第二百七十八話:ギルドで情報収集
放課後、エルを伴ってギルドへと向かう。
エルはお父さんに私の事を任されたことを誇りに思っているようで、その指示を全うしようとほぼすべての場所についてくるようになった。
授業でも、特に受けていない火魔法や闇魔法なんかにもついてくるので、少し話題になっていたりもする。
本来なら受講していない授業を受けるのはだめらしいんだけど、そこらへんは結構緩いのか先生も特に気にしていないようだ。
まあ、私としてもエルが一緒にいてくれるのは頼もしいし、特に嫌ということはない。まあ、トイレまで付いてこようとするのはやりすぎだと思うけど。
「さて、誰に聞こうかな」
なんだかんだでギルドに到着し、慣れた手つきで扉を開く。
休み中は全然依頼を受けていなかったからそのうち受けておかなきゃなとは思いつつも、今は対抗試合の事もあるしで当分は無理そうだな。
ギルドの中は相変わらず賑やかで、多くの冒険者達がたむろしている。
そういえば、差し入れもご無沙汰だよね。今度持って行ってあげないと。
私が入った瞬間賑やかさが増したように思えたが、そんなことは気にせず誰か知り合いはいないものかときょろきょろと辺りを見回す。
まあ、知り合いってだけならここにいる冒険者は大体知り合いなんだけど、今は放課後になってからそのまま来たから学生服姿であり、この姿で酒飲んだ冒険者に絡みに行くのはちょっとまずい気がする。
まあ、よさげな知り合いがいなければ受付に聞けばいいだけの話なので全く問題はないんだが。
「あら、ハクちゃんじゃない。どうしたの?」
と、そこにリリーさんがソニアさんを伴ってやってきた。
私が冒険者になりたての頃からの付き合いで、私の事を追って王都にやってくるくらいには私の事を気にかけてくれている冒険者。
同じBランク冒険者ということで話しやすく、情報を聞くにはうってつけの人物だった。
「リリーさん、ソニアさん、こんにちは。今日はちょっと情報を仕入れに来ました」
「情報?」
私は最近王都の近くに沸いたE~Cランクの魔物はいないかと聞いてみる。
Bランクであれば、Cランクが仕留めきれなかった魔物を倒す機会もあるので、指名依頼がない時はそういう依頼を回されやすい。もちろん、緊急ではないから受ける受けないは自由だけど、報酬が上乗せされることが多いので受ける冒険者は多いようだ。
リリーさんは少し考えた後、いくつか聞いたことがあると詳細を教えてくれた。
「まず、カラバの町の方でグレーターウルフが出たって言うのは聞いたよ。Cランクの魔物だね」
「まだこちらに依頼は回ってきてないので、多分向こうの戦力だけで対処できてると思いますけど、私達の拠点なので少し心配で……」
グレーターウルフはフォレストウルフの進化系とされている魔物だ。
体が巨大化して戦闘能力が向上しているほか、ゴブリンキャプテンと同じように群れを統率する能力を持ち、配下のフォレストウルフの危険度が増すためCランク指定を受けている。
とはいえ、Cランクの中ではまだ弱い方で、一般的なCランク冒険者パーティがいれば難なく倒すことが出来るくらいの相手だ。ソニアさんの言う通り、わざわざBランク冒険者が狩るほどの依頼ではない。
「戻った方がいいかしら? ハクちゃんにはサフィさんもいるし、そっちの強そうな人も付いてるし」
「向こうにはロランドさんもいますし、大丈夫だと思いますよ。まあ、心配だというなら止めはしませんが」
ラルス君達が少し心配ではあるが、グレーターウルフは森に住む魔物。よほど森の奥に入らない限りはそこまで襲われる心配はないし多分大丈夫だろう。
ロランドさんは街道のオーガが出た時も先陣を切って活躍した人だし、十分倒せるはずだ。
「そっか。なら、大丈夫かな?」
「はい、恐らくは。他には何か聞いていますか?」
「それなら、アズラエルの町の方に土竜が出たって話を聞きましたよ」
土竜とは、また珍しい名前が出てきた。
一応、モグラではなく土の竜、つまりドラゴンの一種なのだが、その特徴はまんまモグラだ。
土属性を司る竜は地竜と言われているが、その中でも翼を持たず、土の中を進むのに特化した竜が土竜と言われている。
