第三百五話:度の超えた妨害
パソコン戻ってきました。今日より更新を再開します。
復帰記念ということで、今日は五話連続で投稿します。
しばらくして時間となり、ついに私達の出番となった。
一応、最後にどのように戦うかの最終チェックをした後、入場口へと向かう。時間ぴったりだったということもあり、すぐにフィールドへと通された。
入った瞬間、多くの歓声が響き渡る。闘技大会を経験しているだけあって私は歓声には多少慣れているが、テトさんやサリアは少し緊張しているようだ。
まあ、テトさんの場合は別の意味で緊張しているのかもしれないけど。
ざっと観客席を見回してみて、エルフが固まっている場所を見やってみる。
純粋に試合を楽しんでいる人もいるようだが、機嫌悪そうだったり、にやにやと下卑た笑みを浮かべていたり、まあいつもの感じってところだけど、一人だけ驚いたような顔で固まっている人がいるのを見つけた。
あの格好は……ローゼリア魔法学園の教師だね。ローブでよく見えにくいけど、その視線はテトさんにくぎ付けになっている。正確には、テトさんが持っている筆にかな。
テトさんが筆を使った変わった魔法を使うことは模擬戦ですでに明らかになっている。だから、筆を持っていたところでそこまで驚くようなことではないし、仮に模擬戦を見ていなかったのだとしてもあんなふうに信じられないといった表情で見ているのはおかしい。
となると、テトさんが筆を持っていたらおかしいって思っている人物ってことだ。変わった持ち物とはいえ、持ってるだけでおかしいと思えるのは、呪いをかけてものを持てなくさせた張本人か、それを指示した人間か、どちらにしろ黒ってことだ。
教師ってことは、あれがエンゲルベルトさんだったりするのかな? ちょっと注意しておくとしよう。魔力は覚えたから、範囲内なら探知魔法でいつでも追跡が可能だ。
「オルフェス魔法学園の生徒も準備完了のようです。さあ、彼らが相手にする魔物はこいつだ!」
実況によって会場のボルテージが上がっていく。
フィールドの対岸、檻に閉ざされた入口がゆっくりと開いていき、そこから今回の相手である魔物が姿を現した。
人型ではあるが、その身は全身が骨で構成されている。腰蓑のようなものを纏い、手には身長と同じくらいはあろうかという大弓を持ち、左目には赤い布を巻いている。
死神とも称されるCランクの魔物デビルアーチャー。調査通り、奴が今回の相手のようだ。
グレーターウルフとデビルアーチャーじゃデビルアーチャーの方が圧倒的に強いけど、デビルアーチャーの戦い方は相手の射程外から弓を射ることによる隠密戦法。だから、最初から姿を晒した状態で戦う今回のパターンでは単騎グレーターウルフと同程度とみなされたらしい。
まあ、武器が弓な以上、遠距離戦が得意ということになる。魔術師は近づかれたら圧倒的に不利なため、素早い身のこなしで近づかれる可能性のあるグレーターウルフよりランクが上でも戦う分には同じくらいか。
さて、デビルアーチャーが姿を晒した状態で戦う場面はあまり報告されていないけど、いかほどの実力なのか。見せてもらいたいね。
「両者出揃いました。これより、試合を始めます!」
デビルアーチャーが矢をつがえ、片方の目でこちらを見据えてくる。私達もそれに合わせてそれぞれの武器を構えた。
「それでは、始め!」
開始と同時にデビルアーチャーは矢を放ってくる。その狙いは早い上に正確で、先頭にいたアッドさんをまっすぐに捉えていた。
本来ならアッドさんが先行し、宝石魔法で牽制するつもりだったのだが、見事に出鼻をくじかれたことになる。
仕方ないので私が防御に回り、サリアが闇魔法で拘束することによって時間を稼ぐ案に変更だ。
「サリア、お願い」
「おう!」
エルは言わなくてもわかっているのか追撃のために一歩前に出て、テトさんは後詰めのためにせっせと絵を描いてもらっている。
サリアに指示を出した後、アッドさんの前に出て防御魔法で矢を防ごうとした。
……しかし。
「えっ」
とすっ、という軽い音と共に私の胸に矢が突き刺さる。矢の勢いはかなり強く、そのまま体を持っていかれて後ろに吹っ飛ばされた。
「なっ!?」
「ハクお嬢様!?」
エルが即座に後ろに回り、受け止めてくれたためそこまでダメージはなかったが、私の胸には確かに矢が突き刺さっていた。
竜の力のおかげもあって、私はちょっとやそっと傷をつけられたくらいではあまり痛みを感じない。だから、そこまで痛くはないのだが、なぜ矢が突き刺さっているのか理解できなかった。
