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幕間:魔法の練習

 主人公ハクの視点です。

 何事も積み重ねというのは大事だ。

 最初は出来なくても何度も繰り返しているうちにできるようになってくるし、出来ることでもより高みを目指すことが出来る。

 積み重ねによって手に入れられる能力は数多いけど、途中でそれを投げ出してしまえばすぐに使えなくなってしまう。

 完璧でありたいと思うなら、常に積み重ねを行う努力を怠らないことが重要だ。


「ハク、準備はいい?」


「うん、いつでもいいよ」


 ここは森の中。いつもポーション作りに訪れる泉だ。

 見慣れた場所ではあるが、探知魔法で周囲の警戒は怠らない。今までも何度か襲われたことがあったしね。

 今回はポーション作りではなく、別の目的で来ている。それは魔法の練習だ。

 宿に帰った後、魔法陣の理論の復習や構築の考察などはやっているけど、実際に魔法を撃つ練習は長らくやっていない。

 いつも魔物相手に魔法を放っているから使っていないわけではないんだけどね。でも、それだけだとどうしても偏ってしまうから、一度復習もかねて色々魔法を使ってみようと思い至ったのだ。

 すでに泉の上にはアリアがスタンバイしている。今一度周囲に魔物の気配がないか確認した後、アリアに準備ができたことを伝えた。


「それじゃあ、始め!」


 アリアの掛け声とともに泉の水がうねり、複数の水球が飛び出してきた。

 身体強化魔法によって強化された目でそれを捉え、魔法を繰り出していく。

 まずは基本のボール系からだ。何事も基本は大事だし、一番取り回しがしやすいのがボール系だから。

 一番得意な水に始まり、一定の間隔を置いて火、風、土と変えていく。

 次々と打ち出される魔法の球は的確に水球を捉え、空中でその形を霧散させていく。

 ある程度撃ったところで水球が止んだ。それに合わせ、私も魔法を撃ちだすのをやめる。


「相変わらずすごい精度だね。百発百中じゃない」


「基本魔法だからね。精度はしっかりしなきゃ」


 魔法を習い始めたばかりの頃は的に当てることもできなかったのに、随分と成長したものだ。

 魔法の特性を理解してからはどうやって魔法を撃てばいいのかが明確になって構築も早くなったし、発生も早くなった。

 自分が魔術師としてどれほどの腕なのかはわからないけど、少なくとも一端の魔術師になれたとは思っている。

 いや、そうやって慢心してはダメか。

 魔法なんて適性さえあれば誰でも使えるものなんだから、鍛錬さえこなせば私のように初級魔法を連発するくらいはできるだろう。

 私が誇れるとすれば、魔法陣の解析による新たな魔法の構築くらいだろうか。

 戦闘でしか使えなかった魔法を生活に使えるように改良できたのはちょっとした自慢だ。……って、それこそ慢心か。


「次は中級魔法、ウェポン系で試してみようか」


「おっけー」


 アリアの合図に合わせ、再び構える。飛び出してきた水球目掛けて水の矢を放った。

 ボール系と違い、武器としての形を保つウェポン系は威力が高いのが特徴だ。その分、魔力の消費が増えるので制御が難しくなってくる。

 先程の様に見てから発動していたのでは少し遅い。あらかじめ展開しておき、的に合わせて照準を定めなければならない。

 それが結構大変で、やっていることは同じでもかなりの集中力を必要とした。

 瞬きを止め、息を止め、飛び出してくる水球の動きを欠片も見逃さないように目を凝らす。

 息が苦しくなり、集中が途切れかかった頃合いで水球の放出が止んだ。

 溜めていた息を吐き出し、その場に座り込む。


「お疲れ様。よくもまあ全部当てられるねぇ」


「はぁはぁ……結構ぎりぎりだけどね」


 どうしても初級魔法のように手軽にはできない。威力を求めれば消費する魔力が多くなるのは必然で、さらに武器の形を保とうとなれば制御もかなり難しくなる。

 いつもやっているようにボール系の魔法を応用して刃の形に変形させて使うというのは楽でいいけど、その分威力は低い。

 低級魔物ならそれでも十分かもしれないけど、オーガの様に強い魔物相手ではすぐに弾かれてしまう。

 いざという時に強い魔法が使えないとそういう時に困るから、面倒でもちゃんとやっておかないと。


「ちょっと休憩したら範囲系もやっておこうか」


「はーい」


 範囲系はその名の通り広範囲に魔法をばらまくものだ。精度はあまり必要ないが、かなりの魔力を食うので滅多なことでは使わない。

