第二百八十五話:対抗試合開幕
なんだかんだと色々トラブルはありながらも、無事に準備を終えて対抗試合当日を迎えることが出来た。
学園内は大掃除が行われ、校庭には運動会よろしくテントが張られたり観客席の用意がされたり、中には出店も出てたりしてさながらお祭りのようでもある。
対抗試合は学園同士の交流と成長のために行われる行事ではあるが、魔術師同士の対決や魔物との対決はやはり盛り上がるものらしく、闘技大会と同じように多くの観客が訪れている。
そのメンツは大体が生徒の親や知り合いだが、今回はその中にエルフが多く混じっている。
まあ、向こう側も考えることは同じなようで、子供の雄姿を見たいという理由でくっついてきたのだろう。
エルフは背が高く、いずれも美男美女ばかりなのでそこだけ空気が違って見える。学園側も向こうを特別視しているのか客席も結構いい場所に陣取らせているのがわかった。
エルフと言えば寮母のアリステリアさんを思い浮かべるけど、みんなアリステリアさんよりは若そうに見えるな。エルフの寿命は長いから、見た目通りの年齢でないことは確定だけど。
「ただいまより、我がオルフェス魔法学園と、ローゼリア森国よりローゼリア魔法学園による対抗試合を開催する!」
選抜メンバーである私達は校庭の真ん中に集められ、台の上で演説をする学園長の話に耳を傾ける。
周囲には多くの観客がいるが、中央には選抜メンバーである十人と監督役の先生しかいないのが少し寂しい。
長々と話す学園長の話を聞いているのも飽きるので、ちらりと隣に並ぶローゼリア魔法学園のメンバーを見てみる。
構成としては男子三人、女子二人のようだ。いずれも向こうの学園の制服を着ており、背中には立派な杖を背負っている。
あの杖はこちらで言うところのロッドだろうか。こちらは腰に差したりする短い杖なのに対して向こうはだいぶ長い。まあ、長さで性能が変わるかどうかは知らないけど、品質はだいぶよさそうに見えた。
お金持ちって言うのは本当みたいだね。まあ、杖も魔道具の一種だから自分で持ち込んだものかもしれないけど。
いずれも美形でかっこいい可愛いが揃っている。かなり大人びていてクールな印象。流石エルフと言ったところだ。
「では、十分後に第一試合を開始する。準備ができ次第、各陣営のテントへ集合するように」
ようやく話が終わり、準備のために一度解散となった。
どうやらこの後すぐに模擬戦となるらしい。
まあ、すでに魔道具は身に着けているし、アッドさんの宝石もすでに渡してある。後は最終確認をする程度だ。
「それじゃあ、作戦通りアッド君が先鋒でいいんですよね?」
「おう、まずは一つ、景気よく勝利をもぎ取ってきてやる」
いったん控室に戻り、作戦を確認する。
普通、初戦は小手試し的な意味合いが強く、メンバーの中でも比較的弱い人が選ばれることが多いと思うんだけど、アッドさんは全然気にしていないようだ。
宝石魔法という通常の魔法に比べて威力が劣る魔法を使うことから自分が火力面においては最も劣っていると思っているのか、それとも彼が言うように初戦を勝利で飾って勢いを付けたいのかはわからないが、まあ戦力面においてはエル以外はそこまで変わらないし順番は割とどうでもいい。
本来ならエルが大将でもいい気はするんだけどね。そこらへんはやはり私より上なのは嫌なのか私が大将ということになった。
作戦通り初戦をうまく勝利することが出来れば残り二勝すれば勝てる。運が良ければ私まで回ってこないかもね。
「宝石は大丈夫そうですか?」
「ああ、問題ない。むしろ、こんなでかい宝石使うのはもったいなくて少し気が引けるな……」
「いや、予備はありますから危ないと思ったらバンバン使っちゃってくださいね?」
「わかってる」
アッドさんは今まで小粒の宝石しか使ったことがなかったらしく、大きな宝石は初めて使うと言っていた。
まあ、練習はしたし、いっぺんに大量にばらまくことが出来ないことを除けば投擲には問題はない。刻印魔法を施した宝石は一つでも中級魔法並みの威力があるので早々火力負けすることはないだろう。
「それじゃあ、今までの練習を思いだして、悔いの残らないように頑張りましょう!」
「おおー!」
念のため、魔道具がちゃんと起動しているかどうかを確認し、テントへと戻る。
向こうはすでに準備を完了しているようで、全員がテントに集まっているのが見えた。
しばし待てばすぐに予定の時間となり、再び校庭の中央へと集められる。
着替えたのか、向こうは制服の上にローブを羽織り、杖は手に持っているようだった。
それにしてもあのローブ、どこかで見たような?
「それではこれより、オルフェス魔法学園とローゼリア魔法学園による対抗試合一試合目を行う。まずは互いに礼」
先生の指示に従って礼を取る。しかし、向こうは軽く会釈した程度だった。
アッドさんだってちゃんと礼を取っているのに、なんだか感じが悪い。
表情を見てみれば、にやにやとこちらを見下すように見る者、興味なさそうにそっぽを向いている者、ぎらぎらとした目で睨みつける者など様々だ。
睨んでいる人は私を見ているようだけど……私なんかしたかな。親の仇みたいに睨んでるんだけど。
ちゃんと礼を取らないのは問題だが、会釈でも礼に値すると判断されたのか先生は特に何も言わなかった。
「双方、正々堂々と紳士的な戦いをするように。それでは、まずは先鋒戦、対象者はフィールドへ、残りはテントに戻りなさい」
テントは少し離れた場所にあるが、そこからでも両者の試合は十分観戦することが出来る。
観客席とフィールドの間には魔道具による結界が張られているため流れ弾の心配はしなくても大丈夫だ。まあ、所詮は魔道具だからあまり強すぎる魔法を撃つと壊れてしまうけど、そこまでの事態にはならないだろう。
「アッド君、頑張ってね」
「言われるまでもない」
アッドさんは気合十分の様子で手に宝石を握り締めている。
あれだと宝石魔法を使いますと言っているようなものだけど……まあ逆に意表を付けるかな? 普通の宝石魔法よりは強いわけだし。
相手方は浅葱色の髪をした男性のようだ。皆御揃いのローブにお揃いの杖だからあまり特徴はないけど、強いて言うなら寡黙そうな印象を受ける。礼の時に興味なさそうにそっぽを向いていたのはこの人だ。
「これより、第一試合アッド対ミストレイスの試合を開始する。まずは互いに礼」
軽く会釈をする二人。アッドさんも礼儀を払わない奴には礼儀を払う必要はないと感じたのか、対抗して適当な礼を取ったようだった。
アッドさんは宝石を、ミストレイスさんは杖を持ち、双方構える。
さて、向こう方はどれほどの実力なのか、気になる所だね。
「それでは、始め!」
審判の掛け声とともに両者動き出す。
アッドさんが放った宝石とミストレイスさんが放った魔法がぶつかり合い、開幕にふさわしい大きな花火を上げた。
感想、誤字報告ありがとうございます。