第二百九十八話:交流会
対抗試合、と銘打ってはいるが、その実情は他校の生徒を交えた交流会だ。
もちろん目玉としては先にやったように選抜メンバーによる対抗試合だが、それ以外にも様々なレクリエーションが行われる。
別に向こう側の生徒は選抜メンバーの五人だけではないからね。そりゃ全員じゃないだろうけど、一クラス単位で来ていると思われる。
模擬戦も終わって後処理も終わり、次第に夜の帳が降り始めた頃。綺麗に整えられた校庭では軽く宴会が開かれていた。
ここでは生徒はもちろん、先生や一部の観客も交えて食事が振舞われ、それぞれ話に花を咲かせている。当然、話題は先の模擬戦についてが多く、特に時間がかかってしまった私とアリストクロスさんの試合については多くの人々が話題にしていた。
「いやはや、今年のオルフェスの生徒は中々粒揃いですな。特にハクと言ったか、彼女の腕前は素晴らしい」
「あれでまだ二年生というから恐ろしいです。というか、今回の選抜メンバーは半数以上が二年生らしいですよ」
「なんと、二年であの実力とは、ますます将来が楽しみですな。卒業後はぜひとも我が家の専属魔術師として雇いたいものだ」
「ハクもいいですが、他の生徒もかなりの有望かと。例えばエルという生徒は氷魔法の使い手にしてエルフを相手にまるで赤子の手を捻るようにねじ伏せたあの実力。恐らくあれはハクの魔法を凌駕するかと」
「確かに。流石はあのサリアのお目付け役だけはある」
「そのサリア自身もなかなかのタフネスを持っていますよ。魔術師の戦い方かと言われれば少し違いますが」
「本来は例の呪いがメインなわけですからな。それを抜いてなおあの実力となれば、使いようによっては中々役に立つかもしれませんな」
王都の人達は概ね私とエルのことを評価していた。もちろん、アッドさんやテトさんも評価されていたけど、サリアだけはやはり以前の印象が強いのか健闘したにもかかわらずあまり評価されていないのが悲しい。
だけど、全く評価されていないというわけでもない。一応、サリアはすでに誘拐していた人々をすべて解放したし、それからのサリアを見て印象が変わったという人も少なからずいた。
本当に徐々にではあるが、サリアのイメージは払拭されつつある。この調子で後ろ指をさされないまでにイメージが回復してくれたら幸いだね。
「それにしても、神杖テュールノヴァと言ったか。あれは本当に神具なのかね?」
「間違いないでしょう。神具はいずれも他の武器とは違うオーラのようなものがあります。貴殿も感じたでしょう、あの異質なオーラを」
「まあな。あれは使い手を選ぶような伝説級の武器と言っていいだろう。そんなものをここで拝めるとは思っていなかったがね」
「いつも持ち歩いているかは知りませんが、普段の対抗試合では毎回ローゼリア側が圧勝していましたし、お披露目する機会がなかったのかもしれません。あれを引き出してくれたハクには感謝ですね」
「ああ。だが、神具と言ってもそこまで大したものでもなさそうなのが残念だ。優秀とはいえ、生徒に止められてしまうような武器を神具と呼んでいいものか」
「確かに。見た目には確かに派手でしたが、いまいち迫力はありませんでしたね」
テュールノヴァについて話題に出す人も多くいた。流石、神具だけはある、その話題性はぴか一だ。
ただ、私のせいで神具があまり評価されていないのはちょっと複雑ではある。
確かに、私はテュールノヴァと真っ向から対峙して拮抗していたけど、それは決してテュールノヴァが弱いからではない。
私だって、いつも加減しているような魔法では歯が立たなかっただろうから少し本気を出したのだ。それがちょうど拮抗した力になってしまっただけで、テュールノヴァは十分強い武器と言える。
というか普通に欲しい。私も王様から貰った杖を持っているし、あれもなかなか魔力伝導率は高いけど、流石にオリハルコンには負けるだろう。
アダマンタイトが取れるダンジョンがあったのだから、オリハルコンが取れるダンジョンがあってもおかしくはない。もし見つけたら、専用の杖とか作ってみたいね。使うかはわかんないけど。
珍しいものを欲しがるのは癖というかなんというか、コレクション欲というのかな? 使わないけど、持っておきたい。そんな心情。
前世でもゲームではエリクサーみたいな貴重なアイテムは持っておきたいって思ってたけど絶対使わなかったからね。何らかの手段でまた入手できるなら使うかもしれないけど、基本的には観賞用だった。それと似た感覚なのかもしれない。
「此度の生徒は少々生ぬるいのではないか?」
「うむ、フィルノルドはいい線行っていたが、他が総じて甘すぎる」
「テュールノヴァまで持ち出して勝てぬとは、国長の娘というだけで使えぬ奴だ」
「少し焚きつけてやった方がいいのでは? 報酬でもちらつかせてやればもっとやる気も出すであろう」
「そうだな。教師側に掛け合ってみよう」
対して、エルフ側の会話は何とも不穏なものが多かった。
多くの人がフィルノルドさんのことを評価し、アリストクロスさんの事を酷評している。
これは大事な大将戦で負けたからというのもあるんだろうけど、フィルノルドさんを評価している辺り、勝つというより相手を再起不能にしてやりたいという気持ちが透けて見える。
