第二百八十三話:妨害工作?
ロニールさんが持っていた魔道具すべてをミスリル鉱石一塊と交換するということで話はついた。
私は一応品質とかを確認した後【ストレージ】にしまっていく。
もっと親切にするんだったらあらかじめ精錬しておいてインゴットの状態で渡すべきだったかな。
鉱石の精錬に関してはアダマンタイトで手一杯だったのでミスリルは後回しになっていた。
どうせ売り切ることはできないだろうし、一部は精錬してしまって自分で何か作るのもいいかもしれない。土魔法を使えば鋳型は作れるだろうし、鋳造くらいならできるだろう。多分。
「ところで、ハクちゃんは今冒険者ランクはどれくらいなのかな?」
「Bです。ちょっと色々ありまして」
「やっぱりか。ハクちゃんならそれくらいはいくんじゃないかと思っていたよ」
ロニールさんはカラバから旅立った後、私と再会することがあればその時は上級冒険者になっているであろうと予想していたらしい。
確かに、あの時の時点でランクはCランクだったし、その後も何か活躍できれば上級冒険者になるのも時間の問題だと考えるのはおかしくはないか。
まあ、あの時点でCランクになったのは完全にやりすぎだと思うけど。
今は竜の力も解放され力が付いたと自覚しているからBランクという肩書も胸を張って名乗れるけど、あの時点ではどう考えても分不相応だった。
竜の力がなかったらBランクの肩書も重すぎると思っていたかもしれない。何事もほどほどが一番だよね。
「もしかして、前回の闘技大会で優勝したって言うのも本当かな?」
「あれ、何で知ってるんですか?」
「町の人達が噂してたからね。大活躍じゃないか」
闘技大会の件はもうほとぼりが収まったと思っていたけど、一部ではまだ騒がれているらしい。
うーん、あれはほんとに優勝はついでだったからあんまり騒がないで欲しいんだけど。あんまり目立ちたくない。
「Aランクに上がる日も近いかもしれないね」
「ランクにはあまり興味がないのでそれはないかと」
「おや、そうなのかい? ハクちゃんならSランクだって目指せると思うけどね」
Sランクかぁ。一応、現存しているらしいけど、ホムラ以外でその姿を見たことは一度もない。
その実力は化け物クラスで、もはや人間技ではないと言われているらしいけど、一体どんな奴らなのだろうか。
SランクになれるのはAランクの中でも特に凶悪な、魔王クラスとも呼べるような相手を討伐した者しかなることが出来ないとかなんとか聞いたことがある気がする。
まあ、お父さんの話を聞く限りここ700年の間に魔王と呼べるような魔物は出てきてないらしいから多分誇張もあるんだろうけど、それくらい言われるような実力が必要ですよってことだ。
うん、私には無理だな。いくら竜の力があるとは言っても、完全じゃないし。私はこのままBランクでいられればそれでいいよ。
「そういえば、リュークさんはどうしたんですか?」
「今は街を回っていると思うよ。しばらく滞在するつもりだったから、ギルドで依頼を受けているかもしれないね」
リュークさんはロニールさんの護衛依頼を受けた冒険者だ。
まだ新米らしかったんだけど、未だに一緒にいるってことはよほど馬が合ったらしい。
リュークさんにもお世話になったし、後で挨拶に行った方がいいかもね。
「それじゃあ、後でまた挨拶に伺いますね」
「そうしてくれたら彼も喜ぶだろう。何ならこちらから会いに行かせようか?」
「なら、今は学園の寮に住んでいるので学園の方まで来てくれたら門番さんに伝えておきますよ」
「学園? ハクちゃん学園に入ったのかい?」
「はい」
「なるほど。確かにオルフェス魔法学園なら魔法を学ぶにはぴったりの場所だろうね」
オルフェス魔法学園はこの大陸でも有数の名門校だ。勇者と魔王の戦いに関係する長い歴史があり、今でも数々の優秀な魔術師を輩出しているらしい。