普段は土の中にいて滅多に姿を現さないが、たまに地上に顔を出しては周辺の動物や人を連れ去っているらしい。恐らくは食料目的ではないかと言われているが、本当のところはよくわかっていない。
一応竜と言われているのでランクはBランクとされているが、ワイバーンと同じく劣化竜に当たるので戦闘能力はそこまで高くない。こいつが強いと言われているのは、あまり外に出てこないため戦うためには穴の中に入らなくてはならず、その穴の中が足場も悪く戦いにくいためそう言われているだけだ。
対等の状態で戦えるのならCランクくらいだろう。潜れなければブレスも使えないしそこまで強くない。
「なるほど、そう言うのがいるんですね」
土竜は正直来ないと思うが、グレーターウルフはワンチャンありそうな気がする。
ゴブリンキャプテンと同じく群れを作る魔物だし、難易度的にも大差ない。対抗試合なのだから、両者同じ程度の魔物でなければ不公平だし、全く同じ魔物を用意するのは難しいだろうから同じくらいの難易度の同じような魔物を用意する可能性はかなり高い。
依頼が上がってきていないって言うのもそれっぽいしね。
「ハクお嬢様、一つよろしいですか?」
「ん? 何、エル」
「対抗試合はおよそ三週間後。当日は模擬戦、魔物討伐、ダンジョン探索と全部で一週間ほどに渡って開催されるみたいですが、そこで使うのなら既に捕まえられていないとおかしいのではないですか?」
「……確かに」
闘技大会で使われる魔物って言うのはあらかじめ捕まえておいて、後でテイムすることで言うことを聞かせる。これは万が一生徒が殺されそうになった時、殺さないように言うことを聞かせるために行われる措置だ。
テイムは魔物がテイムする側の人を自分より強いと思っていなければ成立せず、テイムした人の言うことには絶対服従となる。そのため、テイムした人が殺すなと命令すれば殺さないのだ。
まあ、事故によって死ぬことはあるかもしれないが、普通に魔物と戦うよりはかなり安全に戦うことが出来るわけだ。
そんなテイムであるが、普通の魔物はどんな魔物も自分の方が強いと思っている。だから、素の状態で契約することは不可能だ。
だから、時間をかけて調教し、少しずつ強さのピラミッドを逆転させることによってテイムを可能としている。
テイムするのにどれくらいの時間がかかるかはわからないが、確かに三週間じゃ少ないだろう。なら、魔物は既に捕まえられていないとおかしいわけだ。
つまり、今騒がれている魔物がいたとしても、それは対抗試合に出てくる魔物とは関係ないってことになる。
「これは無駄足だったかなぁ……」
もっと早くに気付くべきだった。テトさんが言うからとっさに信じてしまったが、よく考えたら既に捕まえられていないとおかしいんだから所詮は噂だったということだろう。
まあ、別に魔物が何かがわからなくなったところで対応はあまり変わらないしいいんだけどさ。なんとなく悔しいだけで。
「そうでもないですよ? 今話題になっている魔物は違うかもしれませんが、以前に話題になった魔物なら可能性はあるのではないですか?」
「あ、そっか」
今でなくとも、それ以前に捕まえた可能性があるはず。冒険者が減ってその補充に時間がかかっているって言うのは一年前からの話だし、近場から調達したって言うのはあながち間違っていないかもしれないしね。
ならば、もう少し前の段階で話題に上がった魔物が候補に挙がる可能性は十分にある。
「問題は、範囲が広すぎるってことですけどね」
「だよね……」
頼める冒険者がいなかったというのが本当ならばそこまで前ではないと思いたいけど、仮にも学園の行事なのだから騎士を使って捕まえるという可能性もなくはないんだよね。
騎士はオーガ騒動の時主力が遠征に出ていてほぼ無傷だから補充の必要もないし、冒険者がいないなら騎士に頼んだという可能性も十分にある。
そうなると、もはや範囲は絞り切れない。長い間捕まえておくのはコストがかかるから恐らく長くても一年以内だとは思うけど、そんなに期間があったら大抵の魔物は候補に挙がってしまう。
「うまくいかないもんだね」
これはもう特定は諦めた方がいいかもしれない。
私は小さくため息を吐いた。
感想ありがとうございます。