第三百話:警戒行動
本編でも300話を達成しました。ありがとうございます。
宴会もそろそろ終わりという時間になって、教師の方から明日は予定通り闘技場にて魔物討伐を行うというお知らせがあった。
選手の怪我の度合いによっては明日は休養日として予定がずらされるはずだったのだが、どうやら向こうも無事に回復したらしい。
割と手加減してたっぽいアルマゴレムさんはともかく、フィルノルドさんは結構な重傷だったと思うんだけど、よく治ったね。
どんな魔物が出るかは当日までのお楽しみ。今回は闘技場を貸し切っているので入場料とかもなく、誰でも気軽に見れるようになっているから今日以上に多くの観客が訪れることが予想された。
事前に掴んだ情報では、恐らくデビルアーチャーが出ることはほぼ確実だろう。学園が依頼主の捕獲依頼であったし、時期的に見ても恐らく対抗試合で使うために捕まえたと思われる。
ただ、オルフェス側とローゼリア側のどちらかがデビルアーチャーが相手だとして、もう一体の詳細は結局よくわからなかった。
一応、魔道具を手に入れた後に調べに行ってたんだけどね。それっぽいものは見つからなかった。途中から結構流れ作業的に見てたからもしかしたら見逃してしまったのかもしれないけど。
なので、とりあえずデビルアーチャーが相手だとして対策は立てておいた。だから、一応出来ればデビルアーチャーと当たって欲しいなと思う。
まあ、デビルアーチャーは本来はCランクの危険な魔物だからランクだけで言うならもう一体の方が楽かもしれないけどね。知らない相手より知っている相手の方が楽だとは思うけど、正直どっちでもいい気はする。いざとなればエルあたりが瞬殺しそうだし。
もちろん、対抗試合を楽しみに来ている人もいるだろうから瞬殺してしまうのは興ざめだろうから加減はするように言うつもりだけどね。
「ハク、明日が楽しみだな!」
「うん、そうだね」
すでにお腹はいっぱいだし、宴会自体もそろそろ終わるということで私はサリアとエルと一緒に寮へと帰っていた。
予定では、明日の朝からやることになっている。多分お昼を過ぎてしまうと思うから、後攻になったら先に食べておくことも考えた方がいいかもしれない。
楽しみか楽しみでないかと言われればもちろん楽しみだが、素直に楽しめるかと言われたらちょっと微妙ではある。
なにせ、アリスさんから堂々と不正しますよと忠告されたのだから。いや、アリスさん自身は不正はしないだろうけど、周りがね。しかも、教師まで加担しているという地獄。
普段はストレート勝ちしているのに初戦の模擬戦で負けている以上、何かしらアクションを起こしてくるのは確実だろう。
予想されるのは窃盗。アッドさんだったら宝石を盗まれたら大きく戦力ダウンするし、テトさんなんて筆を盗まれてしまったらそれこそ何もできなくなってしまう。
いや、テトさんは一応簡単な魔法なら使えないことはないらしいけど、相当な戦力ダウンになることは確実だ。
だから、今夜は十分に警戒するようにと忠告した上で、念のため盗まれそうなものは私が【ストレージ】で預かることになった。【ストレージ】は本人しか開けないから、これで盗まれる心配はない。
後は物理的に怪我を負わせてくるパターンもあるかもしれないから、アッドさんとテトさんには私が寝ても解けないように固定した防御魔法をかけてある。これなら、仮に不意打ちされたとしても致命傷にはならないだろう。
なんでこんなことに警戒しなきゃいけないんだとも思うが、止められないのなら仕方ない。対策が取れるだけましというものだ。
「ハクお嬢様、私が番をしておりますのでどうぞゆっくりお休みください」
「うん。でも、ほんとにいいの?」
「はい。一日や二日程度寝なくても問題はありません」
夜の襲撃の可能性を話したら、エルは寝ずの番をすると立候補してくれた。
