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第三百七話:背後にいる存在

 対抗試合のおまけに行われる交流会。おまけとはいえ、オルフェス側は生徒にとっては魔術師の聖地であるローゼリア森国との繋がりを得るいい機会だし、ローゼリア側も対抗試合につられてやってきた様々な国の人々と顔を繋ぐいい機会である。

 だから、表向きはどちらもとても仲がよさそうに話しているし、憧れのエルフを見る生徒達の目はいずれもキラキラと輝いている。

 しかし、内情を知ってしまうと一気にその印象は変わる。というか、一部のエルフは確かに話してはいるけど、多くのエルフは身内だけで話していてちっとも人間と関わろうとしていない。

 聞くところによると、ローゼリア森国は排他的なエルフの中でも他の種族と積極的に関わろうという変わり者のエルフ達が作った国であり、基本的にはどの国でも分け隔てなく交流し、多くの後ろ盾を得ている。もちろん、人間の国も例外ではなく、ここオルフェス王国もローゼリア森国を支持する国の一つだ。

 だから、ローゼリア魔法学園のあの態度は国全体でああというわけではなく、学園の一部の教師と生徒、そしてそれを支援するこちらでいうところの貴族のみがああなっているというだけということになる。

 まあ、元々他種族との関わりを持たずに暮らしてきたエルフ達だから、他の種族を受け入れがたいという思想はわからなくもないけど、だったらなんでそんな国に出てきたんだと言いたい。

 ローゼリア森国は最初はほんとに少数で国というよりは村という規模だったらしいし、建国に賛成しなかったエルフ達は今まで通り森などに住み着いているらしいからそんな思想のエルフが紛れる余地はないと思うんだけど。

 まあ、アリスさんのように話の分かるエルフもいるようだし、ローゼリア森国をどうこう言うつもりはない。だけど、学園は一度調べ直した方がいいと思う。


「ハクお嬢様、気分はどうですか?」


「だいぶ毒が抜けてきたかも。心配してくれてありがとうね」


「いえいえ、むしろとっさに盾になれず申し訳ありません」


「いや、あれは仕方ないでしょう。それに私が勝手に飛び出したんだし、盾になるのは違うと思うよ?」


 エルの役目は私を守ること。だから、本来ならあの時私が飛び出したタイミングで即座に私の前に飛び出し、守るべきだったという。

 でも、元々メンバーが危なくなったら私が守るつもりだったし、エルだって私が防御魔法を使えることは知っている。あの程度の矢なら普通は防いでいたはずだろうから、見逃すのは全然悪くない。

 そもそもの話、私のために盾になるっていう発想自体あんまり好きじゃないしね。お父さんからしたら私が最重要で守るべき存在かもしれないし、エルもそう思っているのかもしれないけど、私からしたらエルだって家族なのだ、盾になるのではなく、ちゃんと危険がない方法で守って欲しいな。


「次こそはこのような失態は犯しません。必ずお守りいたします」


「うん、まあ、ほどほどにね?」


 あんまり闘志を燃やしすぎて空回りしなきゃいいけど。

 エルの事は信頼しているし、エルならば大抵の事ではやられないだろうからいいけど、少し心配だ。


「それにしても、ほんとに大丈夫なんですか? 魔法が使えないって致命的だと思うんですけど……」


「解析はしたから外そうと思えばいつでも外せますけどね。ただ、壊さずに外すのが面倒なだけで」


 テトさんが心配そうに私の左腕を見る。

 魔力を吸収し、魔法を不発にさせる魔道具は未だに私の腕に装備されたままだ。まあ、解析自体はすでに済んでいて、後は外すだけなんだけど、少し面倒くさい。

 これ、【鑑定】をすると名前や製作者が出るんだけど、一応隠そうって気があるのか偽装されている。いや、偽装というか隠蔽か。名前も制作者も伏字になっていて見ることが出来ない。

 【鑑定】はレアスキルではあるけど、大商人や主要ギルドの鑑定人、あるいは宝石などの高額商品を扱う店の店主なんかはたまに持っていたりする。だから、隠蔽しないと製作者なんかから足がついて不正がばれてしまう。

 鑑定結果を隠蔽するためには【鑑定妨害】って言うスキルが必要らしいだけど、これはAランク冒険者とか宮廷魔術師みたいな割と強い人がたまに持っているスキルだ。つまり、少なくとも向こうにはそれに匹敵するほどの人がいるってことになる。