ローゼリア森国はこちらに何か恨みでもあるんだろうか。そりゃ確かに違法奴隷の中にはエルフも混じっているけれど、オルフェス王国としては犯罪奴隷などの一部の奴隷を除いて他種族を貶めるのは禁止しているし、アリステリアさんが学園で働いているようにエルフの地位が低いというわけでもない。
こういう、他種族国家というのは割と珍しいらしく、オルフェス王国はその筆頭だ。だから、他種族の国から感謝されることはあっても貶められるいわれはないはずである。
まあ、細かい事情はわからないからもしかしたら腹に据えかねる事情があるのかもしれないけどね。
「ハク、ここにいたんですのね」
色んな会話を盗み聞きながら会場をぶらぶらしていると、アリストクロスさんに話しかけられた。
この宴会、名目上は選抜メンバーが主役なんだけど、模擬戦で動けなくなる人も多いので実質主役の半数は不参加で始まることが多いらしい。
今回は私の他にはほぼ無傷で勝利したテトさんとエル、それに何とか回復してきたサリアが出てきている。アッドさんはまだちょっと疲れが残っているらしくて寝ていたいらしい。まあ、仕方ない。
対して、向こう側はアリストクロスさん以外だとミストレイスさんとセラフィクオリアさんしかいない。アルマゴレムさんはまだ寝ているし、フィルノルドさんは痛みでまだ立てないらしい。まあ、フィルノルドさんに関しては自業自得だから同情はしないけどね。
「あんな大怪我していたのにもう治ったんですのね」
「まあ、傷自体はそこまで深くありませんでしたから。治癒魔法で事足りますよ」
「とてもそうは見えなかったですけど……」
今現在、この場にいるのはアリストクロスさんの他には姿を消したアリアだけだ。
テトさんは最初こそつきっきりで看病しようとしていたようだが、私が思いの外早く回復したのを見てすっかり安心したのか、今はアッドさんに料理を持って行っている。
エルは模擬戦での活躍が結構受けたらしく、多くの生徒やお客さんに囲まれて対処中だ。まあ、目の届く距離だからいざとなればすぐに私の下に駆け付けられる場所ではあるけど。
サリアはたくさん動いてお腹が減ったらしく、料理を取りに行っている。一緒に食べようと誘われているのですぐに戻ってくるとは思うけどね。
また、シルヴィアさんを始めとした学園の生徒勢はなんか一塊になって語り合っている。楽しそうだったけど、盛り上がっているみたいだから邪魔しないでおいた。
私に会いに来てくれたのはお姉ちゃんとアリシア、それにサクさんくらいなものだ。
まあ、まだ対抗試合は始まったばかりだし、全部終わってからお疲れ様会でもやろうと言われているのでその時にでも語らえばいいかと思ってるが。
「あなた、妖精と契約していると言っていましたわよね。もしかしてその肩にいるのが?」
「あ、見えるんでしたね。はい、そうですよ」
「なんというか、凄く神々しいですわね……」
「神々しい?」
まあ、アリアは可愛いと思うけど、神々しいって言うのはちょっとわからない。
確かにいつの間にか羽根が六枚になっていたからそれが天使っぽく見えたってことかな? 六翼の天使って言ったら多分高位の天使だろうし、神々しいって言えなくもないかもしれない。
『妖精、なんだよね? 確かに姿は妖精なんだけど、六翼の妖精なんていたかなぁ』
『アリアだよ。ちょっと色々あって、今は精霊になっているんだけどね』
『へぇ、精霊なんだ。喋る精霊なんて珍しいね。あ、私はリーア。よろしくね』
『こちらこそ』
妖精組も姿も声も聞こえないが多分挨拶しているんじゃないかな。
【念話】の相手をもっと広げれば聞こえるんだろうけど、そうしないってことは秘密の会話でもしてるんだろうか。
まあ、妖精同士何か通じることがあるかもしれないし、別にとやかく言うつもりはない。できれば相手の妖精とも話してみたいけどね。
「その方が精霊達のまとめ役ですの?」
「いえ、契約しているのはアリア、この妖精だけで、他の精霊達は特に契約とかはしてませんよ」
「ということは、完全に善意で加護を落としているんですのね……なんでそんなに好かれているんですの?」
「さあ、なんででしょう?」
まあ、精霊に好かれているお母さんが精霊の女王だからなんだろうけど、それは言えないので適当にはぐらかす。
というか、精霊が見えるって結構大変そうなイメージがある。精霊は総じて悪戯好きだから、相手が自分の事を見えるとわかったらめっちゃちょっかい掛けてきそうじゃない? アリアが言うには、私もしょっちゅうちょっかい掛けられているみたいだけど、見えないからよくわからない。意識すれば感じられないことはないけどね。
いちいち精霊のちょっかいに構ってたらすごい疲れそう。意図的に見えないようにすることってできるのかな。できないなら、お疲れ様だね。
まあ、精霊がいつも周りにいるから退屈はしなさそうって言うのはあるかもしれないけど。
「ほんとに、変わった人ですわね」
褒められているのか貶されているのかわからないけど、まあ良くも悪くも変わった人だというのは認める。
人間であり精霊であり竜であるなんて人他にいないだろうからね。
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