第二百八十話:防御用魔道具の必要性
対抗試合で出すための魔物を捕まえているとなると、デビルアーチャーが出てくるとしても後もう一体いるはず。できればそちらも調べたいが、その後新たにやらなければいけないことが浮上してしまったのであれからギルドに行けていなかった。
というのも、魔物討伐にしろダンジョン探索にしろ、必須ともいえるものをまだ入手できていないということが判明したのだ。
それは魔道具。その中でも主に身を守るための防御手段としての魔道具だ。
冒険者や騎士が敵からのダメージを軽減する方法として、一番簡単なのは鎧等の防具を着ることだが、その次に手軽なのが魔道具を持つことだ。
魔道具とは、魔石を核として様々な効果を発揮する道具である。例えば、氷の魔石を使った魔道具には食材などを冷やして保存する箱、要は冷蔵庫のようなものがあったり、光の魔石を使ったものではランタンとして光源に使われているものもある。
防御のための魔道具となると、身体強化魔法と同じような原理で、強い衝撃を受けた際に自動で発動し、持ち主が受けるダメージを軽減することが出来るという優れものだ。これを持つことによって、不意のダメージによる事故を減らすことが出来るので上級冒険者やお金に余裕のある国の騎士なんかは持っていることが多い。
ただ、問題点も多い。まず一つは攻撃を受けた際に必ず発動するとは限らないという点。
魔法攻撃のように一度に体の広範囲を攻撃された場合は高確率で発動するが、剣で切り付けられたりなど小さな範囲しか攻撃されなかった場合、不発に終わることもある。
これは攻撃された場所と魔道具を持っている位置が遠すぎるというのが問題で、多くの場合は急所の近くに持っているものだが、それ以外に対してはあまり効果はないのだ。
もちろん、全身にくまなく魔道具を持っていれば守れるだろうが、いくらダメージを減らせるとは言っても零にできるわけでもない。何の抵抗もなく急所を刺されれば当然痛いし、攻撃の威力によってはそのまま致命傷になることだってある。魔道具を持っているからと言って、無敵になるわけではないのだ。
次に値段の問題がある。魔道具の性能は魔石の大きさによって決まるが、小さな魔石では十分にダメージを殺し切れずに余剰分をそのまま食らう羽目になる。だから、より安全性を高めるためには大きな魔石を使った魔道具が必要となるが、魔石が大きくなれば当然値段も高くなる。
生活用品としての魔道具はそこまでの大きさはいらなく、場合によっては付け替えもできるため一度買えば何度でも使える場合が多いため、庶民でも割と気軽に買えるが、戦闘用品としての魔道具は基本的に使い捨てだ。
これは攻撃を受けた際の衝撃で魔道具の回路が破損してしまうことが原因であり、魔石がある間は守られていても、魔石の魔力がなくなった瞬間にその効果がなくなり、バキッと割れてしまうわけだ。
魔道具作りは手間がかかるうえ、魔石のサイズまで厳選していたら当然集まるものも集まらない。かといって魔石のサイズを落とした簡易版では寿命も早く、収入が安定しない冒険者や大量に必要とする騎士にはあまり向かない。
なので、手間はかかるし値段も張るが、一度刻めば自分の魔力がある限り何度でも使うことが出来る刻印魔法の方が重用されることが多い。
他にも魔石を巨大化することによる携帯性の悪さだったり、ただの石ころを魔石と偽って売りつけてくる詐欺商人がいたりと色々問題はあるが、今はそれは置いておこう。
「魔道具ねぇ……」
今回、対抗試合をするにあたってそんなものが必要なのかと言われれば、私は最初はいらないと思っていた。
だって、いくら魔道具を持ち込んでいいとは言っても魔道具の中でも高級品である防御用魔道具を生徒が購入できる前提で進めているわけないし、凶暴な魔物を倒しに行くとかならともかく、生徒同士の模擬戦くらいだったらそんなもの必要ないのではないかと思ったからだ。
なにせ、生徒が使う魔法の基本は下級魔法。下級魔法は一般人がまともに食らったら死に至るほどの威力を秘めてはいるものの、仮にも魔法耐性がある魔術師である生徒が食らってもそこまで致命的な怪我は負わないだろう。
それにこれは殺し合いではないし、もし危なくなったら先生が止めに入るはず。まあ、そりゃ持ってた方が痛くはないし安全だろうけど、必須かと言われたらそんなことはないと思っていた。
しかし、テトさんによればそれでは甘いらしい。