元々竜はある程度眠らなくても問題なく活動できるらしい。【人化】すると人間に近くなってちゃんと寝たりしないと体力が回復しないけれど、それでも普通の人よりは何倍もスタミナがあるし、一部を竜化させて竜の力を活性化してやれば一日や二日程度寝なくても全然問題ないのだとか。
エルが寝なくても活動できることは以前竜の谷に行った時に既に体験しているし、大丈夫だとは思うけど、あまりに寝なさすぎると体調を崩すことも知っている。
そこまで消耗しているわけでもないし、そこまで長い時間じゃないから大丈夫だとは思っているけど、やっぱり少し心配だよね。
「何かあったらすぐ起こしてね」
「わかりました。しかし、せっかくお休みのところを起こしてしまうのは少し抵抗がありますね」
「いや、気にしなくていいから。たとえエル一人で対処できる問題だったとしても絶対に起こすこと。いいね?」
「は、はい」
エルならば本当に大丈夫だろうけど、襲われる可能性があるのは私達だけではない。対策を施したとはいえ、アッドさんもテトさんも武器を私に預けてしまっているから対抗手段がない。つまり、何かあったら助けに行かなくてはならないのだ。
寝ている時もなんとなく気配はわかるけど、流石に男子寮のアッドさんの気配まで感じ取るのは難しいし、適度に起きて探知魔法を使う必要がある。だから、むしろ起こしてもらった方が都合がいいのだ。
碌に寝ることが出来ないことになるけど……まあ、私も一応竜の端くれだし、寝ないことには慣れているはずだ。エルと同じく、一部を竜化すれば多分行けるだろう。
「サリア、起こしちゃったらごめんね?」
「それはいいけど、それなら僕も起きてようか?」
「ううん、サリアは病み上がりだし、ゆっくり休んでほしいから。もちろん、危なくなったら起こすけど、そうじゃなかったらゆっくり寝ていて欲しいな」
「ハクがそう言うならわかったぞ」
今回、一番危険なのは武器がないアッドさんとテトさんだ。これなら預かることなどしない方がいいのではないかとも思うが、その場合騒ぎが起きずにいつの間にか盗まれているという展開になる可能性がある。
あのエンゲルベルトという教師がどれだけの手練れか知らないが、もし私達にも気づかせずに盗み出せる実力を持っているなら襲われる可能性を考えても預かっておくほうが無難だ。
盗みなら最悪管理能力不足として私達が悪いことにされるかもしれないけど、襲われたなら犯人がいるわけだから騒ぎにできるからね。運が良ければ向こうの教師を捕まえられるかもしれないし、そっちの方が楽だ。
「もし来たら、殺しますか?」
「いや、流石に殺しちゃだめだよ。捕まえて突き出さないと」
方向性としては、出来れば向こうの悪事を暴きたいところ。
アリスさんの話だとずいぶん前から不正に手を染めていたようだし、ここでその悪事を表に出して断罪させるのがいいと思う。
ただ、仮に捕まえられたとしても証言するかはわからないし、最悪その場で命を絶たれるかもしれないと思うとちょっと面倒くさい。
相手の本気度によっては素人の窃盗ではなく暗殺者を使った本格的な潜入かもしれないのだ。その可能性も十分ある。
出来ることなら、捕まえた上で死なないように拘束したいね。
「では、半殺し程度に抑えておきます」
「うん、お願いね」
エルの半殺しはどうかと思うが、まあ死なないなら安いだろう。
そいつらを突き出すことによって明日の予定が狂うことになるのが心配だが、まあ、それは仕方がないと割り切るしかない。
中止には、ならないで欲しいな。
「……それじゃ、寝ようか」
念のため扉や窓の戸締りを確認した後、私達は眠りにつく。
警戒しているせいもあって最初はなかなか眠れなかったけど、エルがいてくれると考えたらそこまでのプレッシャーはなく、ほどなくして眠りにつくことが出来た。
感想ありがとうございます。