私は確かに防御魔法を張ったはずだ。私の魔法はコンマ一秒もあれば発動できる。余裕をもって助けに入ったし、発動が間に合わなかったなんてことはない。
なのに、防御魔法を発動しようとした瞬間、その発動に使用されるはずの魔力がどこかに消え失せた。結果、魔法が発動せず、そのまま食らう羽目になったというわけだ。
「なぜ……」
自慢ではないが、私は魔法の発動に関してはかなり自信がある。端から見れば記憶頼りの不安定な魔法ではあるが、私の記憶力はかなり高い。当然、魔法陣を間違えるわけもないし、意図的に失敗させようとでもしない限り最低限の魔法は発動させることが出来る。
でも、失敗した。なぜかはわからないが、魔法が発動しなかった。
私にとって、魔法が使えないというのはかなり致命的だ。私の力の大半は魔法によるものだし。
何者かに妨害された? こんな衆人観衆の中でどうやって……。
「ハクお嬢様、大丈夫ですか?」
「う、うん、大丈夫。でも、ちょっと気分が悪いかも……」
「……ちょっと失礼」
エルは刺さっている矢を掴むとまっすぐに引き抜く。
矢には返しがついているので普通は即座に抜いたら傷が広がって大変なことになるけど、私ならちょっと痛い程度で済む。治癒魔法もかけたし、しばらくすれば治ることだろう。
しかし、流石に心臓が近い胸を刺されただけあってか少し気分が悪い。なんとなく、体が重く感じる。魔法が使えないだけでもあれなのに、気分まで悪くなるとは最悪だ。
「……この矢、どうやら毒が塗ってあるようです」
「え、毒?」
毒と聞いて、私は思わず顔を上げた。
毒が塗ってあった、ということはつまり、この気分が悪いのは体に毒が回っているということか。
人間が食らったらじわじわと毒に侵されて死ぬかもしれないけど、私の身体は人間ではない。竜でも精霊でも毒を浄化する能力を持っているから、その両方の力を持っている私は毒で死ぬことはない。せいぜいが少し気分が悪くなる程度だ。
だが、そもそもここに毒矢があるのはおかしい。なぜなら、毒矢は当たれば死の危険があるからだ。
そりゃ、普通の矢だったとしても当たり所が悪ければ死ぬかもしれないけど、毒矢の場合はどこに当たろうが死ぬ可能性がある。
野生のデビルアーチャーが矢に毒を塗るなんて思考を持っているわけないし、あったとしても対抗試合で使うのだから当然矢は普通のものに取り換えられているはずだろう。
つまり、これは悪意を持って差し替えられたということになる。
「ここまでするか……」
テトさんに掛けられた呪い。あれも酷いものだったけど、あれはまだ死ぬようなことではない。試合前だったし、最悪棄権すれば命に別状はなかっただろう。
だけど、毒矢にすり替えるなんてどう考えても死人が出る。いや、もしかしたら軽く痺れる程度の軽い毒なのかもしれないけど、それにしたってそんなもの食らったら戦闘どころではなくなり、いい的になってしまうことだろう。
私の魔法が使えなくなったことといい、妨害が酷すぎる。
そうまでして勝ちたいのか。こんなことをして勝って何の意味があるのだろうか。
生徒達が創意工夫の結果間違った道に進み、妨害という選択を選んだというならまだわからなくもない。やり方は間違っているけど、何としても勝ちたいという純粋な気持ちからくるものであり、まだ更生する余地もある。
だけど、これは教師側がやっていることだ。生徒はそのことを知らされておらず、妨害によってお膳立てされて勝つのが当たり前になっているだけの被害者である。教師が妨害するのは、学園の地位を上げたいから、あるいは単純に人間を貶めたいからという欲望でしかない。
それだけのことをオルフェス王国はしたというのだろうか。だとしても、何の罪もない生徒を巻き込んでやっていいことではない。
「これは、ちょっとお灸をすえてやらないとだね」
アリスさんによればメンバーの中でもルールを破るのが当たり前な思考を持つ者がいるらしいけど、彼らも学園側によってそういう風に調教されたある意味被害者だ。断罪するとしたら、教師側だろう。
どこまでの教師が関与しているのかはわからないが、私はもう怒ったよ。
毒のせいか、ガンガンと痛む頭を押さえながら立ち上がる。
まずはこの場を何とかしなくてはならない。他のみんなが毒を食らったりしたら大変だ。
私は気合を入れ直し、戦場へと足を踏み入れた。
感想、誤字報告ありがとうございます。
お待たせして申し訳ありませんでした。待っていた方はありがとうございます。




