第三百四話:先攻ローゼリアチーム
一周年です。ありがとうございます。
私達はすぐにフィールドへと足を踏み入れた。
入った瞬間、多くの観客の歓声が聞こえてくる。闘技大会の時も同じくらいの熱気があったけど、この対抗試合はよほど楽しみにされているらしい。
毎回ストレート負けしてるらしいけど、それでも楽しいんだろうか? いや、単純に戦う場面が見たいってことかもしれない。
普通に日常を過ごしているだけでは手に入らない興奮だもんね。
「これより第二試合、チーム戦による魔物の討伐を開始する!」
フィールドにはすでにローゼリア陣営側は揃っていた。でも、昨日と比べたらその印象もだいぶ変わる。
まず、アリスさんが睨みつけてこなくなったし、アルマゴレムさんはテトさんに少し怯えているし、フィルノルドさんはエルの事を親の仇かと言わんばかりの目で睨んでいる。
変わらないのはミストレイスさんとセラフィクオリアさんくらいだ。まあ、どちらもそんなに喋る人ではないようだからそのせいかもしれないけど。
「まずは代表者二名、この箱の札を取ってくれ。それによって先攻と後攻を決める」
挨拶をした後、学園長が他の教師に合図をして箱を持ってこさせる。そこには二つの棒が突き刺さっていて、どうやらこれに先攻か後攻かが書かれているようだ。
向こうの代表はアリスさん、こちらの代表は私らしい。まあ、リーダーって言われちゃったもんね、仕方ない。
しかし、見たところアリスさんは例のブレスレットを付けていないようだけど、いいのかな? まあ、最悪試合が始まる時に着けていればいいだろうからいいんだろうけど、忘れなきゃいいけどなぁ。
「アリスさん、そちらからどうぞ」
「いいんですの? ではこちらで」
「じゃあ私はこっちで」
お互いに棒を握り、同時に引き抜く。取り付けられている札に書かれている文字は、『後攻』だった。
「うむ。先攻はローゼリア魔法学園のチーム。後攻はオルフェス学園のチームとなった。先攻のチームは十分後、入場口に集まるように」
後攻か。まあ、向こうの戦いをじっくり見られるから悪くはないかな。
どれくらいかかるかはわからないけど、長引くようならお昼も買っておかないとね。
「お互いに悔いのない試合を期待する」
最後にそう締めくくると、開会式は終わった。
私達は一度控室に戻り、軽く打ち合わせをした後観客席の方へと移動する。
別に相手の試合を見ることは禁止されていない。そもそも、相手の動きをただ真似るだけではタイムで勝てないし、同じ魔物が出てくるとも限らないから見ても参考にならないだろうしね。
席に関しては選抜メンバー専用に確保されているから問題ない。しかも、結構いい席だ。いいね。
いい感じに出店もやっていたので、朝食の代わりに少し買ってきて、席について待機する。
さて、相手はどんな魔物が出てくるのかな?
十分後、フィールドに結界が張られ、向こうのメンバー達が入場してくる。
なんか、フィルノルドさんは少し足を引きずっているように見えるけど、まだ完治してないんだろうか。そんなんでよくやろうと思ったね。
まあ、大丈夫だと言わなければここには来てないだろうし、多分問題ないんだろう。最悪、魔法は動かなくても撃てるしね。
「さあ、ローゼリアの生徒達が入場しました! いよいよ魔物の入場です!」
実況の人が風魔法で音を拡散させながら会場中に声を届ける。
反対側の入場門、檻に閉ざされたその先からは怪しげな赤い光が覗いている。
やがて檻が開かれると、そいつはゆっくりとした足取りでフィールドへと入ってきた。
灰色の毛並みをした体長2メートルはあろうかという巨大な体。獰猛な牙と爪を持ち、高い統率能力で森を駆ける森の獣。赤い瞳を生徒達に向けながら、グルルと威嚇するように鳴いていた。
グレーターウルフ。調査の時点で少し上がってきていたフォレストウルフの上位種だ。
フォレストウルフ自体はFランクの魔物だが、その上位種は力もスピードもすべてにおいて上回っている。それでいて高い統率能力を持ち、グレーターウルフが率いるフォレストウルフは通常の何倍も厄介だ。
今回は群れはおらず、グレーターウルフ単体で戦うようだけど、単体でもそこそこ強い。ランク的に言えばCだろうか。
あの時はすぐにその線は外していたんだけど、まさかグレーターウルフが来るとは。いや、こいつが必ずしもカラバの近くに現れた奴とは限らないかな?