まあでも、私の魔法理論とあまりにも違いすぎてあんまり参考にならないのがあれだけどね。一応詠唱魔法も覚えてはいるが、正直使う場面はない。
友達の交流とかが楽しいから別にいいけどね。イベントも楽しみだし。
「それじゃあ、帰ってきたら伝えておくよ」
「お願いします」
その後も色々と懐かしい話をしているとあっという間に時間は過ぎ、外が暗くなってきてしまった。
まずい、門限に遅れてしまう。私は名残惜しい気持ちを押さえつつ話を打ち切ると、学園まで全力で走るのだった。
翌日、いつものように訓練場に集まった面々にようやく魔道具が手に入ったことを報告する。
いやはや、本当にロニールさんがいてよかった。もしロニールさんが魔道具を持ってきてくれなかったら魔道具なしで挑まなくてはならなかっただろう。
私はそれでも多分大丈夫だけど、他の人はあるのとないのとでは戦闘のしやすさが大きく変わるらしいからね。無事に入手できてよかった。
「まさか本当に見つけてくるなんて……どうやって見つけたんですか?」
「たまたま知り合いの行商人が魔道具を持っていまして、譲ってもらいました」
「そんな偶然あるものなんですねぇ……」
テトさんが魔道具を取りながらしみじみと呟く。
今回、確かに運がよかったのに違いはないが、そもそも王都に魔道具が全然売っていないという事態の方がおかしいのだ。
実際、少し前までは普通に売っていたらしいし、それがなんでいきなりなくなったのかがよくわからない。
偶然と言われればそれまでだけど、ロニールさんが魔道具の買取を拒否されたってところを見るとなんか裏がありそうだよね。
「そういえば、魔道具の品薄ですけど、どうやら大本の商会が販売を止めているようですよ」
テトさんも独自に調べていたらしい。その結果、王都の店に魔道具を卸している商会が魔道具の流通を止めたことが原因のようだった。
その商会は結構な大商会で、他に魔道具を扱っている商会にも邪魔をして無理矢理販売を止めているらしかった。
もちろん、邪魔をしたというのは公には広まっておらず、盗賊に襲われたとか魔物に襲われたとかとして処理されているようだけど、裏の情報を漁ってみればそれはすべてその商会が仕組んだことだとわかったらしい。
「なんでそんなことを」
「さあ。でもこの商会、過去にも何度か同じようなことをやっているらしいんですけど、それがすべて対抗試合をやっている時期って言うのが少しひっかります」
対抗試合の時期に限って魔道具の販売を止めている?
それはおかしい。そもそも魔道具は誰でもある程度の需要はあるもので、普段から供給が薄いものだ。対抗試合の時期ともなれば周辺から見物客も集まってくるだろうし、むしろ売り時だと思うんだけど。
考えられる可能性としては、魔道具がすべて売れてしまって在庫がなくなるのを恐れているか、あるいは対抗試合に何かしら干渉したいかだ。
「対抗試合を邪魔するために魔道具の供給を止めてるってことですか?」
「わかりません。でも、店にある魔道具をほとんど買い取っていったって言うエルフの男も目撃されているみたいですし、もしかしたらローゼリア森国からの嫌がらせの可能性もありますね」
対抗試合に勝つためにわざわざ魔道具の販売を止めてこちらが魔道具を持てないようにしているってこと? だとしたら、どれだけ負けず嫌いなんだ。
魔道具の有無で確かに戦況は変わるかもしれないけど、それも多少不利になる程度。本格的に邪魔をするならもっと直接的な邪魔をしてきてもいい気がするんだけどな。
あんまり派手にやると追及されて事がばれてしまうから? どちらにしろ、これが真実だとしたらローゼリア森国とやらは性格が悪いな。
「対抗試合、何事もなく終わればいいんですけど……」
まだ見ぬエルフの顔を想像しつつ、そんなことを思った。
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