第三百十五話:ダンジョン探索開始
翌日、私達は町から少し離れた場所にあるダンジョンの前へとやってきていた。
流石に警備が厳重な領主邸には忍び込めなかったのか、それとも単に人手不足だったのかはわからないが、昨夜は襲撃などはなく、平和な時間が過ぎていった。
体よく分断されてしまったわけだし、ここでアッドさんを狙ってくるかもと思っていたんだけど、全然そんなことなかったね。
それほどアッドさんは眼中にないってことなんだろうか。一応名門の出の優秀な魔術師なのにね。
「ではこれより第三試合、ダンジョンの探索を開始する!」
入口の前で学園長が高らかに宣言し、一緒に来ていた数少ない観客達がぱちぱちと拍手を送る。
第一、第二試合と比べると寂しいが、ダンジョンの中の様子が見れる手段はなく、一般人がダンジョンに入るのは禁止されているので入ったメンバーが出てくるまで入口で待っていることしかできない観客は必然的に少なくなる。
カメラとかあればまた違うんだろうけどね。残念ながらこの世界にはないようだけど。
「昨日、我ら教師陣の手によってダンジョン内に踏破の証を置いてきた! 君達にはそれを探し出してもらいたい。証を取るまでにかかった時間によって得点が付けられ、最終的な総合点によって勝敗が決定する。現在の得点は詳細は言えないが、オルフェス魔法学園側が多少リードしていると言っておこう。両者とも、悔いの残らないように全力で取り組むように」
本来なら生徒でも冒険者資格を持たない者は入ることが出来ないわけだけど、今回は国によって例外として許可が出されているらしい。
踏破の証がどういうものかについては見ればわかるとのこと。そこは教えておいて欲しいものだが、まあここはその言葉を信じるとしようか。
「ダンジョン内には見回りとして教師と護衛の冒険者が巡回している。何かトラブルが起きた場合や棄権したい場合は申し出るように」
ここへ来る途中にお姉ちゃんに聞いたが、お姉ちゃんも護衛としてダンジョンに入っていくらしい。
このダンジョンは王都のダンジョンと比べて難易度も低く、そこまで危険というわけでもないが、魔物は普通に存在するし、罠だってある。
そういうものへの対応力を見るという意味もあるらしい。もしこれを無事に踏破することが出来れば、冒険者としては一人前と言ってもいいだろう。
ダンジョンに関しては王都のダンジョンにしか潜ったことがないので少し楽しみだ。
「まずは得点不利となっているローゼリア魔法学園のメンバーから先に入る。オルフェス魔法学園のメンバーは十分後に入ることになる。両者とも準備はいいか?」
どうやら同時に入るわけではないらしい。最後まで逆転の目を潰さないための措置だろうけど、まあ十分くらいならすぐに取り返せるだろう。
まあ、正々堂々真面目に攻略するならの話だけどね。
「それでは第三試合、始め!」
学園長が声を張り上げて宣言すると、早速ローゼリアの生徒達がダンジョン内に入っていった。
ちなみに装備だが、相変わらずの魔法無効のローブと長い杖のセットだった。まあ、皆大きなカバンを持っていたからだいぶ準備はしていたようだけど。
対して、私達はそこまで大掛かりな装備は持っていない。
ダンジョン探索、というか冒険者として必要な装備……ランタンとかナイフとかね、そう言うのは一応人数分用意しているけど、魔道具に関してはロニールさんから買った防御魔道具をそれぞれ装備しているだけだ。
正直、踏破するだけだったらそこまで大掛かりな準備は必要ない。不要な戦闘は避ければいいし、罠に関しては探知魔法でどうとでもなる。もし仮に戦闘になったとしても、このメンバーなら大抵の敵は余裕だろう。
このダンジョンのランクはE。出てくる魔物もそのランクに準じたものが出てくることになる。まあ、もしかしたら奥地にはもう少し強いのがいるかもしれないけど、そこまで行けと言うわけでもない。