 主に大量の敵を相手にするときに使うものだけど、ウェポン系だけでも結構倒せるからね。

 ただ、より高みを目指すなら使えるようになっていて損はない。

 いつか使う時が来るかもしれないし。

 一度身体強化魔法を解き、目を休ませる。

 どうやら目に身体強化魔法をかけるとかなり負荷がかかるらしく、魔法を解いた後に頭痛に襲われることが判明した。

 短時間ならそこまででもないけど、あまり長い時間使っていると危ないかもしれない。

 オーガ戦の後も結構頭痛が続いていたしね。


 しばらく休憩した後、少し場所を移動した。

 範囲系は周囲の地形にも影響を与えることがあるから泉を荒らしたくなかったというのが理由。

 前に使った時も地面が抉れて大変なことになってたしね。


 さて、やるか。

 魔法陣を思い浮かべ、目の前の地面に展開する。

 広げようと思えばもう少し広げられるけど、環境破壊が目的なわけではないから範囲はできるだけ絞る。

 森になるべく影響を与えないように、とかも考えると、やはり使うのは水だろうか。

 そんなことを考えながら、魔法陣の色を決めると、目を見開いて発動のキーとなる魔力を注ぎ込んだ。

 その瞬間、轟音と共に大きな水柱が上がる。勢いのある水流は周囲の木を押し倒し、その場に小さな池を作り出した。


「こんなもんかな」


 相変わらず範囲系は規模が大きい。範囲は最低まで絞ったが、それでも軽く地形を変えてしまうくらいの威力がある。その分、魔力消費は尋常じゃないけど。

 正直あんまり使いたくない。今でこそ魔力が増えてそこそこ使えるようになったけど、使い始めた当初は使うたびにぶっ倒れてたからね。

 二重魔法陣を使えばそこそこ消費は抑えられるけど、それでもウェポン系より多い。もうちょっと抑えられればなぁ。


「アリア、どう?」


「…………」


「……アリア?」


『ハク、後ろ』


 辺りを見回してみてもアリアの姿が見当たらない。いきなり念話が飛んできて何事かと後ろを振り返ると、ガサガサと草を掻き分ける音が聞こえてきた。

 慌てて発動していた探知魔法を見てみると、気配が二つ近寄ってきている。

 魔物? いや、それならアリアが隠れる必要はなし……。

 混乱していると、気配の正体が姿を現した。


「ッ!? ハクちゃん!?」


「リリーさん? それにソニアさんも」


 現れたのはリリーさんとソニアさん。オーガ討伐の際にお世話になった冒険者達だった。

 え、なんでこんなところにいるの?


「ものすごい音が聞こえたんだけど、もしかしてハクちゃんがやったの?」


「え? あー、はい、そうです」


「辺りが水浸し……もしかして範囲魔法ですか? 何かに襲われたとか」


「いえ、ちょっと練習していただけです」


 話を聞くと、私が森に入っていくのを見て追いかけてきたらしい。でも、途中で見失って、さ迷っていると凄い音が聞こえてきたから来てみたらここだったのだそうだ。

 探知魔法は常に発動していたのだけど、練習に集中するあまり見逃していたようだ。うーん、これじゃ意味ないじゃん。反省しなきゃ。

 ふと、探知魔法を見てみる。すると、周囲にいくつかの気配が接近してきているのがわかった。


「あれ、これって……」


「ハクちゃん、気を付けて。どうやら魔物が集まってきてるみたい」


「結構多そうですね」


 うーん、多分音に反応してきたんだよね? 森の中で範囲魔法の練習をするのはだめかもしれない。

 素材目的で倒そうとするとずたずたにしてしまってほとんど素材が取れないし、今のところあんまりいいところがないなぁ範囲魔法。

 それはともかく、今は寄ってくる連中を倒さなきゃ。


「すいません。倒すの手伝ってくれますか?」


「もちろん。任せておいて」


「支援は任せてください」


 迫りくる魔物の群れに対抗すべく背中合わせになる。

 一つわかったことは、範囲魔法は敵を引き付けるための魔法として使えるということか。あんまり出番はなさそうだけど。

 飛び出してきた魔物を対処しながら、今後の課題として範囲魔法の使い道を考えていた。

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― 新着の感想 ―
[一言] ん〜、多分 普通の魔法使いはその魔法が行使できたらそれ以上その魔法を検証しないと思うんですよね。ハクさんは前世の検証厨な記憶に引っ張られるからとことんやってますけど、まあ明らかに未来の手札に…
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