をぶつけられれば私やエルが葬り去り、言い合いを仕掛けてくればテトさんが打ち負かす。進路を邪魔する魔物もアッドさんやサリアが露払いをしてくれるので何の問題もなく、順調に進んでいた。
「いい加減邪魔が鬱陶しいな」
「少しはまともな教師もいるんじゃないかと期待してたけど、これは全員腐ってるわね」
交流会の様子を見る限り、純粋に交流しようとしていたエルフも少なからずいたが、教師達は総じてくずのようだ。
もはや巡回という名の妨害である。オルフェス側の教師を全然見当たらないあたり、計算しているんだろうな。
見かけたら絶対に報告してやるのに。まあ、今のところ多少足止めされるくらいでそこまでの脅威ではないから別にいいんだけどさ。
「カメラがあればいいんだけどね……」
「カメラ?」
「あ、いや、なんでもない」
テトさんが呟くのもよくわかる。
仮にここで彼らの妨害を報告したとしても、それを証明できる人はいない。むしろ、教師を見つける度に率先して魔法を放っていたなんて嘘の証言をされる可能性もある。
生徒と教師、どちらを信じるかは人に寄るだろうが、下手をすれば私達は卑怯者扱いされてしまう。
こんな時カメラがあれば、映像を記録しておけるので証拠となるだろう。
公平な試合を行うためにもぜひとも欲しいところだ。
「あれ? 奥に何か……」
「戦ってる?」
しばらく進んでいると、奥の方から戦闘音が聞こえてきた。
魔物に出くわした教師か、あるいは向こうのメンバーか、もし後者だとしたらようやく合流できたって感じだ。
いや、合流したら面倒だからしたくはないんだけど、あれだけ遅れていた割には追い付けたので少し安心している。
さて、何と戦ってるのかな?
「んー……?」
木の隙間から覗いてみると、そこには二人の生徒が魔物と戦っているシーンが見て取れた。
ただ、一人は座り込んでおり、立っているもう一人も額から汗を流してかなりつらそうな雰囲気。
どちらも女性っぽいから、多分アリスさんとセラフィクオリアさんだろう。でも、何で二人だけ?
とにかく、このままだとやられてしまいそうなので助けに入ることにする。私は即座に風の刃を生成すると、襲い来る魔物に向かって放った。
「おーい、大丈夫ですか?」
「あ、あなたは……」
近づいてみて、なぜ二人がピンチに陥っていたのかがわかった。
座り込んでいるのはアリスさん。なぜかそのローブは血が滲んでおり、明らかに怪我をしていることがわかる。セラフィクオリアさんも同じく怪我をしており、立っているのもやっとって感じだった。
私は即座に治癒魔法をかけ、傷を癒していく。幸いそこまで深くはなかったようで、すぐに落ち着きを取り戻してくれた。
「助かりました。ありがとうございます」
「いえいえ。でも、何があったんですか? どうして二人だけで」
「はい。実は……」
セラフィクオリアさんが話してくれた内容は驚くべきものだった。
まず、途中までは他のメンバーと一緒に順調に攻略を進めていたらしい。しかし、途中で後ろにいたフィルノルドさんがいきなりナイフで刺してきて、二人を置き去りにしていったのだとか。
どうやら、フィルノルドさんにとって二人は邪魔な存在だったらしい。この試合を利用して二人を始末し、ローゼリア森国での権力を盤石なものにしたいという理由があったようだ。
「アリス様は長の娘、私は長を守る騎士の一族として仕えてまいりました。ですが、長の意見に従わない者も多く、フィルノルドはその筆頭貴族の嫡子でもあります」
「なるほど、それで暗殺まがいの事を」
「どうやら他二人とも協力していたようです。それに、どうやら踏破の証がどこにあるかも知っているようでした」
「裏で情報をリークしたってことですか。ほんとにくずですね」
ダンジョン内のどこにあるかわからない踏破の証を探すのは簡単なことではない。テトさんの知識がなければ闇雲に探し回る羽目になっていたことだろう。だから、始めからその場所を知っているというのはかなりずるい行為に思える。
だが、まだそれは純粋に試合に勝つための手段であり、褒められたことではないがまだ許せる範囲でもある。しかし、権力争いのためにこの場を利用して仲間を殺そうとするのは許せなかった。
恐らく、致命傷を与えておけば後は勝手にダンジョンが処理してくれると思っていたんだろうけど、これは国同士の交流会。そんな場で人死が出れば混乱は間違いないし、どう考えても騒ぎは大きくなる。もはや対抗試合どころではなくなるだろう。そうなれば、対抗試合で完膚なきまでに勝つという目的すらも立ち消えてしまう。
どう考えても思い付きの行動にしか思えない。そしてそうなら、思い付きで平然と人殺しをするようなくずということになる。
とてもじゃないが、このままのさばらせておくのは危険な存在だった。
「教師達に救援は?」
「それが、通信の魔道具はフィルノルドが持っていたので……。一応、リーア様が知らせに行ってくださいましたが」
「リーアって……ああ、妖精の事ですね。でも、一応こちらでも連絡しておきましょうか。ちゃんと連絡できているかもわかりませんし」
「すいません、お願いします」
私は通信の魔道具で事の次第を簡単に説明し、迎えをよこしてもらう。
試合を優先するなら先を急ぎたいところだが、怪我はある程度治ったとはいえ流石に二人をこのまま残しておくのは危険なので迎えが来るまでは一緒にいることにした。
「ハク、ごめんなさい、私がふがいないばかりに……」
「気を落とさないでください。悪いのはアリスさんじゃありませんから」
「でも……」
「気になるなら、ちゃんと彼らを断罪できるように手を考えておいてくれませんか? 流石に私もこれは看過できませんので」
「……わかったわ。お父様に連絡してみる」
しおらしい態度を取るアリスさんを励ましつつ待つことしばし、ようやく教師達がやってきたので二人を引き渡した。
当然だが、教師達は皆オルフェスの教師である。流石に殺害を企てた国の教師に預ける気にはならないからね。
一応、油断を誘うためにも彼女らには一時的に隠れていてもらうことになるだろう。今事が露呈するとまた命を狙われる可能性もあるしね。
「さて、行きますか」
「ハク、あいつらは……」
「うん、絶対に許しておけないね」
もうだいぶ先に進んでしまっているだろうが、まだ追いつける可能性はある。
というか、別に追いつけなくても構わない。試合が終わってからでもなんでも、彼らには相応の報いを受けてもらう必要がある。
試合中に直接攻撃したら違反だって? 先に違反まがいの事をしたのは向こうだ。人がせっかく試合を楽しもうと努力しているのに邪魔をするのが悪い。
確かにアリスさん達とは交流は薄いけど、それでもそこそこわかり合えているとは思っている。言うなれば知り合いだ。知り合いを傷つけられたら、黙っていられないよね?
「あいつら終わったな」
「よりによってハクちゃんを敵に回すなんてね」
「それ、どういう意味です?」
アッドさんとテトさんが何やら言っているが、別に殺そうとしているわけではないからね? まあ、半殺しくらいにはするつもりだけど。
竜の力を使えばやりようなんていくらでもある。咆哮で威圧してやるだけでもトラウマを植え付けることが出来るだろう。同じようにナイフで刺しまくるのもいいかもしれない。
どんな形になるかはわからないが、三人の運命はすでに決まった。
私はどう料理してやろうかと思案しながら歩を進めていった。
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