「魔道具を持っているのと持っていないのでは詠唱できる時間が明らかに違う、と。まあ、確かにバスバス撃たれている中で詠唱なんかできないよね」
詠唱をして魔法を撃つ場合、曲がりなりにもある程度集中する必要がある。そんな時に攻撃を当てられてめっちゃ痛いってなったら集中が途切れて魔法が不発になってしまうのだそうだ。
確かに、魔法は声を出す必要があるから、喉とかを狙えば必然的に声が出せなくなり詠唱を阻止できるというのはわかる。喉でなかったとしても、ダメージが通れば十分集中を乱すことが出来、仮に無詠唱だとしても撃てなくなる可能性が上がるのだとか。
そして、向こうは結構お金持ちらしく、魔道具は基本装備となっているらしい。ずっと負け続けていたのはその辺の理由もあるのではないかと言われているみたいだ。
「でも、魔道具が全然売ってないと」
本来ならそろそろ対抗試合に向けて魔道具を仕入れておきたいところであったらしいのだが、なぜか王都でそれらしい魔道具が売っていないらしい。
いや、確かに小さめの魔石を使ったものはあるらしいのだが、それでは心もとなく、やはり大型の魔石を使ったものが欲しいということで買い渋っているらしい。
まあ、アッドさんに至ってはもうお金ないらしいから買えないけど、そこらへんはテトさんが出すことになっているのだとか。
テトさんも割とお金持ちだよね。アッドさんに渡した宝石も最初はテトさんが用意してたし。
「何とかするとは言ったものの、まさかああなるとは……」
魔道具の必要性はわかった。でも王都では目当ての魔道具を売っているお店がない。それを聞いた時、じゃあ魔道具の産地に行けばいいじゃないと思った。
以前訪れたゴーフェンはドワーフの国で、魔道具作りが盛んだった。まあ、隣国だし、そこに行くための転移魔法陣はタイミング悪く使えないから普通の手段で行くことはできないんだけど、私なら転移魔法ですぐに行くことが出来る。
だから、私がゴーフェンまで飛び、魔道具を買って帰れば解決じゃんと最初は思ったのだ。
しかし、その考えは甘かった。なぜなら、そもそも防御用の魔道具はオーダーメイド製らしく、小型の魔石を使った簡易版以外は依頼して作ってもらわなくてはならなかったのだ。
国の騎士はもちろん、冒険者にも確実に売れるであろう魔道具なのにどうしてと思ったが、ゴーフェンは結構な強国でそこまで敵に襲われることがなく、年に数度の補充だけで賄えるほどに魔道具が余っているらしい。
冒険者相手にしても、買うのはお金に余裕がある上級冒険者ばかり。ならば、普通に店売りしても売れ残る可能性が高く、だったらオーダーメイドで作ればいいのではということになったらしい。
そもそも、防御用の魔道具は確かに多少身の安全を向上させてくれるが、必須というアイテムでもない。むしろ、大きくてかさばるためお姉ちゃんのような戦闘スタイルの冒険者からしたら邪魔であり、まともに店売りするメリットはあまりないのだとか。
ならば依頼して作ってもらおうとも思ったが、それには時間が足りな過ぎる。
魔石に関してはこちらで用意できるが、魔道具として納めるための基盤づくりに時間がかかるらしく、少なくともあと半月では出来ないと言われてしまった。
まあ、そりゃそうだよね。いくらドワーフがものづくりの名人とは言っても、そんなポンとすぐに作れるわけではない。詰めが甘かったと後悔するばかりだ。
「流石に皇帝に分けてもらうわけにもいかないし……」
国には余剰分ができるほどあるのだからそこに行けば現物はあるだろうが、まさかそれを分けてくださいと皇帝にお願いするわけにもいかない。
皇帝とは顔見知りではあるが、流石にそこまで不躾なお願いをできる仲ではないと思うからね。
「さて、どうしたものか」
こうなったら売ってるお店を片っ端から探していくほかないが、テトさんが探してなかったのだからおそらく王都にはないだろう。
となると、残るは持っている人から譲ってもらうか、運よく行商人か何かを見つけて買い取るしかない。
そんなことできるか? 無理だよなぁ……。
「あれ、君は……」
そんなことを考えながらぶらぶらと街中を歩いている時、不意に後ろから声をかけられた。
振り返るとそこには、久しぶりに会う私の恩人の姿があった。
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