踏破とは言っているが、所詮は上層のみだと思われる。下層まで行くには時間がかかりすぎるし、そこまで行ってしまうと万が一の可能性が高まるからだ。だから、相手にする魔物はそこまで強いのはいないと思われる。
相手にするだけだったら第二試合で戦ったデビルアーチャーの方がよっぽど強いね。
「さあ、私達もいこうか」
「おおー!」
しばらくして十分が経ち、私達もダンジョンへと足を踏み入れることになった。
さて、どんな場所なんだろうね。
ダンジョン内は一言でいうと森の中といった様子だった。
最初の方は洞窟の入口と言った体だったが、進んでいくうちにどんどん広くなっていき、今や大樹海のただ中だ。
周囲には見上げてもなおてっぺんが見えないほどの巨大な木々が立ち並び、むせ返る様な森の匂いが辺りに漂っている。
森っぽいダンジョンとは聞いていたが、まさかこれほどとは。とてもじゃないけど、洞窟の入口のような場所の先にある空間とは思えない。
ただ、純粋な森だと言われたらそうでもないようで、疎らに並んでいると思われる木はどこか規則性があり、なんとなく道のようなものを作り出しているように思える。
あえて外れることはできるが、その先は大抵密集した木々によって塞がれていたりしていてとても進めそうにない場所ばかり。必然的に道のようなものに沿って進むしかないのだ。
この辺りはやはりダンジョンということか。
「森には何度か入ったことがあるけど、ここまでのは初めてかもしれない」
「ハクお嬢様、お足元に注意してくださいね」
「うん、ありがとう」
現在の陣形は、私とアッドさんが先頭、その後ろにサリアとテトさんが続き、殿にエルがついている形だ。
まあ、ここは広いから全員横並びに歩いても多分行けるけど、それをやると罠に引っ掛かる可能性が上がる。
ぱっと見ただの森だから忘れがちだが、落とし穴があったり、蔓によるワイヤートラップがあったりと結構多彩だ。
まあ、そこまでの頻度ではないから注意していればどうってことはないけど、無駄に引っ掛からないためにも出来る限り固まって歩くのは大事だ。
「にしても、あいつらの姿が見えないな。そんなに先に行ってるのか?」
「さあ、ここまでにも何度が分岐がありましたし、そこで分かれたのかも?」
場合によっては邪魔してくると思われる向こうのメンバーは未だに姿が見えない。それどころか、巡回しているはずの教師達の姿すら見えない。
まあ、確かにここかなり広いから滅多に出会わないのはわかるけど、こんなので本当に巡回が務まるんだろうかと心配になる。
生徒が魔物に襲われている時に危険そうなら排除するのが教師達の仕事だけど、こんなんじゃどう考えても間に合わないよね。
まあ、そのために緊急用として通信用の魔道具を持たされているわけだけど、正直役に立つとは思えない。
「ハクちゃんは絶対に仕掛けてくるって言ってましたけど、これなら向こうも私達の事を見つけられないんじゃないですか?」
「それはどうでしょうね、入り口からずっとついてきてる気配がありますし、私達の動きは把握されてるんじゃないでしょうか」
「え、つけられてるの?」
ダンジョンに入る時、それを見計らったかのようについてくる気配があった。向こうのメンバーの後にもついていったみたいだし、監視役の教師かなにかかなとも思っていたんだけど、まあ多分向こうが用意した監視兼連絡要員だろうね。
排除しようにも巡回の教師だと言い張られたら意味がないし、下手したら失格にされてしまうから下手に手が出せない。
「まあ、しばらくは様子見ですね」
このまま何も仕掛けてこないならよし、仕掛けてくるなら返り討ちにするだけだ。
警戒を怠らないようにしながら、ダンジョンの攻略も進めていく。何気に神経を使う作業だなと思った。
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