 呪いの件と言いい、まともな人間じゃないね。いや、人間じゃなくてエルフだけど。


「エルフってそんなに嫌な奴なのか? さっき少し話してきたが、そこまで悪い奴には見えなかったが」


「むしろもっと交易したいとか言ってたぞ」


「国自体は穏健派みたいだから、その人達は多分そっち側だね。生徒の大半と一部の貴族っぽい人はあれみたいだけど」


 アッドさんとサリアが言うように、そういう人達もいる。

 今回来ているエルフ達はほとんどが学園側、それに国側から交流したい人が付いてきてって感じだろう。

 積極的に話しているのはそういう人達だから人当たりもいいし、それを見てエルフはいい人だって思うのはわかるけど、ちょっとエルフだけで集まっているところに行ってみれば悪口ばっかり聞こえてくる。

 多分、ああいう人達は少数派だと信じたいけど、国側も早く何とかしてほしいものだ。


「あ、いたいた。ハクー」


「あ、お姉ちゃん」


 現在は学園に戻り、上級貴族用の談話室を使ってお茶会が開かれている。もちろんそこは貴族しか入れないので貴族以外の皆さんは大講義室でオルフェス魔法学園の歴史についての授業を受けたり、実際に校舎を案内してもらったりと色々しているが、私は特に興味ないので校庭の隅に座ってぼーっと空を眺めていた。

 一応、胸に矢を受けたということで一度医務室に運ばれはしたのだが、すでに傷は治っていたし、毒もそのうち治るので早々に抜け出して、屋台で買った果実ジュースをちびちび飲みながらのんびりしていた。

 ここは割と人気が少ないのでお気に入りの場所なんだけど、よくお姉ちゃんはここを見つけられたものだ。まあ、特に隠れたりはしていないから視線によっては簡単に見つかる場所ではあるけど。


「第二試合は負けちゃったみたいね。結構僅差だって聞いたよ?」


「その口ぶりだと、見てなかったの?」


「うん。ギルドの人達経由で事情を聞いたからね。調べて回ってたよ」


 どうやら冒険者ギルドの方からお姉ちゃんにも情報が行ったらしい。

 お姉ちゃんは私の友達のピンチということもあってすぐに動いてくれたようだった。

 多くの冒険者は私の雄姿が見たいばかりに観客席から動かなかったらしいのだが、お姉ちゃんが先陣を切るとそれに追随するように何人か動き始めたらしい。

 そりゃ、姉が妹の雄姿を見逃してまで動いているのに自分が動かないわけにはいかないよね。お姉ちゃんは冒険者の中では憧れの的だし、私もそれなりに交流している自負があるので動いてくれるのは嬉しかった。


「それで、どうだった?」


「ちょっとてこずったけど、中央部のとある屋敷に監禁されていたのを保護したよ」


「おお、よかった」


 お姉ちゃんによると、昨日の宴会から彼女らの足跡を調べ上げた結果、とある貴族に連れていかれるのを目撃されていたという。

 その貴族はエルフではなく人間、それもオルフェス王国に在住する下級貴族だったのだとか。

 そりゃまあ、いくらエルフ側が黒幕とは言ってもオルフェス王国で何かする以上は協力者がいてもおかしくはないか。

 で、その貴族の家に踏み入り、地下室に捕らわれていたアリーシャさんを含む生徒三人と教師二人が保護されたのだとか。

 貴族の家に冒険者が踏み入るのはかなり難しいけど、そこはスコールさんが強権を使ってごり押したらしい。上級貴族ならともかく、下級貴族程度だったらコネを使ってどうとでも出来るのだとか。地味に凄いね。


「教師まで攫われてたんだ」


「うん。今はギルドが保護しているから安心して」


「よかった……」


 テトさんが安堵の息を吐く。まあ、友達が攫われていたのだから当然だけど、それにしても教師まで攫うとはとんだ犯罪者だ。

 魔法学園に勤めている以上、教師はそれなりに魔法の扱いに長けている。そんな人を誘拐できるって相当な手練れじゃないと無理だぞ。

 やはり、向こうには宮廷魔術師レベルの何かがついている可能性が高い。気を引き締めないといけないね。


「これでひとまずは安心か」


 もちろん、これで終わったわけではない。まだ対抗試合は続いている。

 今日も恐らく何かしら仕掛けてくることだろう。それにどう対応していくかによって今後の対応も変わるかもしれない。

 私は果実ジュースを啜りながら次の手を考えていた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 浚われてた一が無事見つかって一安心
[一言] インターバルで語られる、テト先輩に絡んだ事件に巻き込まれた人々の保護と顚末。とりあえずひと安心(^ ^) しかしハクさんに縛りを入れないと敵側絶対不利なのは判るけど、いつまでも魔導具で理不尽…
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