もしかしたらもっと前に捕まえられていて、たまたま被っていただけかもしれない。
それはさておき、グレーターウルフの方はやはりテイムされているようで、すぐには飛び掛かってこなかった。合図を待っているのだろう、すぐにでも飛び掛かれる体勢を維持している。
「両者で揃ったところで、先攻ローゼリア魔法学園の試合を始めます。準備はよろしいか?」
最後に生徒側に問いかけると、生徒達は皆頷く。それを見た審判は、大きく声を張り上げた。
「それでは、始め!」
試合の火蓋が切られる。先に動いたのはグレーターウルフの方だった。
素早い身のこなしでフィールドを駆け抜け、先頭にいたアリスさんを狙っている。
しかし、その程度で慌てるような人達ではない。フィルノルドさん以外は即座に散開し、アルマゴレムさんがアリスさんを守るように前に出ると、身体強化魔法をかけて杖で殴り掛かっていった。
進路を妨害されたグレーターウルフはジャンプしてそれをかわし、背後から噛みつこうと大口を開ける。
その口に向かって、セラフィクオリアさんが放った光弾が迫り、見事に命中させた。口を閉じざるを得なくなったグレーターウルフはきゃいんと悲鳴を上げて後退る。しかし、そこにはいつの間にか水溜まりが出来ていた。
「ぎゃぅっ!?」
グレーターウルフがそれを踏んだ瞬間、水が意思を持ったように動き出し、グレーターウルフの身体に纏わりつく。それは網のような目に見えるものではなく、傍目にはただ身体を濡らしただけのように思えたが、頭を振って何かを振り払おうとしているグレーターウルフの姿を見れば、それが拘束系の魔法であることは一目瞭然だった。
「はっ!」
待っていたと言わんばかりに杖を振り上げたアリスさんは力のままにそれを振り下ろす。すると、それに呼応して空から一筋に雷が降り注いだ。
囚われたグレーターウルフにそれを避けるすべはなく、直撃を受ける。しかも、濡れた体には電気はよく通ったのか、体表の大半が焦げ付いていた。
よろよろと立ち上がるグレーターウルフ。もう瀕死と言ったところだろうか、流石に手際がいい。
「これで止めだな!」
そんな状態のグレーターウルフに対して、フィルノルドさんが最後に炎の槍をぶつけてやると、グレーターウルフは声もなくその場に倒れ伏すことになった。
「そこまで! タイムは15分40秒!」
審判が合図を出した瞬間、集計係が即座にタイムが描かれた幕を下ろした。
15分というのはかなり早い部類に入るだろう。こちらは冒険者ではなくただの生徒であり、本来ならCランクでも手に余る相手だ。
だけど、それをたったの15分で倒すことが出来る。これは冒険者でも十分やっていけるということであり、最低限身を立てることが出来るということでもある。
仲が悪そうだと思っていたけど、意外にしっかり連携していてびっくりした。
群れとして出会った時が一番面倒とはいえ、単体でもかなり厄介な相手。流石、選抜メンバーだけはあるか。
本当に、真面目にやっても強いのに何で不正しようとするのかこれがわからない。拮抗したとしても技術的には勝っているのだから、それを誇ればいいのにね。
「次の試合は三十分後になります。後攻のチームは三十分後に入場口に集まるように」
試合の後片付けもあるため、少し時間が空く。さて、そろそろ私達の出番だ、緊張するね。
向こうでグレーターウルフが出たということはこちらは恐らくデビルアーチャーだろう。一応対策は立てているが、どこまで通用するかね。
しかも、勝つためには15分を切らないといけないというのがまた難しいところだ。最悪私かエルがぶっぱすればいいけど、出来れば連携して勝ちたいよね。
私は次の出番を楽しみにしつつ、残った食べ物を口に放り込んだ。
感想ありがとうございます。